ネルの森
10分ほど空を滑り走りを続けていると、目的地が見えてきた。
深い木々が多い茂『ネルの森』だ。
シェナは森の入り口前に降り立つ。
「はあ、着いた」
もともと魔力が少ないシェナ。魔法疲れの疲労感が半端無い。
だけど、普通に徒歩で行けば1時間以上かかる距離を10分ほどで跳んで来た。
少しは時間短縮できただろう。
シェナは疲労感を感じながらも肩掛けの鞄を掛け直し、ネルの森へ足を進める。
『ネルの森』
北のフィールドの中でも上位ランクの魔獣が住む森。
それはこの森には魔素が多い為だ。
魔素。
それはこの世界に存在するエネルギー。
魔素は自然のモノに宿り、魔素が多い森や山、洞窟、谷や海、草原には魔獣が多く住み、薬草などの効能や薬効が高い。
特に魔素は月の波動に反応して魔素は強くなる。
魔獣達は魔素の影響で活発になり、薬草は魔素を取り込み高い効能を宿す。
だが、活発になった魔獣は手強い。
たまに命知らずが魔素が強く魔獣が活発になっている所に魔獣討伐に出て瀕死の重傷で帰って来る事もよく聞く話だ。
森の中は木々が多い茂り、日の光は遮られ昼間なのに薄暗い。道という道は無く殆ど獣道を歩いて移動する。
だが、そう言う場所ほど、
「あ、薬草!こっちは毒消し草。あれも!」
薬草類の宝庫だ。
他にも珍しい木の枝や花、食べれるキノコや木の実。稀に魔力が詰まった魔石などなど。
そして、
『ギギギィィ!!』
「あらま」
魔獣。
ただ今、6体のネズミ型の魔獣『キラーラット』に囲まれたシェナ。
赤い目。普通のネズミより10倍以上の大きさ。鋭い前歯と尖った爪。素早い動き。
雑食性でなんでも食べ、しかも集団で行動して獲物を追い詰めて捕食すると言う、一部のルーキーに強烈なトラウマを植え付ける魔獣だ。
『ギィ!!』
『『『『『ギギィ!!!』』』』』
「ッ!!」
一体のリーダー格のキラーラットの鳴き声で6体のキラーラットが一斉にシェナに襲ってきた。
シェナは襲いかかってきたキラーラットを蹴り上げ、跳ね退き、キラーラットの奇襲を避ける。
「光よ」
シェナは素早く右手に光の球を作り出す。
キラーラット達が再び連携してシェナに襲いかかってくる。
「フラッシュ!!」
カッ!!
右手の光の球を左手で思いっきり叩く。光の球が割れ薄暗い森の中、辺りに閃光が走り溢れる。
『ギュイ!!?!?』
突然の閃光にキラーラットの動きが一瞬止まる。
シェナはその隙に叩いた両手に風の魔法を呼ぶ。
「風よ」
両手に集まった風に意識を集中さ、風を薄くしなやかな大きな布へとイメージ。
両手に集まった風がシェナのイメージした薄くしなやかな大きな布のように広がる。
「風網」
シェナは風の網を光の閃光で動けないキラーラットの集団に被せる。
透明な風で出来た捕縛用の魔法。
風の網に捕らえられたキラーラットは網から抜け出そうと、奇声を上げながら身動き取れない網の中をもがく。
『『『ギギギィ!!』』』
『『『ヂュギ!!』』』
食い千切ろうにも風で出来ているから嚙みつけ無い。
シェナは風の網の中でもがくキラーラット達に近づく。
シェナが近づいてくるのを見てキラーラット達は毛を逆立て、前歯をガチガチと鳴らして威嚇する。
「大丈夫」
シェナは風網の前に膝をつき、キラーラット達を見る。
キラーラットの一体、多分この子がリーダー格の子だ。
シェナはキラーラットの赤く丸い目をジッと見つめる。
「私はこのネルの森の加護を少し貰いに来ただけ。貴方達の縄張りを荒らすつもりも、無意味に貴方達を狩るつもりもない」
シェナの言葉にさっきまで威嚇していた他の子も動きを止める。
リーダー格の子もジッとシェナの細長い瞳孔の青い瞳を見つめる。
