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クイズクロニクル  作者: pj.masta


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第2巻 名前のない託宣 第7章 登録されない旅人

翌朝、閉じない輪の灯りはまだ外縁に残っていた。


夜のあいだに消えた灯りもある。霧に湿って弱くなった灯りもある。けれど輪は閉じていないままだった。開いたところには、僕が置いた「休みの中をまだ決めない札」がある。


札は白く乾いていた。


乾いているのに、触れると少しだけ温かい。夜の間、誰かがそこに手を置いていたのかもしれない。霧の巨像だったものが、歩く形を借りずに休むための場所として。


集落は静かだった。


怖さが消えたわけではない。でも、怖さを持って動くための順番ができていた。織り手たちは朝の支度をしながら、外縁の札を確認する。子どもたちは、見ていい灯りと見なくていい霧を自分で選ぶ。名前をつける係は候補名の札を別々の箱へ入れ、名前を置く係はそれぞれに小さな用途札を結んでいた。


「今日は登録網へ行きます」


リリウムが言った。


その声は昨日よりも整っていた。整っているぶん、何かを奥へしまっているのが分かった。


「七大陸登録網ですか」


僕が聞くと、リリウムは頷いた。


「正確には、シルヴァリス側の照合節です。七大陸全体へ直接触れるわけではありません。ただ、名前や来歴を照合するとき、照合節に写された各大陸色の登録符号や、輪番託宣の残響を読むことができます」


ククルーが首元の鈴を前足で押さえた。


「昨日、クロニクルブックに出かかった言葉だね」


「はい」


「ぼくの鈴も、そこで少し確認した方がよさそうだ」


ククルーは軽く言った。でも、声の奥は軽くない。


名前を置く係も同行することになった。係は肩から小さな棚を提げている。肩掛け棚。引き出しが三つあり、一つには空札、一つには薄い紐、一つには半透明の小石が入っている。


「歩く棚の親戚かな」


ククルーが聞くと、係は真剣に頷いた。


「歩く棚は本人が歩きます。これは、棚を歩かせます」


「家具の世界も奥深いね」


ククルーはそう言って、少しだけいつもの調子を取り戻した。


照合節は、集落の中心から少し外れた菌糸の塔にあった。


塔といっても、石や木でできているわけではない。太い菌糸が何本も寄り合い、上へ上へと編まれ、途中でいくつもの輪を作っている。輪の内側には薄い膜が張り、その膜に小さな照合符号が浮かんでいた。


