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お使いと奢り

 作ったお菓子を冷魔庫に入れ、冷魔庫の扉を閉める。


「ふー、これでよしっと」


 後は味が馴染むのを待つだけだ。


「さてと、うーん、まだ3時半か、どうしようかな?」


 コメを火にかけて鍋の火を止めて、鍋の中を蒸らしながら、キッチンにある時計を見ると夕飯の支度をするには大分中途半端な時間だ。


「うーん、ルウを連れて一旦、自分の部屋で一休みしようかな?」


 そう考えていると、


「シェナちゃん」

「あ、ココロさん」


 キッチンにココロが入ってきた。

 心なしか、スッキリした表情をしている。


「お菓子作りはもう終わったの?」

「はい。今、冷やして味を馴染ませているところです」

「あら、そうなの?お手伝い出来なくて、ごめんなさい」


 手伝いをしに来たが間に合わなかった事にココロは眉を下げ、申し訳なさそうにする。


「いいえ、大丈夫です」

「晩御飯の支度ももう終わったの?」

「下準備はもう終わりました。今日はコロッケとミソスープとコメのゴハンの予定です」

「あら!コロッケって、ムム芋を茹でて潰して油で揚げたよね?準備大変だったでしょ?」

「もうタネは出来上がっているんで、後は衣を付けて揚げるだけです」

「あら?そうなの?あ、でも、」


 そう言いながら、ココロさんが冷魔庫の扉を開けると、何かを取り出した。


「ああ、やっぱり。ソースが残り少ないわ」

「え?」


 ココロさんが取り出したのは縦長の瓶で黒々とした液体が4分の1ほど入っていた。


「ありゃー」

「4人分で使うには、ちょっと足りないよね?」

「そうですね」


 コロッケを始めとする揚げ物にはソースと言う調味料が必要不可欠。

 無くても食べれない事は無いが、満足度が違ってくる。

 となって来ると、シェナの未定だった予定が決まった。


「ココロさん、ルウの事、もう少しお願いしていいですか?」

「え?それは大丈夫だけど、どうしたの?」

「ちょっとソース買ってきます。なのでルウの事お願いしたくて」

「あら、お買い物なら私が行ってこれるけど、」

「丁度、買い足したい物もあったんで、ついでに買ってきます」

「うーん、じゃあ、お願いしましょうかな?」

「はい」


 笑顔のココロさんの承諾を得て、シェナは荷物を取りに自室へ向かった。

 必要な財布と肩掛けの鞄を取り部屋を出て、買い物に行こうと、玄関へ足を運んだが、


「・・・・・・・・・。ついでに、連れて行くか」


 そう呟いたシェナは、ある場所へ方向転換した。


 向かった先は、一階の宿部屋。

 ユージーンの部屋だ。


 コンコンコン


「ユージーン、シェナだけど、今お邪魔して大丈夫?」

「!、ああ」


 ドアをノックし声をかけると、ドアの向こうからユージーンの声が聞こえた。


 ドアはすぐに開き、少し驚いた様子のユージーンが顔を出した。


「ごめん、休んでた?」

「いや、大丈夫だ。ところで何か俺に用か?」

「うん、ちょっと付き合って欲しくて」

「付き合う?」

「うん。荷物持ち」

「はい?」


 あまりにも平然と荷物持ちと言ったシェナにユージーンは間抜けにも「はい」と言ってしまった。



「それじゃあ、シェナちゃん、ユージーンさん、2人共気をつけてね」

「はーい」

「・・・・・・はい」


 笑顔のココロに見送られ、シェナと何故か荷物持ちに付き合わされユージーンが困惑している顔をしていた。


「何故俺を連れ出した?」


 杖をつき歩き、お使いの道すがら、ユージーンが至極当然の事を聞いてきた。


「言ったでしょ?荷物持ちだって。嫌だった?」

「いや、嫌と言うよりも、戸惑いが大きいな」

「まあ、当然よね。でも、ちょっとユージーンに会わせたい人がいるからついでにね」

「会わせたい人?」

「うん。まあ、結構変人だけどね」

「は?変人?」

「初めて見ると驚くかもしれないけど、慣れたら面白いよ。変人だけど」

「ん?買い物に行くのに変人に会いに行くのか?」

「行けば分かるよ」


 そう言いながら歩くシェナにユージーンは困惑しながらついて歩いていく。


「ここ」


 たどり着いたのは街の裏路地に建っているとある店だった。

 店先の看板にド派手な文字で『愛のソースの泉』となんだか怪しげな看板が掲げられていた。


「・・・・・・既に看板から怪しさを感じるんだが、」

「まあ、一般的なお客はあんまり近寄らないね」

(俺は今からここに入るのか?)


