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温かいすいとん

倒れた時の傷をまたヒールで癒してもらった男は今度は大人しくシェナに従い、先程まで寝ていた寝床に戻された。


男が困惑しているような探りを入れているような顔をしていると、シェナが外で火にかけていた鍋を持って来た。

外からもって来た鍋からはもうもうと湯気が立ち上る。

手渡された手のひらに収まる器と小さなスプーン。

その中には鍋から注がれた、淡茶色のスープが満たされている。

葉物の野草と根菜。小さな肉のカケラ。そして少し歪な白い楕円形の具が浮かんである。

零さないように、膝の上に乗せた器はジンワリと暖かく、フンワリと湯気共にどこか懐かしいような、ふくよかな香りが顔を撫でる。


グウゥ。


無意識のうちに嗅いだその香りで自身の腹の虫がたま鳴き出した。


「冷めない内に食べた方が美味しいよ」


そう言いながら、目の前の鍋から自分の分を器に注ぐシェナ。


「・・・・それとも、やっぱり左肩が痛むなら、私が食べさせた方がいい?」

「ッ!いや、大丈夫だ」

「あ、そう」


シェナの気遣いに男は顔を赤め、慌てて断る。

さすがに大の男が自分より年下の異性に食べさせられるのは抵抗があるらしい。


ちなみにさっき孵ったばかりの子ドラゴンは、とりあえず、シェナのターバンに包まれてターバンの隙間から顔を出して、大人しくしている。


「・・・・・これは?」

「私は『すいとん』て呼んでる。葉物や根菜と小麦粉で作った生地を煮込んでミソで味付けしたモノ。土地によっては呼び方が違うんだっけ?お兄さん、食べたことあるの?」

「・・・・似たような物なら」

「そっか。コレは私の夜食用に作った料理だから変なモノは入れてないよ」


そう言いながら、シェナは男と少し離れて向き合う形で、地面に座る。


「我の糧になる尊き命よ 命を生み出し天と大地よ 天地の恵みに感謝します」


両手を胸の前で組み、食材へ祈りを捧げる。


「いただきます」


器を持ち上げ、直接器の縁に口を付け、先ずはスープから。

熱いスープを口にすると、口の中にボタン鍋のダシと脂の甘さと追加で入れた葉物、根菜等の野草の甘み。そして、それを包み込むようなミソの塩っぱさが口の中いっぱいに広がる。

そして、余韻を残すかのように鼻を抜いていくのは、スープの香りと微かな土の香り。

身体の芯からあったまる。


「ふぁあ、」


思わず放心してしまいそうな美味しさだ。

魔力を使って空腹だったから尚更に。

これだから、ミソ玉は手放せない。


煮込まれた、すいとん。

スープを吸って柔らかく、もちもち。つるんとした舌触りで喉へと落ちていく。

ベーベル葉もしんなりとしつつ、シャックリとした歯応え。ダイコンもホクホク。

小さな肉のカケラを噛み締めた時の旨味に思わず顔が綻んでしまう。


+++++++


「いただきます」


目の前の少女は、俺の事を気にも止めずに、すいとんと言った料理を食べ始めた。

見た限り、まだ十代半ば程のエルフらしい少女。

朦朧と消えかけた曖昧な意識の中、俺はこの少女に助けられた。

怪我をして助けられて、食事を分けてくれるのは有難い。

だが、どうしても、不信感を抱いてしまう。

何故この少女は俺を助けてくれたのか?

何か企みがあるのでは。

この食事は食べ大丈夫なのか。

この少女は信用していいのか?

そんな考えが、頭の中でグルグルと巡る。

だが、


「ふぁあ、」


少女が、料理を口にして顔の表情を緩めた。

少し、驚いた。


先程、状況が把握出来なくて混乱していたとは言え、目が覚めて、目の前にいた、少女を押し倒し、そして、逆に張っ倒された。

その時の少女の動きと気迫、只者では無かった。

怪我をしていた左脇腹を殴られ、一瞬の内に張っ倒されて、口に苦い薬湯を押し込められ、押さえつけられた一連の無駄のない動き。

動けなかった。

少女は小柄で、力も今の自分でも、押し返せない程の力では無かった。

しかし、自分を押さえつける小さな手も俺の眼を鋭く睨み付ける青い瞳。まるで、喉笛に喰らいつく寸前の獣の様に、反抗する事を許さないと無言の威圧をするエルフ特有の細長い瞳孔をした青い瞳。


混乱する中で、その一瞬の出来事がとても、長い時間に感じた。


だが、それも、俺の腹の虫の音で長くは続かなかったが。

その後、この場にいるはずの無い孵ったばかりのエンシェントドラゴンの子ドラゴンが少女の所有物らしき鞄から出てきたり、怪我した脚で立ち上がろうとして激痛でまた地に倒れた。

少女は呆れたような顔をして、回復魔法をかけ、先程まで寝ていた場所に戻され、今に至る。


目の前で目尻を下げ、美味そうに自分の器のスープを食べる少女。

その姿は、年相応、いや、それよりも少し幼く見える。

先程、俺を張っ倒し、威圧していた相手だとは思えないほどに。


そんな、少女の顔を見て、手元のスープを見た。

ふんわりと湯気と共に立ち込める空腹感を増大させる香りで無意識に理性が食欲に負けた。


「・・・・・・・・いただき、ます」


元々見ず知らずの少女に拾われた命。

これでもし、何かが仕込まれていたとしても甘んじて受け入れよう。


そう思いながら、俺は『すいとん』を口に入れた。


「ッ!?」


言葉を失った。

一口食べた途端、どこか懐かしさを感じ、心身に沁み渡る温かさ。

口の中が、飲み込んだ喉が、腹の中がジンワリ暖かくなった。

それを皮切りに、口に運ぶスプーンの動きが止まらなくなる。

その味は、とても、優しく、少し、しょっぱかった。

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