最終話 終わりと始まり
「落ち着け!!」
突然ゼインの大きな手で目を塞がれる。
一瞬で目の前が真っ暗になる。
耳元でゆっくりとゼインが語り始めた。
「今の状況を見ろ。
お前の剣が使えなくなった以上、今出来ることは何もない。
お前に忠誠を誓った者たちは、お前がアーシュの元へ行くなら勝つ可能性がなく、死ぬとわかっていても身を投げ打ってお前についていくぞ。
勿論、お前が望むなら俺もそうする。
……だが、それでいいのか?
それはお前が本当に望んでいることなのか?」
視界を遮られて何も見えないせいか、ゼインの声が心に真っ直ぐに入ってくる。
また、視界に頼れない分、聴覚が過敏になる。
柱や壁がガラガラと落ちていく音が一層大きく聞こえてきた。
……このままでは、皆死んでしまう……
「じゃあ……どうすればいいの!?」
目の前の手を外され、一気に視界に光が戻ってくる。
「一旦、退くのだ。
こちらは、もう魔力や体力が残っている者はいないだろう。体勢を整える必要がある」
「アーシュを見殺しにするの!?
このままじゃもう元に戻れなくなるかもしれないじゃない!!」
声を荒げゼインの腕を強く掴んでしまう。
顔を上げると、ゼインは悲痛な面持ちでこちらを見下ろしていた。
「そうなるかもしれないし、ならないかもしれない。
ただ、今行けば全員が確実に死ぬ。
それだけは確かだ」
アーシュは己の周りを益々黒い炎で取り囲み、分厚い壁を創り上げでいるようだ。
周辺にどんどん黒い炎が広がっている。それに触れた壁や柱や床は崩れ始めている。
「もう時間がないのね……」
セインが静かに頷いている。
「わかった……」
決断するということは覚悟をするということ。
今回の決断が正しいかどうかは後になってみないとわからないだろう。
ただ、最善の策を選択しなければならない。
背後にトニーやフラン、アーサーが待機している。
背後を振り返りながら伝える。
「ここを出る。一旦、退くことにする」
「そんな……アーシュは……?」
トニーが表情に戸惑いを現し聞いてくる。
「今は何も出来ないから……」
言いながら胸が苦しくなる。
昔の記憶のない私よりトニーの方が辛いのだ。
トニーとアーシュは、幼い頃からずっと兄弟のように共に過ごしてきた。
この事実を受け入れ難いのも仕方ない。
「置いて行くっていうのか……?」
トニーの言葉に私に対しての不信感が込められているのがわかる。そして私に距離を詰めてくる。
トニーが言わんとしていることぐらいわかる。
それを思うとますます胸が締め付けられる。
心が呼吸出来なくなってくる。
でもこの言葉はきちんと受け止めなければならない。
「嘘だろ? 実の弟じゃないか!!
アストラも失ってアーシュまで失っていいのかよ!!」
トニーに力強い瞳で突き刺されるように見られ、思わず口をつぐんでしまう。
でも駄目だ、ちゃんと向き合わないと。
口を開こうとした時、フランが私とトニーの間に入ってきた。
優しくもしっかりとした声で諭すように話す。
「トニーさん、メアリーちゃんがこう言ってるんです。従いましょう。
トニーさんが言ったことを全て覚悟した上で言ってるんでしょうから。辛いのはメアリーちゃんも同じですよ。
生半可な覚悟じゃないはずです」
フランに代弁してもらい、庇ってもらえて泣きそうになる。だが歯を食いしばり、ぐっと涙を堪える。
「トニー、ごめん。
今はこの選択しかないの。
もう誰も失いたくないから」
トニーが何も言わないことを確認し、皆で城からの脱出を目指す。
できるだけの力を振り絞りその場を後にする。
大広間を出る時、天井が崩れ出した。
アーシュの姿は黒い壁に覆われもう見えなくなっている。天井が崩れたとしてもこの魔力があれば傷一つつかないだろう。
外へ出て城を見ると崩れ落ち始めているのがわかった。だが、アーシュの魔力の炎が城外に及び始めたので逆にアーシュが生存しているんだろうということがわかる。
安堵感と不安感の両方を覚える。
これが外の世界へ広がるとどうなってしまうのだろう。
これから私たちは新たな運命へと歩き始めることになった。
これが後に語り継がれる「魔王誕生」である。
看護師が異世界の令嬢に転生しスキルを使って無双する話だったハズなのに!?
〜始まり編〜
完




