情報屋ザンザス
「ほら、入るよ」
「あ、ああ」
店の中に入るシェナを追いかけ、ユージーンも店の中に入ると、そこは、意外にも普通の店内だった。
ド派手な表の看板とは裏腹に清潔感のある店内。壁に備え付けられた棚にはラベルの貼られた大中小様々な瓶が陳列しており、心なしか、食欲の湧く香りがあたりに漂っている、気がする。
「ユージーン、私、ちょっと奥行ってくるから、店で待ってて」
「あ、ああ」
店の中を見ていると、シェナが店主のザンザスの後を追って奥にいってしまった。
店員の1人もいない店内に1人取り残されたユージーン。
「・・・・・・・」
途端にシンと静まり返る店内。
商品棚に並べられいる瓶のラベルを見ると、
『ウスターソース』『オイスターソース』『サルサソース』『マヨネーズソース』『ショウユ』『バターソース』『オニオンドレッシング』『セサミドレッシング』等々様々な名前があり、黒、焦茶、赤、白、黄色、飴色、薄いベージュ色と種類も様々だ。
しかも、まだまだ違ったソースが別の棚に並んでいる。
あのザンザスと言った男の並々ならないソースへの情熱がそこにある様に見えた。
王都にもソースはあるが、ここまでの種類を取り揃えてた店は王都でもお目にきれないかも知れない。
何気無しに並べらているソースを眺め見ていると、ふと、視線を感じた。
「・・・・・・」
条件反射的にユージーンは周囲に気を回す。
店の外からでは無い。
店内の何処からか視線を感じる。
だが、ユージーンは向けられる視線に殺気を感じなかった。
まるで、幼子がこっそりとコチラを伺う様な、殺気も邪心も感じられない無邪気な視線、
「・・・・・・・・・・」
いた。
店の奥の棚の影から黒髪のおかっぱ頭の小さな子供が黒い眼でジッと瞬き一つせずにコチラを見ている。
子供?ザンザスの子供か?
と、思ったが、何か違う気がする。
ユージーンは子供の雰囲気に、何か違和感を感じた。
と、その時、子供がユージーンに向かって人差し指を指した。
『禁!!』
「ッ!?!」
子供の口から何が発せられた瞬間、ユージーンの身体がビシリッと固まり、動かなくなった。
「ッ、ッ・・・・!!」
いや、身体だけでなく、口も声を出す事が出来なくなってしまっていた。
いきなりの状態に困惑していると、奥の棚の影から子供が出て来た。
五歳くらいの男の子にも女の子にも見える幼い子供が、トコトコと身体が動かないユージーンに近づく。
そして、黒眼の瞳を細め、ユージーンを見上げる。
「ねぇ」
「・・・・・・・・・ッ、」
無邪気な笑顔でユージーンに問いかけて来た。
「あーそーぼー?」
子供はニッコリ笑った。
その頃、シェナは店の奥の個室でザンザスに情報を買っていた。
窓が無い小さな小部屋。中央にテーブルしか置かれていない。
「はい。コチラがここ7日の間にアーガルジア王国で起きた大きな事件を3つに絞った情報だよ」
「ありがとう、ザンザ」
テーブルの上に置かれた三枚の紙。
シェナは、その一枚一枚にしっかり目を通す。
一つ目はアーガルジア王国貴族ベルダン公爵の汚職事件及び失脚。
二つ目はアーガルジア王国東海岸での大型輸送船の沈没事件。
そして、三つ目、アーガルジア王国所有魔獣保護施設ベルディア保護区の襲撃事件。
「随分と大事な事件が多いんだね」
「まぁね。特に、アーガルジア王国所有魔獣保護施設ベルディア保護区の襲撃事件は、規制線が張られるのが異様に早かった。
流れて来た情報では、内通者による外部犯だと言われている。大分、キナ臭いけどね」
「流石、情報屋。規制線が貼られた上で、ここまで情報を集められるなんて」
「情報も素材も鮮度が命ですから」
ヘラリと笑うザンザス。
「どの事件にも闇ギルドの関与が認められる・・・・。この闇ギルドって『グリムファング』の事?」
「いいや、この三つの事件に闇ギルド、グリムファングは関与していないよ。むしろ、この事件で謂れのない批判を受けて、グリムファングが目下調査しているらしいよ」
マ、マジか・・・・。
表情は動かさず済んだが、ユージーンがこの国で1、2を争う闇ギルドに狙われているかもしれないと言う事実に、シェナは内心焦った。
「と言うか、この事件、あの人と関係あるの?」
テーブルに肘をつき、頬杖をつきながらシェナを見つめるザンザス。
顔は笑顔だが、眼は何かを探る眼でこちらを見ている。
「・・・・、ザンザなら、もう情報掴んでいると思ってたんだけど?」
「まあ、一応は。
数日前、ネルの森で小規模の魔法波動の歪みが確認された。それと、同日にネルの森でシェナさんが拾ってきた男。名前はユージーン・ハンレス。
現在、記憶喪失。ロベルトの依頼でシェナさんの監視下の元、梟屋で下宿が決定。
って、とこかな?」
「・・・・流石、情報屋」
「ちなみに、この事はギルドのサブリーダーであるロベルトに結構厳しく口止めされてます」
「・・・・・・・・。いくら?」
「口止め料含めて、これ程」
笑顔で右手の指を五本立てヒラヒラと手を振るザンザス。
「・・・・高いよ」
「提供する情報には俺のプライドにかけて。お金に関しては例え身内でも妥協しないのが我が師であるルリコさんの教えだからね」
「確かに」
そう言いながら、シェナは、鞄から小さな袋を取り出し、テーブルの上に置く。
ザンザスはその袋を持ち、中身を確認する。
「確かに、毎度あり」
ニカリと眩しい笑顔のザンザスに、
高い買い物だったな・・・・。
私は、後悔はしていないが、深くため息をついた。
だけど、
「こちらこそ、助かる。ありがとう」
そう言いながら、テーブルの上の3枚の紙を鞄に仕舞った。
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