アストラの戦い
「……もうよい。邪魔者は消してやろう」
不意に階段の上から国王の低い声がした。
その声を聞いて慌てたようにトニーとフランが国王の方へ剣を構える。
アストラが即座に動き出し、それを見てゼインが何かに気付く。
「違う……」
ゼインは急いでトニーとフランへ声を上げた。
「違う! 国王の狙いは……!」
その時、アストラがゼインに触れるか触れないかの位置を通り過ぎる。
『あとは任せた』
アストラの声が風の音に混じり耳に届く。
「アストラ!!」
走り去っていくアストラの背を目で追った。
その瞬間、アストラの向かった先で巨大な炎と爆音が起こり、煙が上がって辺りが一瞬で見えなくなった。
――――――
「メアリーさん!! 大丈夫ですか!?」
その声を聞いてぼんやりと目を開けた。
気を失っていた……?
「アーサー……」
いきなりのことで何が起こったかわからなかった。
突然の大きな音と衝撃が走り、身体が吹き飛ばされて壁に打ちつけられた。
確か、国王が何か話して、こっちに手を向けて……
アーシュは大丈夫だろうか。
近くにいたから同じように吹き飛ばされたんじゃないか。
煙のせいで周りがよく見えない。広間の壁もいくらか崩れている様子。何かが焼ける匂いや小さな炎もあちこちに見える。
身体中どこも痛いが起きて状況を把握しないといけない。
アーサーに支えてもらいながら身体を起こし、
辺りを見回すと離れた所に座っている人影が見えた。
あれはアーシュ……?
落ちていた自分の剣を拾い杖代わりにし、アーサーに支えてもらいながらその近くへ行く。
近付くにつれその光景がわかるようになる。
掴まっていた剣を捨て、アーサーの手を振り切りそこへと走る。つまずきながらも一目散にアーシュの元へ急ぐ。
「アーシュ……」
アーシュの背後に立ち声をかけた。
「兄さんが……助けてくれたんだ……」
アーシュは振り返らずに答える。
アストラが倒れており、アーシュはその横に座り込んでアストラの右手を握りしめている。
アストラの身体は一目で助からないとわかるほどの傷を全身に負っていた。出血部位も数え切れないし、出血量も多い。
アーシュの瞳から涙が溢れている。
私も反対側に座り込み、もう片方の手を握る。
アストラが消えそうな吐息とともに声を絞り出す。
「二人とも……無事か……?」
アーシュが震える声で答える。
「無事だよ! 俺もメアリーも!
兄さんのお陰で……」
「そうか……良かった……」
アストラはうっすら目を開けた。
力ない笑顔を見せる。
「やっと二人に触れることが出来た……」
「兄さん!! 嫌だ! 死なないで!!」
アーシュに続き私も叫ぶ。
「兄さん!! もっと一緒にいたいの!!
何もいらない、何もしなくていいから……
お願い、そばにいて……」
涙でアストラの姿が滲んでしまう。
「そう出来たら良かったのにな……」
アストラがそう言いながらゆっくり瞳を閉じる。
「嫌だ!! 兄さん!! 目を開けてよ!!」
アーシュが身体を抱き締める。
「お願い!! 死なないで!!」
私も同じように強く抱き締める。
アストラが瞳を閉じたまま消えるような声で呟いた。
「ありがとう」
握り返していた弱い手の力がすっと抜けた。
「兄さん!? 兄さん!! 嫌だ嫌だ嫌だ……!!」
アーシュが身体を揺さぶる。
自然と言葉が溢れる。
「兄さん!! 兄さん!!
やだよこんなの!! 目を開けてって……!!」
涙が止まることなく溢れてくる。
泣き過ぎて呼吸も乱れてくる。
アーシュも同じように泣いている。
どんなに声を上げて涙を流してもアストラは動かない。
もうアストラの瞳が開くことはないのだと思い知らされる。
だがアストラから離れることが出来ず、ただただ泣くことしか出来なかった。




