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異世界転生した看護師の規格外な冒険物語 ※なお、スキルに頼れたのは最初だけ(悲)  作者: VANRI


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アストラの願い

 城内にメアリーとアーシュが入って来た時、

喜びと同時に恐怖が襲ってきた。


 ああ終わりが来たのだと。

全身の細胞一つ一つまでもが震え上がる感覚。



 すぐさま二人の元に行きたい。

だが、父を裏切れない。


 二人から目を離せずにいると、不意にアーシュと目が合う。

 その目でわかる。

この子はメアリーより感覚が優れている。察知能力も高い。周囲の状況から俺のことを察したな。

即座に判断ができるとは素晴らしい。


 こうして二人同時に見るとやはり似ているな。

幼い頃と違い、男女差は出てきているが。

その成長を近くで見たかった。共に過ごしたかった。





 アーシュとメアリーが13歳を迎える頃、父は自分を死んだことにすると言った。

 父に背格好の似た者を殺し、父の服を着せ火をつけた。

 それを盗賊の仕業に見せかけ、国の者に発見させた。

それを知った民は悲しみに明け暮れたと聞いた。

そして父はこの国で暮らし始めた。

やっと父と一緒に暮らせると心が躍った。


 だが、楽しいものではなかった。



 父が語る国は理想的で素晴らしいと思った。

全ての国を一人の王が統一出来れば争いは起こらない。

 人が争いで命を落とすこともなくなる。

 今から産まれてくる子供たちが、将来殺さないといけない分を俺が身代わりになり今殺し、その子供が大人になる時は殺めなくていいようにする。


 父が命ずるままに人を殺した。目を背けたくなるようなことだってした。

 全部正しいと思ってた。

だが、心は晴れない。正しいはずなのに。


 父の意思に反する者は全て殺す。

そうするしかない。邪魔をされては父の理想が実ることはないからだ。

 『父は正しい』

 それ以外の思想を教えられていないからそう思うしかない。


 未来のために。平和な世界のために。

そのために多少の犠牲はやむを得ない。

たとえ誰かに恨まれようと未来のために必要なことだ。

 それを成すには力が必要だ。魔力が高い者が必要となる。


 父は俺ではない、俺の魔力を欲していた。

魔力が強ければ誰でも良かったのだ。

そこら辺にいる虫でも良かったのかもしれない。



 そして、やはりメアリーは父のやり方に納得しなかった。

それどころか父を憎んでいる。同意なんて出来ないのだ。


 仕方ない。育った環境も考えも違う人間が世界には無数にいる。その中で考えを理解できる者に出会えることの方が奇跡だ。


 憐れだと思った。


 俺が。

 目の前に愛する弟妹がいるのに、その手を取れない自分が。



 戦意喪失したメアリーの仲間たちが、メアリーの言葉によって生気を取り戻し士気が突如として上がった。

 凄い。お飾りの姫ではなかったのか。

俺は、父が「殺すには惜しい」とほくそ笑んでいたのを見逃さなかった。



 叶うことなら一緒にこの国を創っていきたかった。

だが、メアリーの話を聞いて何が正しいかわからなくなってくる。心や思想が揺らいでいくのを感じる。


 ……もうどうでもいい。




 父がメアリーとアーシュに放った攻撃は、脅しではなく本当に二人を無にすることが出来るほどの威力だった。

 俺の魔力を全て使ったとて無理だろう。

 だが、一つだけ手がある。

 自分の生命を使えばいい。

生命の全てを魔力に変換すると魔力増大が出来る。



 ただ、俺は確実に死ぬ。


 この二人はそれをするに値する。

生命と引き換えでも守りたい。

もし守れなくてもこれをやる価値がある。


 気付くと身体が動いていた。



 父の攻撃を受け、生命力も魔力も尽きた俺は立つことすら出来なくなった。

 その中でも少しの言葉を発することと、手をわずかに動かすことは出来そうだ。

 ……もう痛みすら感じない。



 メアリーとアーシュが手をとってくれた。

二人とも泣いている。

 悲しませてしまったのか……

最後まで駄目な兄貴だな。


 二人の口から「兄」という言葉が溢れる。

ずっと聞きたかった言葉に包まれ心が満たされる。


 「死なないで」と言ってくれるがそれは聞き入れられない願いだ。

 なんでも願いは叶えてあげたいのに。


 ごめんね。



 俺だって死にたくないよ。

やっときょうだい三人揃ったのに。

こんなに近くにいるのに。


 でも二人と同時に手を繋げて嬉しいな。

子供の頃これを何度想像したことか。


 俺は人に誇れるような生き方は出来なかった。

だが、この子たちは俺と対照的に素晴らしい生き方をしている。人々の生命を重んじることが出来る。



 ……どんどん二人の声が遠のいていく。

 手の感覚までなくなっていく。

 君たちの顔がもう見えないよ。



 悲しいけど、さよならなんだね。


 そばにいたいのに、もうお別れなんだね。




 神様、どうかこの二人を良い方へお導きください。



 そして、またこの子たちの兄として生まれ変わらせてください。

 それが叶うならば正しいことしかしない人間になって生きるから。

 どんな罪も償うから。どんなに苦しくても耐えるから。

 次こそはこの子たちと共に生きさせてください。




 今度生まれ変わったらたくさん遊ぼう。

 たくさん手を繋ごう。


 そしてまた必ず君たちを守るよ。




 今まで苦しいことや悲しいことばっかりだったけど、

 最後に願いが叶うなんて、今まで生きてて良かった



 ありがとう



 二人とも愛してるよ






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