56.教育的指導と白羽の矢です。
長らくお待たせしました。…待っててくださる方はいますかね?オフィスLOVEはまだですね。
指導すべき対象が定まってから、二日後。
私は、また牧くんの部署へアドバイザーとして出向いた。
今回は違った角度から問題点を探ってみようと思った。
「このような件は、いつもは誰に相談していたんです?」
『同僚に相談して、部長に報告する感じですかね…』
『…同僚に相談して、分からなければ部長に報告しています』
…なぜに“報告”?
「ふぅん。部長に直接相談したりしないんですか?」と問うた私に皆、口を揃えて言うのは。
『部長に相談すると、自分で考えろと言われそうだから…』と。
「直接言われた訳ではないの?」
『…お忙しそうですし。相談するのは申し訳ないような…雰囲気が』
終いには…
『なんだか背中から、話しかけるなオーラーが…』とまで言われる始末。
今回の依頼には、牧くんの仕事や管理業務改善まで含まれているならば、こりゃ結構やっかいなコトになる。
なぜならば、彼と働いた経験…増してや、少し指導というかアドバイスをしてきた私から言わせると…彼を納得させるには、かなりの労力が必要になる。
説得する材料を集めて、根拠とメリットをきちんと提示しないとなかなか「うん」とは言わない。
効率ばかりを追いかけていては、ついてきてくれないと言うのに…。
「やれやれ…か」と、休憩室の自販機の前でガコンッと落ちてきた缶コーヒーを拾い出す私の独り言。に応える声がひとつ…。
『どこのおばちゃんみたいな独り言ですか?後ろ姿に哀愁すら感じますよ』
もぉ。慣れっこですからね。そんな毒吐きには堪えません。
「…誰のせいでこんなんなっとると思ってんのぉ?」
…えぇ。見事に大人気なくケンカふっかけてやりましたわっ。何か?
『それは私のせいですかね。すみません。で?どんな塩梅です』
やけにあっさり認めたわね。それはそれで気持ち悪いけど…
「そうね。問題はいろんなところにありそうだけど…とりあえず一つは片付けたわよ?」
ない胸を張って、私を見下ろすように立っている楢山くんに向かって言った。
『おぉっ。早いですねぇ。さーすが辻チーフ!その調子でお願いしますよーっ』
いやいや俺の采配が効いたのかなぁ〜と、聴こえたが?私の耳には…。
「まったく…分かってて私に白羽の矢を当てやがったな」と、楢山くんの腕を小突く。
…ん?
その時、ふと視線を感じてガラス張りの休憩室の外を見やる。
「誰もいないか…?勘違いかなぁ」慣れない仕事で疲れてるのかも。サッサと仕事に戻ろう。
「じゃあね!ぼちぼちやりますよ。ご指名どうも」と、ポンッと楢山くんの背中を叩いて休憩室を出ようとした…ら?
ぐいっと肩を掴まれて、後ろに仰け反る格好になった。
っとっと…⁈「何よっ⁈」と文句を言おうとした私に楢山くんが宣った…。
『やっぱり俺の人選は間違えてなかった。本当に頼みましたよ』と真剣に…しかも真顔で。
何なの…?もぉ!近い近いっ!と離れようとしたら、どこかに一旦視線をやって、私に戻しニヤッと笑った。『あともう一つ。感謝してもらわないとなぁ…』
はぁ?もぉ訳わからん。
「…とりあえず私の肩を肘おきにするの止めて」と、肩を動かしてヤツの腕を落とした。
丁度いい高さなんすよね。じゃっ!
とか何とか言いながら、サッサと休憩室を去って行ったよ。
「やれやれ…だよ」
私は、生ぬるい缶コーヒーを持ってオフィスに戻った。
その日は牧くんが外回りから戻る前に、私は自分の部署に戻ったので、後日の知るところになったのだが…。
私が一つ解決した業務改善が、一人の社員の不正を暴くことになったのだった。
それから一週間、牧くんの部署は鳥の巣をつついたかのような騒ぎでアドバイザーどころではなくなり、私は大人しく自分の部署での仕事に忙殺されていた。
樫本所長も不在がちで、幹部の皆さんで集まっての会議なのか、遅くまで会議室の電気がついていることも多かった。
『なんかあったんですかね?こんな騒ぎ以前もありましたよねぇ?何年前でしたか…』と、私の部署の子が営業途中の車内で話していた。
そっか…この子は知らないのかぁ。部署も違ったし、一緒に働いたことないもんね。
「そんなこともあったかねぇ。…まっ。目下我々の目標は、この渋滞を抜けて会議に間に合わせることだっ!」
お読み頂きありがとうございました!
長くなりそうなので、一旦切りました。
気長にお待ちくださいませ。




