一時停戦
カマクラの中で沈黙の睨み合いが続いた。
(・・・・、いつまで続くの、この睨み合い)
男を睨み合いをしながら、シェナは密かに思う。
いくら怪我人で上を取っているとはいえ、体格差があるから、いつ反撃されるか。
お互いに牽制しあい、気を張り詰め、そう思っていると、
グウウゥゥ!!
シェナの背後下か猛獣の唸り声が、
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
暫しの沈黙。
「・・・・・・・ブファ!!」
我慢したが、耐え切れず吹き出してしまったシェナに、口を塞いでいる男の顔がまた真っ赤に染まった。
「っ、ふふ・・・、顔赤いよ、お兄さん?」
男の猛獣、もとい、腹の音がなんだか可笑しくて、気が抜けて、口の端がヒクつく。
「んん!!」
何かを抗議するように睨んでくる男。
「ふふふ、『ヒール』」
男の頭を押さえている左手を離し、さっき咄嗟に殴った脇腹の傷へ回復魔法をかけた。
「!?」
「えっと、とりあえず落ち着いて」
傷の痛みが薄れ困惑する男。
まさか、襲った相手の傷を治してくれるとは思っていなかったのだろう。
「口の中に入れたのは傷を治す為の薬湯。やたら苦いだろうけど、そのまま、飲み込んでくれな『キュイ』い?」
男に口の中の薬湯を飲む様に説得するシェナの耳に小さくか細い声が届いた。
「へ?」
微かに届いたその声に反射的に辺りを見渡すシェナ。
するち、シェナのターバンで包んでいる皮袋が小さくモゾモゾと動いている。
「キュイ、キュイ!!」
「え、嘘、」
まるで何かを探すようにか細い声を上げ、モゾモゾと動くソレ。
シェナは慌てて男の上から退き、皮袋に駆け寄る。
包んでいたターバンを解き皮袋を開けると、
「キュイ」
淡藍の小さな鱗に覆われた小さな顔がひょこりと顔を出した。
その時、金色の円らな瞳がシェナの顔を見上げる。
「キュイ?」
「・・・・・アララ、出てきちゃった?」
困り顔で苦笑するシェナをよそに、皮袋からヨジヨジと這い出ようとする小さな体。
「おっと、元気だね、君」
皮袋から飛び出しそうになる小さな体を両手で受け止める。
淡藍の小さく柔らかな鱗に覆われた体。小さな手足。細い尻尾。そして背中には弱々しい4枚の翼。
細く薄く透ける程儚く繊細なその翼は爪で軽く引っ掻いただけで破ってしまいそうだ。
皮袋の中身を確かめてみると、皮袋の中には、透き通った藍色のカケラが沢山入っていた。
キュイ、キュイ、とシェナの両手の上でシェナを見上げて甘える様に鳴く、その姿はなかなか愛嬌があって可愛い。
シェナの両手に収まるくらいの小さなその子の胸元に小さな藍色の石が見える。
「ッ、・・・・『エンシェント・ドラゴン』?」
シェナの後ろから困惑した声が聞こえた。
振り向くと、さっきまで押し倒していた男が上半身を起こしていた。
薬湯はちゃんと飲んだみたい。
信じられないと呟き、こちらを、いや、シェナの手に乗っている、ドラゴン。さっき孵ったばかりの子ドラゴンを凝視していた。
「・・・・なんで!、卵は全て、彼奴らが」
「・・・・、やっぱり、無関係じゃ無かったんだね。お兄さん」
「ッ、そのドラゴンを何処で、ッイッ、デェッッ!!」
シェナに詰め寄ろうといきなり立ち上がろうとして、怪我をしている右脚を反射的に着いてしまい、右脚から来た激痛にその場に崩れ、悶絶する。
「落ち着け」
シェナを押し倒して威嚇していた、気迫は何処へ行ったのか。
「そして、君は、私の指を食べないで」
「ンキュ?」
右脚の痛みに悶絶する男とお腹が空いているのか、子ドラゴンが乗っている右手の親指を牙も生えていない小さな口でハミハミと噛む子ドラゴンを見て呆れ顔になるシェナ。
さて、この状態をどうしたものか。
「・・・・・とりあえず、ご飯食べない?」
お腹も空いたし、とりあえずのシェナの申し出に、
「は?」
「キュイ?」
キョトンとした顔をした1人と一匹を見て、
「・・・・・・」
なんだか可愛く思えたのはあえて口には出さないでおこう。
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