アストラの想い
メアリーもアーシュも羨ましい。
二人が産まれると聞いた時のことは忘れない。
三歳だったが兄になることに喜びを感じたものだ。
一緒に遊びたいと願ったが、父に聞き入れてもらえなかった。俺は死んだことになっているからだ。
名を名乗らず一般市民のフリをすればいいと言ったが、同じくらいの年齢で同じ髪色、同じ瞳の色をして、似たような顔であればすぐに勘付かれると言われる。
その通りだと思った。
バレてしまえば全てが泡となり消える。
遠くから見ることしか許されないのだ。
でも本当は手を繋いで歩きたい。一緒に遊びたい。
「兄さん」って呼ばれたい。
困った時に助けてあげたい。
だが、夢や希望を持てば持つほど打ちひしがれ、
虚しくなるばかりだった。
もう会うことすら望まなくなった時にメアリーを見かけた。ひと目でわかった。
思わず後を追いかけた。
人気のない山道を行くので心配になる。
足早に二人を追いかける。
だがその足を一旦止めた。
……会ってはならない。
そう言われてきた。
……だから。
……追いかけてはならない。
背を向けようとした時に悲鳴が聞こえた。
頭で考える前に体が動き、気付くとメアリーに向かって手を伸ばしていた。
初めて触れた妹の手は小さかった。
ずっと手を繋ぎたかった。やっと繋げた。
思わず顔がほころぶ。
息があがっているので背をさすってやる。
少しは楽になるといいんだけれど。
落ち着いたのか、やっと目が合う。
俺と同じ金の髪、緑の瞳。
やっぱり同じなんだ。アーシュも同じなんだろうな。
単に嬉しい。今まで目が合うことでこんなに喜びを感じたことがない。
やっとメアリーの瞳に俺が映ったんだ。
いつも俺ばかり見ていたが君の瞳に映ったのは初めてだろう?
こんなに近い距離で、吐息まで聞こえる距離に近付けた。胸が高鳴るのを感じる。
アーシュばかりが表舞台に立っていたのでメアリーを見たのは二、三歳位の頃が最後だった。
こんなに近くで見れるなんて嬉しい。
夢に何度見たことか。
あの頃は小さかったのに、こんなに大きくなったのか。元気そうで本当に良かった。
父も母も死んだと聞かされどんなにツラかっただろうか。それを乗り越えたのかこの子は。
「兄」だと伝えたい。ずっと会いたかったと。
この子は気付いていないのか。
靴がないので抱えあげた。少しでも長くそばにいたい。
次に会える保証もない。永遠に会えない可能性だってある。
沢山話をして、触れて、この瞳や表情や温かさを長く心に刻んでおきたい。
アーシュとも話したい。触れてみたい。
どこが目的地か聞いて、「やはりそうか」と思った。
でなければこんな遠い所まで来ないだろう。
招待状が出されたことすら知らなかった。
一気に現実に引き戻される。
父の狙いも知っている。今さらやり方を否定するつもりもない。
我が国に来るということは……
別れの時が近付いているということか。
せっかく会えたのにな。
これが運命なのか? 宿命か?
俺がどこかで選択を誤った?
……どうにか出来ないものだろうか。
三人で一緒に生活するなんてやはり夢物語だったのか。
だが今はこの時を大切にしよう。
目の前にメアリーがいて触れることが出来るなんてこんな幸せなことがあるだろうか。
別れ際に抱き締めさせてもらう。
美しい金の髪は指通りがよく、サラサラと指の間をすり抜けていった。やはり見た目だけでなく質感も俺の髪と似ているんだな。
王女なのに偉ぶることもなく、人を気遣うことができる子になっていた。
見た目だけでなく心も美しく成長してくれた。
一旦別れを告げる。
だが、モネが勝手にメアリーを連れて来る。
フランがわかりやすく動揺しているし、ザイオンはメアリーに興味を示している。
小屋から出て来た三人の前に現れると三人とも血相を変え跪いた。
三人を死なない程度に痛めつけ、メアリーを俺に引き渡すよう言い、国へ返した。
あんな奴らにメアリーが触れられるなんて許せない。殺したって良いくらいだ。目に入ることすら許せない。
一緒に住むことを提案するがやはり簡単には承諾してくれない。
だがとりあえず家に連れて行くことにした。
数日一緒に過ごしたが、とうとう仲間に見つかる。
メアリーは俺でなく仲間を選ぼうとする。
やはり、過ごした時間に勝てないのか。
痛みのない夢の世界に連れて行ったのに、いとも簡単に捨てられるのか。
それを制止すると、一緒に来ないかと言われた。
そんなこと言ってくれると思ってなかったので、とても驚いたが嬉しかった。
アーシュにも会えるのかな。会いたい。触れたい。
答えはすぐ決まった。迷う理由なんてない。
アーシュを見ると自然に身体が動き出しており、抱き締めた。
そしてアーシュが俺の正体に気付く。
流石だな。
やっと二人に兄だと伝えることが出来た。
これを何年望んできたか。
それから数日、アーシュとも一緒に過ごせた。
夢のような数日だった。
もう死んでもいいと思うくらい幸せだった。
一秒一秒が光り輝いて見えた。
二人はいい仲間に出会えていた。
互いに思い合う仲間がちゃんといた。安心した。
最後に「国に連れて帰る」という約束をしてもらう。
わかってる。約束は果たせない。
これは自分自身に生きる希望を持たせる為の約束に過ぎない。
みんなで一緒に暮らせたらどんなに幸せか。
そして一旦、別れの時が来る。
……次に会う時は俺と君のどちらかが死ぬ時だろう。
今しばらくさようなら。




