ちょっと休憩とお説教
「それでは、シェナはエンシェントドラゴンが生き絶え後、その場で埋葬した、と」
「はい、鱗と爪と牙も一緒に」
「そうですか」
それからも事情聴取の質問は続き、しばらくして、
「・・・・・ロベルトさん」
「はい、何ですか?シェナ」
「お茶にしません?」
「は?」
「・・・・お茶ですか?」
シェナの突然の申し出に一瞬ポカンとするユージーンとロベルト。
「シェナ、今は事情聴取中よ」
「いや、よく考えたら私朝何も食べてなくて、そろそろお腹が空いてくるもので。ちょっと息抜きを所望します」
「シェナ」
「エマさん、駄目、ですか?」
コテっと小首を傾げるシェナを咎めるように、少し困ったような顔をするエマ。
「・・・・今回のお詫びに、パウンドケーキを焼いて来たんです」
「・・・・・シェナ?」
「駄目ですか?」
「・・・・はぁ、もう」
じっと、見つめ、おねだりモードになったシェナにエマは呆れたようにため息を吐く。
「ははは、そうですね。少し休憩しましょう」
シェナとエマのやり取りを見てロベルトは笑いながら今までどこか緊張していた空気を解いた。
「はぁ、分かりました」
ため息を吐き、エマさんがそう言うと、左手首に着けている青い石が三つ付いたシルバーのブレスレットに触れた。
再び、部屋の空気が変わった。
部屋に張られた結界が解除された。
「じゃあ、私、お茶淹れて来ますね」
「シェナ、お茶なら、私が、」
「大丈夫です、エマさん。ついでにパウンドケーキを切り分けてきます」
手伝おうとするエマの申し出をやんわりと断り、シェナは席を立つ。
「キュ?キュキュ!!」
シェナの手に戯れ付いて遊んでいた子ドラゴンが立ち上がったシェナを不思議そうに見上げる。
「おチビちゃん。ちょっとゴメンね」
「キュー」
子ドラゴンを手から離そうとするが、子ドラゴンは寂しそうな眼差しでシェナを見つめてくる。
「すぐに戻るよ」
「キュ~」
そう言いながら、寂しがる子ドラゴンの頭を優しく撫でる。
「それでは、シェナ、お願いします」
「はい。じゃあ、ちょっと失礼します」
そう言いながら、シェナは部屋を出た。
「・・・はあーーー、んん!!やっぱり、部屋の中でじっとしているの、苦手だ」
シェナは、部屋の前で大きく背伸びをした。
本当は事情聴取の途中で抜け出すのはいけない事なのだろうけど、あの重苦しい空気が嫌で外の空気を吸いたくなった。
「さて、早く、お茶淹れよ」
そう呟きながら、シェナは簡易キッチンへ足を運ぶ。
簡易キッチンへ着いたシェナは、かって知ったる、ギルドの簡易キッチン。茶葉が置いてある棚で皆に出すお茶を選んでいた。
「クルス茶、ラッセ茶、ポポル茶、サラサ茶、かぁ、甘味の強いクルス茶よりも、香りが甘いポポル茶の方がパウンドケーキに合うかな?」
少し悩んで、甘い香りが特徴の少し独特な苦味があるポポル茶にする事にした。
小鍋でお湯を沸かし、人数分のティーカップとポットに温めたお湯を注ぎ、ポットが温まったら、ポットの湯は捨てる。
再び温めた湯を注ぎ、人数分の分量のポポル茶の茶葉をポットに投入する。
ティーサーバーをポットに被せ、
「光よ、火よ」
ポットの温度が変わらないように魔法をかけ、しばらく放置。大体5~6分くらいかな。
その間にパウンドケーキを切り分けを。
と、思ったが、ふと、切り分けを思い止まる。
「・・・やっぱり、目の前で切り分けよっと」
大皿を出しパウンドケーキ一本乗せ、人数分の小皿とフォークを用意する。
先程淹れたティーカップのお湯を捨て、温めたティーカップとソーサーも用意する。
と、ここでシェナはある事に気づいた。
「しまった、お盆、乗り切らない」
パウンドケーキを乗せた大皿に人数分のティーカップにソーサー。小皿とフォーク。
棚から引っ張り出した大き目のお盆には、保温しているティーポットまで乗せきれない。
「どうしようっかな」
一旦お盆に乗ったパウンドケーキと小皿とフォークだけでも先に持って行こうか?