「だけど、もし貴方達が私を敵として認識してまた襲いかかって来るなら、自然の摂理の元、貴方達を狩らせてもらう」
しばらく無言で見つめ合っていると、キラーラットは逆立てていた毛を鎮めた。
それを見てシェナは風網を解除した。
キラーラット達は戸惑う様子だったが襲いかかってくる様子も逃げる様子もない。
「いい子。分かってくれてありがとう。さっきは蹴飛ばしてごめんね」
シェナはふと、表情を緩め、リーダー格の子の頭を撫でる。
『キィ』
最初はビクッと体を硬くしたがシェナが撫でると、気持ちよさそうに目をつぶり、もっと撫ででとばかりに手に頭を擦り付ける。
それを見た他のキラーラットが我も我もとシェナに近づき、甘え出す。
シェナは和解したキラーラットにさっき採った木の実を与えた。
『キラーラット』と言われている魔獣だが、丸っこいフォルムに小さな前足で器用に木の実を持って食べる姿が何とも可愛らし。
シェナは木の実を与え懐かれたキラーラットと別れ、更にネルの森の奥へ進む。
シェナは魔獣に意思を伝える事が出来る。
これは、エルフ族特有の特殊能力。
本物のエルフ族は生き物全てと意思を通わせる会話することが出来る。
エルフの父、リュバルは魔獣と意思を通わせ、己れの強さを魔獣に見せ服従させる魔法を使っていた。
生憎、シェナはハーフエルフの為。意思を伝える事は出来るが会話までは出来ないが、この能力のお陰でシェナは意思を伝える事で魔獣との無駄な抗争は避ける事は出来る。
だが、弱肉強食が掟の自然の中。
当然、自分の意思を伝えても、
『シャアアアアアア!!!!』
「しつこい!!」
シェナを獲物として見て襲ってくる魔獣も必ずいる。
ただ今、森の果実を収穫中、蛇型魔獣『ポイズンパイソン』に襲われているシェナ。
金色の目。紫色をした3メートルを超える大蛇。獲物を丸呑みにしようと鋭い歯と牙が並んだ大口開けて迫ってくる。
よほどお腹を空かせているのかヨダレを流しながら。しかも、落ちたヨダレが地に落ちてジュッと音を立てて地面を溶かした。
名前に違わぬ猛毒を持っているようだ。
「完全に私の事エサだと認識してる」
シェナ後ろを振り返りながらは森の木を利用してポイズンパイソンから逃げる。
木に登り、木から木へ飛び移って行くと木が途切れた。開けた川原に出た。
シェナは木から飛び降り、森から出てくるポイズンパイソンと対峙する。
「さっきも言ったよね。私を襲うなら容赦はしないって」
シェナがポイズンパイソンを睨むが、ポイズンパイソンは金色の眼でシェナを見て先端が二またに割れた細い舌を口チロチロと出し入れしている。
『シャァァァ』
「そう、そっちがその気なら、私も容赦はしないから」
あっちは私を食べる気満々。
だが、だからと言って大人しくエサになってやる気は毛頭ない。
シェナは鞄から自前の大型の鞘付きナイフ取り出す。
このシースナイフと呼ばれるこのナイフは拳闘士であるシェナの唯一の武器だ。
鞘を外し双刃の刃をポイズンパイソンに向ける。
『シュュュウ』
ポイズンパイソンはそんなナイフ一本でどうするつもりだと嘲笑うように首を高く持ち上げる。
だが、次の瞬間、一瞬ポイズンパイソンの動きが止まる。
「闇よ」
シェナが闇の呼んだ。
黒い靄の様なものがシェナの周りに集まり、ナイフへ集まった。
「黒刃」
銀色だった双刃の刀身が闇を纏い黒い刀身になった。
「警告は、したからね」
シェナは微笑みながらナイフを構える。シェナの身長よりも高いポイズンパイソンの顔をにらみあげた。
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