復讐
ゼインはメアリーたちの様子をただただ見守っていた。
どう動いたらいいかわからず、そうするしかなかった。
そこには他者を受け入れない、三人だけの空間が広がっていたからである。
「もういい……」
アーシュが涙を拭きながら呟き、立ち上がった。
「アーシュ……?」
アーシュの様子が何か違う気がする。
見上げるが目が合わない。
「命の大切さなんかどうでもいい。国王を殺す」
険しい顔に殺意が込められているのが伝わってくる。
そのままの瞳でアストラを見ている。
アーシュの見たことがない表情に不安を覚える。
とりあえず腕の中のアストラを床にそっと寝かせた。とても穏やかな顔に見える。
アーシュを涙を堪えながら見上げる。
「私も許せないよ。国王のせいで、兄さんのこの瞳に私たちが映ることはもう二度とないんだから」
「全部全部あいつのせいだ。
あんなの父親でもなんでもない」
剣を握る手に力が入る。
「わかるよ! わかるけど殺してほしくない!!」
「は……? 何言ってんだお前」
私の言葉に対し軽蔑した目を向けられる。
「アーシュの手をあんなやつのせいで穢したくない……」
「じゃあ何? この国王の言うとおりにするのか?
話してわかる相手じゃないことはよくわかっただろ」
アーシュの言う通りだ。
どうしたらいいのかもわからない。
「お前は何もしなくていいから、そこで見とけ」
アーシュは剣を持ち歩き出す。
アストラを凌ぐ国王の力を見た。
その力にアーシュが勝てる訳がない。
このまま行かせてしまえば確実に死ぬだろう。
アーシュを絶対に失いたくない。
慌ててアーシュの左腕を掴む。
「待ってアーシュ!!」
アーシュが剣を動かしたので反射的に掴んだ手を離した。離した手に剣を振られ、ピッと血が噴き出る。
すぐには事態を把握出来ず、そして起こったことが信じられず自分の手に目を落とす。手のひらから赤い血が滴り落ちている。
……え? アーシュが私を斬ったの……?
アーシュを見ると動揺もせず、蔑んだ目でこちらに視線を落としている。
「邪魔する奴も殺す。
……たとえ誰であっても」
見たことがないアーシュの冷たい視線にゾッとする。けれど、ここで引く訳にはいかない。
アーシュが背を向け歩き出した。
嫌だ。このままじゃアーシュが遠くに行ってしまう気がする。
「ちょっと待ってって!!」
「メアリーさん!!」
追いかけようとするとアーサーに腕を引っ張られる。
「アーシュさんの剣を見てください!!
今近づいては危ないです!」
アーシュの剣は今まで魔力で青く光っていたが、刀身は黒くなり、全体も黒い炎のようなもので囲まれている。
剣自体が黒い炎と一体化し、燃え上がっているように見えた。
「何なのあれ……」
「闇の力が出始めてるな」
「ゼイン!!」
ゼインがいつの間にか近くに立っており、眉をひそめアーシュを見ている。
「闇の力……?」
「ああ。
……前から疑問に思っていたのだ。
お前たちは同じ血筋のはずなのに、なぜアーシュだけがお前やアストラのような力を持っていなかったのか」
「本当は同じような力を持っていたということですね」
アーサーが口を開いた。
頷いているゼインを見上げながら続けている。
「しかも魔剣を手にしましたからね……」
「ああ……
メアリー、お前にはこの魔剣のことから教える必要がありそうだな」
私の言葉を待たずに、ゼインはそう言いながら私の赤い剣を手にする。
その剣を私に持たせ自分の腕に刃をあてる。
「え!? ちょっと!! やめて!!
そんなことしたらゼインの腕が……!!」
手を離したいのにゼインに手と剣を一緒に握られているので離すことが出来ない。
私の動揺など気にも留めず、剣を握らせたままスッと腕に剣を通した。
怖くてそれを直視出来ず思わず目を逸らす。
だがすぐに剣で斬った感触に手応えがないことに気付く。
「よく見ろ」
ゼインの声が上から聞こえたのでそれを見る。
腕は全く斬れておらず傷一つ出来ていない。
「……どういうこと?」
「この魔剣はお前が望んだ時にしか斬れないようになっている。しかも魔力がなければ斬ることは出来ない」
「だからリオールのミサンガは切ることが出来たのね……
え! 待って! それでいくと私の魔力は……」
「そうだ。ミサンガを切った時点から使えるようになっている」
「そうだったんだ……」
アーサーが隣に来て口を開く。
「覚えてますか? 壁画を観に行った時のこと。
描かれていた女神も赤い剣を持っていました。
そして、青い剣は攻撃、赤い剣は防御として使われると我が国では語り継がれてきました。
この剣は攻撃から人々を守るために作られたのでしょうね」
「そう言われればそんな剣が描かれていた気も……。
元々あの女神像は人々を救った伝説があったよね?
この剣を使えば人を救うことが出来るのかな……」
アーサーの背丈が見上げるほど高くなっていることに気付く。前に会った時は同じくらいの目線だったのに。
目が合うと目を細め微笑んでくれる。
「私はメアリーさんを信じてます」
シルバーの瞳はレアンを彷彿とさせる。
その時、突然轟音が響き渡った。