シェナがちょっと悩んでいると、
「シェナ」
「え?エマさん?」
エマさんの声をかけられて振り返ると、簡易キッチンの入り口にエマさんが立っていた。
「運ぶの手伝いましょうか?」
「え?でも、エマさんは部屋に居なくていいんですか?」
「ええ、ロベルトさんがユージーンさんとお話があるから、ちょっと席を外して欲しいと言われてね」
そう言いながら、エマさんは棚からもう一枚お盆を取り出してくれた。
「それに、私もシェナにちょっと用事があったし」
「・・・・・・、あぅ」
エマの言葉にシェナは気不味そうに視線を逸らし、
「・・・・・・・・」
「ごめんなさい。エマさん」
エマさんの無言の威圧感に小さな声で素直に謝った。
「素直に謝ってよろいし」
「・・・・・、ごめんなさい」
「・・・・・1ギルドメンバーにここまで言うことでは無いんだろうけど、本当に心配したのよ?貴女、魔力の使い過ぎで寝込んだでしょ」
「・・・・、はい」
「シェナ、貴女は魔力の量が並、つまり、一般人が日常で使えるくらいの魔力しか持ち合わせていない。
貴女は異常なまでの魔力のコントロールに長けているから魔力の量をカバー出来ているんだろうけど、魔力の激しい消耗は本当に危ないのよ。
今回、ネルの森で単独で入っただけじゃなく、負傷者をみつけて瀕死のエンシェントドラゴンに攻撃されて、卵を保護して、ゴブリンに追われる。
しかも、ゴブリンに追われている最中に負傷したとは言え救助されるまて男性と二人きりなんて、危ないでしょう」
「・・・・・・はい」
エマさんのお説教に私は俯いて返事をする事しか出来なかった。
エマさんは決して声を荒げている訳では無い。ただ、淡々と小さい子共に言い聞かせるようなエマさんに申し訳ない気持ちで居た堪れない。
大丈夫だとタカを括っていたが、やっぱり心配をかけてしまった。
「・・・・余計なお世話、なのは分かっているわ。でも、」
「いいえ、心配をかけて、ごめんなさい」
「もう、これに懲りたら無茶な魔力の使い方は控えるのよ?」
「・・・・・・・・はい」
「シェナ、今の間は何?」
「・・・・・・なるべく、気をつけます」
「シェーナー?」
「・・・・・・気をつけます」
「もう」
曖昧なシェナの返事にエマはため息を吐く。
だが、子供の様に心配されて不満に思うシェナの気持ちも分からない訳ではない。
彼女だって立派なギルドメンバーの一員なのだから。
「はぁ・・・まあ、ギルドには血の気が多くて問題を起こす人が多いから、大人しく怒られてくれるのはシェナくらいね」
苦笑しながらそう言いながら手際良く手に持ったお盆にティーポット、ティーカップとソーサーを乗せるエマさん。
「さ、お節介はこのくらいにして、お茶を持って行きましょうか」
「はい」
エマがティーポットを乗せたお盆をシェナはパウンドケーキを乗せたお盆を持ち、二人は簡易キッチンを出る。
「・・・・・エマさん、」
事情聴取をしていた部屋に戻る際、一歩後ろから、消え入りそうな声がエマの耳に届いた。
「んー?何?」
「ごめんなさい」
「ふふ、はいはい」
子供みたいに小さく謝るシェナにエマは小さく笑った。
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