 看板の怪しさに入店を拒みたくなる。

 だが、そんなユージーンの心境をよそにシェナが店の扉に手をかける。

 だが、その瞬間、ユージーンは扉の向こう、店の中から異様な気配を感じた。


「ッ、待て!」

「ん?」


 ユージーンがシェナを止めようと手を伸ばすが、シェナが手をかけた扉が開いた。


「いっらっしゃいませぇぇぇーーー!!」

「ッ!?」

「うるさ、」


 店の中から力いっぱい元気いっぱいの掛け声にユージーンは驚き、シェナは声のうるささに顔を顰めた。

 出てきたのは褐色の肌をした若い男だった。

 短い黒髪に眩しいくらいに輝く黒眼。

 そして、程よく鍛え上げられた褐色の上半身・・・・?


 いや、何故、上半身裸??


「なんで、裸なのザンザ」

「シェナさんがご来店とあらば、例え火の中に居ようと水の中に居ようと、魔獣の胃袋の中でも這い出てきて真っ先にお出迎えいたします」

「食べられたなら、そのまま消化されていなさいよ」

「あ、ひどい・・・・」

「と言うか、なんで上半身裸?仮にも経営者ならお客様の前で裸で出迎えるのはどうなの?」

「下半身はちゃんと履いている」

「下半身も裸だったら速攻でギルドに通報してエマさんに去勢しもらうわよ」

「それだけは勘弁して下さい」


 エマさんと言う言葉に男は真顔でシェナに深く深く頭を下げた。


「知り合い、なのか?」


 妙に親しげな雰囲気にユージーンは更に困惑する。


「知り合い、と言うか、ある意味腐れ縁ね」

「腐れ縁?」

「正確には私の母さんのね。ユージーン、この人はザンザ」

「ご紹介預かりました。俺の名前は、ザンザス!!!愛称はザンザ!!!このソース専門店『愛のソースの泉』の店長にして、シェナさんのお母様であるルリコさんの一番弟子さ!!」


 ニカッと眩しいくらいの満面の笑みで笑うザンザスの歯がキラリと光った気がした。


「自称、母さんの弟子を名乗っている、テンションが異様に高い変人です」

「シェナさん、ひっどぉい・・・・」


 だが、シェナの軽いあしらいに、がくりと肩を落とす。


「で、この街1番のソース職人でもあるの」

「ソース職人?」

「そう!!俺はソースを極めソースを愛する男!!」


 恍惚の表情で何故か天を仰ぐザンザス。


「かつて、失意のどん底にいた俺にルリコさんが手を差し伸べ作ってくれた料理、白身の魚のフライにかかっていた、あのソースの味は今でも俺の記憶に深く刻まれている。

 それから俺はルリコさんを師と呼び、ルリコ師匠にソースの魅力を教えられ、ソースの奥深さや新たなソースの研究に日夜ソースを極めている」

「お、おお・・・」

「私も母さんの手料理一つでこんな変人が爆誕するとは夢にも思わなかったよ」


 調味料であるはずのソースを熱く語るザンザスにユージーンは今まで経験した事の無い圧を感じ、無意識におされ、シェナは呆れ顔でため息を吐いた。


「そう、俺は、彼女に出会わなければ今の俺はここに居ない。

 ソース!!ソース!!ソース!!ルリコ師匠はソース女神なんで、」

「うるさい!!」


 ドガ!!


「っあだぁ!?」

「い!?」


 暴走し始めるザンザスの尻にシェナの鋭い蹴りが綺麗に入った。

 あまりの突然の事にユージーンは目を見開き、驚く。


「母さんをよく知らないユージーンに変な母さんの印象与えるの止め!!」


 眉を吊り上げ怒るシェナ。


「い、痛い・・・・」

「・・・・・・、」


 若干涙目になりながら蹴られた尻を撫でるザンザスに若干同情してしまった。


「全く・・・・・。ゴメンね、ユージーン。悪い奴じゃ無いんだけど、変に私の母さんを崇拝していて、たまに暴走する事があるの」

「え?あ、ああ・・・」

「でも、ソース作りの腕は確かだから、このお店のソースの味は保証するよ」

「シェナさん!!!」

「変人だけど」

「シェナさん・・・・・・」


 シェナに褒められ一瞬ザンザスの顔が輝くが、また一瞬で落とされ、ザンザスは肩を落とす。


「ザンザ、ウスターソースとマヨネーズソース、あと野外用のミソ玉を10個、あと・・・・・サシスセソ」

「ッ、・・・・・何番目モノをお求めで?」

「セウユを銀貨一枚分」

「オッケー、直ぐにご用意致します!!」


 ザンザスの雰囲気が一瞬変わった気がしたが、ザンザスは眩しい笑顔で店の中に入っていった。


「・・・・・シェナ、あの男は一体?」

「言ったでしょ?自称母さんの弟子でソース馬鹿な変人。でも、ザンザにはもう一つの顔があるの」

「もう一つの顔?」

「ザンザは情報屋でもあるの。それもかなり腕の良い、この街1番の情報屋だよ」

「っ、情報屋・・・」

「知りたいかったんでしょ?・・・・・アーガルジア王国の事件の事」

「・・・・・・ッ!!」


 シェナの言葉に、ユージーンは目を見開き、驚きで言葉が出てこなかった。


「現在状況くらいなら、奢ってあげるよ」


 そう言ったシェナは目を細め小さく笑った。

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