託されたもの
「目が覚めたら、そこは、暗い森の中だった」
ユージーンが自身の身に起きた出来事を話す。
「暗い森の中でその場に居たのは俺と動かないエンシェントドラゴン。他の隊員や警備員は何処にも見当たらなかった。俺は、助けを求める為にその場を離れた。
だけど、森を抜けた先は、美しい湖で、そこでまた意識を失った。
その後、シェナに助けてもらい、このギルドに保護してもらった訳だ。・・・・・・・・・・俺が話せるのはここまでだ。アーガルジア王国第7騎士団副隊長ユージーン・ハンレスの名にかけて、嘘偽りは無い事を誓う」
そこまで話し終えると、ユージーンは、はぁと、息を吐いた。
「話してくれてありがとうございます。ユージーンさん」
ロベルトさんがそう言いながら、視線をエマさんに向けた。
エマさんは、無言で頷いていた。
「それにしても、想像以上に死にそうな目に遭ったんだね、ユージーンって」
「自分でもそう思う。あの時、月が浮かぶ湖に出た時、本当に此処で終わるんだと覚悟したからな」
「でも、深手の傷を負ったユージーンが魔獣に襲われなかった理由がわかった。
ユージーンの体にエンシェントドラゴンの気配や匂いが付いていたから迂闊に手を出せなかったんだね」
強い力を持つ魔獣程、慎重で警戒心が強いものだ。
「不幸中の幸い、と言う言葉を身にしみて感じているよ」
思わず呟いたシェナの言葉にユージーンは苦笑した。
「話を聞いたら、ユージーンはそのオーガスタが持ち込んだ転移魔法魔具によりこのアーカルジア王国の西南端に位置する『ネルの森』に飛ばされたで、間違いないですね」
「ああ、恐らく目的地は別に有ったであろうが、オーガスタが逃亡しようとした時に転移魔法魔具を落として暴走させ、この地に飛ばされたんだろう」
ロベルトさんの質問に真剣に答えるユージーン。
「シェナ。君の話では、君がユージーンを保護介護した後見つけたエンシェントドラゴンは既に瀕死の重症。そして、エンシェントドラゴンの卵を見つけたと」
ロベルトさんが私に話しかけた。
すると、ユージーンも真剣な表情で私の方を向き直った。
「すまない。その事については俺も聞きたい。君は何故、エンシェントドラゴンの卵を持っていたのかを。どこで見つけたのかを」
ユージーンの濃いブラウン色の眼がシェナの眼をじっと見つめた。
「・・・・、見つけた、と言うよりも、託されたの方が正しいですね」
「託された?」
シェナは、ユージーンの視線を外し、子ドラゴンが自分の手に戯れ付きながら遊ぶのを見ながらシェナは意味深な言葉を言った。
「私がユージーンを手当てして、ユージーンが森から出てきた方角へ、調査へ森に入りました。そこで、壊れた転移魔法魔具を見つけました。そして、その先に瀕死のエンシェントドラゴン。そして、エンシェントドラゴンを囲むゴブリンの群れが居ました」
ゴブリンの群れ、その一言に、ロベルトさん、エマさん、そしてユージーンの表情が固くなった。
「私は咄嗟に結界魔法でエンシェントドラゴンをゴブリンの群れから守りました。でも、エンシェントドラゴンはもう、手の施しが出来る状態ではありませんでした」
シェナの話に3人は静かに聞いた。
「私に出来ることは、目の前で息絶えるエンシェントドラゴンをゴブリン達が手を出せないようにその場で埋葬してあげる事。
その事をエンシェントドラゴンに伝えました」
「え?伝えた?」
ユージーンがシェナの言葉に疑問を持った。
「エルフの特殊能力。エルフ族は生き物に意思を伝え会話ができるの」
「噂には耳にした事はあるが、実際本当に会話が出来るのか?」
「私はハーフだから、会話は出来ないけど、自分の意思を伝える事は出来る。もっとも、相手に聞く気が無ければ、問答無用で襲われます」
「ダメだろ!?」
ユージーンにツっこまれた。
「まあ、実際、興奮したエンシェントドラゴンにも攻撃されましたけど、すぐに大人しくなってくれて、話を聞いてくれました。そして、血に濡れた皮袋を差し出されました」
「!?、まさか、それは、」
「はい、中には血塗れの鱗と牙と爪、そして、卵が入っていました」
シェナの言葉にユージーンは困惑していた。
当たり前だろう、命かながらに守った筈のエンシェントドラゴンの卵が共に転移魔法で知らない土地に飛ばされていたのだから。
「コレはあくまでも推測ですが」
すると、少し考えていたロベルトさんが、話出した。
「恐らく、オーガスタは卵を3袋に一つずつ分けて入れていたんだと思います」
「卵を分けて?」
「ええ、一つの皮袋にただ獲物を詰め込むのでは無く、皮袋の中身を狩り取った獲物の種類を出来るだけ平等にすることで、万が一、皮袋を手放さなければいけない時、中身を統一し、複数持つ事で必ず手元に残るようにしていたのでしょう」
ロベルトの推測にシェナも加わる。
「なるほど、獲物を等分しておけば、仮に一つを捨てて、取り分が減っても、必ず利益になるようにした。この国の第3皇太子殿下はかなりの曲者ですね」
「ええ、ただ、彼の誤算と言えばユージーンに早く現行犯で見つかった、と言う事ですね」
「・・・・・・・、ユージーンの話では皮袋は暴走していたエンシェントドラゴンによって弾き飛ばされ、一つはユージーンが守った。残りはどこかに飛ばされた。もし、その時、咄嗟にエンシェントドラゴンが皮袋を一つ拾い上げ隠していたのなら」
「キュ?」
シェナは自分を見上げる子ドラゴンを慈しむように優しく撫でる。
「エンシェントドラゴンは我が子である卵を守った、と、言う事でしょう」
ロベルトとシェナの話にユージーンはただ唖然としていた。
「・・・・・・・・・、まさか、俺の注意不足でエンシェントドラゴンだけでは無く、卵までこの土地に共に転移されたとは」
頭を抱え、俯き苦悩に顔を歪めるユージーン。
「いや、逆にユージーンも一緒に転移されたから、この子は助かったんじゃないの?」
「え、」
シェナの言葉にユージーンは俯いていた顔を上げる。
「ユージーンがネルの森にいたから私は瀕死のエンシェントドラゴン見つけることが出来て、この子を託された。もし、エンシェントドラゴンだけが、ネルの森に転移されてきたら、間違い無くドラゴンの親子共々森の魔獣達のご馳走になっていたよ」
「・・・・・それは、ただの偶然で、」
「偶然なんてないよ」
「え?」
シェナが否定した。
「・・・・・偶然なんてこの世に存在しない。
あるのは、必然。だから、貴方もこの子も助かるべくして助かった。それだけだよ」
シェナの細長い瞳孔の青い瞳がユージーンの深いブラウン色の眼を見据える。
「確かに、私も貴方も親ドラゴンは助ける事が出来なかった。だけど、ユージーンが切っ掛けでこの子を助ける事が出来たんだよ。死の間際、親ドラゴンは私を信じてこの子を託し、埋葬させてくれたんだよ?」
「・・・・・だが、」
「この子が生きているのは、私とユージーンのおかげだから」
そう言いながら、指で子ドラゴンを優しく撫でるシェナ。
そんなシェナを見て、まるで自分自身に言い聞かせているようにユージーンは感じた。
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