七つの照合符号。


シルヴァリスは淡い緑。


ヴェルデガイアは深い水色。


アルカディアは金の砂。


ルミエールは銀白。


ノスタルジアは琥珀。


ヴォルテクスは蒸気の灰。


ネオンシャは、遠い夜の看板みたいな青紫。


どの光も小さかった。大陸そのものではなく、過去に写された登録符号の窓なのだとすぐに分かった。


塔の前には、照合係が三人いた。名前を置く係とも、名前をつける係とも違う外套を着ている。袖口には細い目盛りのような刺繍があり、腰には短い胞子筆が並んでいる。


「昨夜の件ですね」


照合係の一人がリリウムに言った。


リリウムは頷いた。


「霧の外縁で七大陸登録網の反応が出ました。旅人のクロニクルブックにも、同じ文字が浮かびました」


照合係たちの視線が、僕へ向く。


責められているわけではない。


でも、胸の中で持ち主名欄が小さく縮んだ。


「旅人さん」


照合係の一人が言った。


「確認のため、クロニクルブックを開いていただけますか。書き換えはしません。照合だけです」


「はい」


僕はブックを開いた。


ページは静かだった。昨日のように震えていない。けれど静かすぎる。何も知らないふりをしているみたいだった。


照合係は、直接ページに触れなかった。代わりに、胞子筆で空中に小さな輪を描く。輪は開いたまま、ページの上に浮かんだ。


「照合は問いかけです」


照合係が説明する。


「名前を決めるためではありません。登録網のどこに、同じ拍が残っているかを聞きます」


「拍」


「名前そのものより前のものです。歩き方、答え方、託宣への触れ方、祝福の受け取り方。大陸ごとに記録の仕方は違いますが、拍は少し残ります」


ククルーが低く言った。


「だから、名前がなくても照合できる」


「はい。普通は」


普通は。


その言葉が、塔の膜に触れた。


照合係は空中の輪を、クロニクルブックの持ち主名欄へそっと重ねた。


七つの照合符号が、順番に揺れる。


最初にシルヴァリスが光った。


淡い緑の点が、僕のページへ向かって細い胞子を伸ばす。胞子は持ち主名欄の手前で止まり、そこで小さな円を描いた。


照合係が耳を澄ませる。


「シルヴァリス、滞在記録あり。目覚め以降の接触記録あり。出身登録なし」


出身登録なし。


予想していたはずなのに、言葉になると胸が少し冷えた。


次に、ヴェルデガイアの水色が揺れた。


「接触記録なし。予告便の写しあり。出身登録なし」


まだ見ぬ水の大陸へ向かう胞子便の気配だろうか。水色の符号は、僕を知らないまま、いつか読むための余白だけを残しているように見えた。


アルカディア。


「接触記録なし。古い星図側に微弱な未分類反応。出身登録なし」


ルミエール。


「接触記録なし。法典側の照合反応なし。出身登録なし」


ノスタルジア。


琥珀の点が、少し長く沈黙した。


「接触記録なし。ただし、保存棚の奥に、読まれていない影あり。本人確認不可。出身登録なし」


ククルーの耳が動いた。


僕も、その言葉を胸に置いた。読まれていない影。今は一つにしない。


ヴォルテクス。


「接触記録なし。仮説棚に該当候補なし。出身登録なし」


そして、ネオンシャ。


青紫の点は、他の大陸よりも遅れて光った。


光った、と思った瞬間、ククルーの鈴が鳴った。


ちり。


昨日と同じ、一つだけの音。


照合係の筆が止まる。


ククルーは耳を少し伏せた。


ネオンシャの符号は、光ったまま震えている。文字になりそうな細い信号の写しが、膜の上を走った。けれど途中で何度も引き返す。届く前に遅らされているのではなく、写しの中で順番を探しているようだった。


「ネオンシャ」


照合係の声が少し硬くなる。


「接触記録、判定不能。古い案内記録に近似拍あり。ただし、旅人本人の出身登録とは一致しません」


「古い案内記録」


僕はククルーを見た。


ククルーは鈴を押さえたまま、ネオンシャの符号を見つめている。


「ククルーの?」


「今は、鈴が同じ拍に触れた、とだけ置いてほしい。ぼくのものかどうかは、分からない。分からない方が正確だよ」


ククルーはそう言った。


いつもの案内役なら、分からないことを少し柔らかく包む。でも今は、包む前に置き場所を探しているようだった。


照合係は七つの符号をもう一度見た。


「総合照合を行います」


塔の輪が低く鳴った。


七つの照合符号から、細い写しの線が同時に伸びる。線は僕のクロニクルブックの上で交わり、持ち主名欄へ降りようとした。


降りない。


何度も近づき、何度も横へそれる。線同士がぶつかるわけではない。僕を拒んでいるわけでもない。ただ、降りる場所が見つからない。


持ち主名欄は空いている。


空いているだけなのに、七つの線はそこへ入れない。


照合係の一人が、息を呑んだ。


「該当登録なし」


大きな声ではなかった。


でも、塔の中の膜がその言葉を何度も返した。


該当登録なし。


該当登録なし。


該当登録なし。


リリウムがすぐに手を上げた。


「反響を止めてください」


照合係が筆を振る。膜の反響は薄れた。


でも、消えた後の方が静かで、静けさの中に言葉が残った。


僕はクロニクルブックを見た。


該当登録なし。


第4章では、該当記録なし、と出た。あの時は、記録庫の大きな膜に出た。まだ遠い反応だった。今日は違う。今度は、該当登録なし。照合係がいて、七つの照合符号があって、生活の手順の中で確認された。


僕は、どこにも登録されていない。


それは、僕が誰でもないという意味ではない。


そう思いたかった。


でも、照合塔の前では、思うだけでは足りないことがあった。


照合係は困った顔をしていた。リリウムは僕の方を見ている。名前を置く係は空札を出しかけて、まだ止めている。ククルーは鈴を押さえたまま黙っている。


「これは、何が困るんですか」


僕は聞いた。


自分の声が思ったより普通だったので、少し驚いた。


照合係は慎重に言葉を選んだ。


「旅の通行そのものは、止まりません。シルヴァリスの滞在記録とリリウムさんの同行記録があります。ただ、世界樹本体へ近づく時、祝福循環の深い層では、誰が何を持ち込むかを確認します」


「僕は、持ち込めない?」


「持ち込めないとは決まっていません」


名前を置く係が口を挟んだ。


照合係は頷く。


「はい。決まっていません。ただ、通常の棚が使えません。旅人さんが受け取った託宣や祝福を、どの大陸の登録棚に仮置きするか判断できない」


「持ち歩き棚では」


僕が言うと、照合係は目を見開いた。


「持ち歩き棚が、反応したのですか」


名前を置く係が説明した。


第4章の胞子図書洞で、なかった棚が生まれたこと。


第5章で、半透明の小石が歩く棚として僕の手に戻ったこと。


第6章で、休みの中をまだ決めない札が巨像の歩く形を休ませたこと。


照合係たちは互いに顔を見合わせた。


「登録網の外で、棚が作られた」


一人が呟く。


「外ではありません」


名前を置く係が言った。


「胞子図書洞の内側です」


「でも、既存棚ではない」


「はい」


「未登録者のための新棚」


「決めすぎです」


名前を置く係の声が、少しだけ強くなった。


照合係は口を閉じた。


そのやり取りを聞いて、僕はようやく理解した。


困るのは、僕が空白だからだけではない。


空白のために新しい置き場所ができてしまったことが、困るのだ。


世界の棚は、世界を支えるためにある。大陸ごとの登録、滞在、祝福、託宣、通行、連絡。棚があるから迷わない。けれど、僕のためにできた棚は、どの棚にも入らない。


僕は、棚を増やしてしまった。


「すみません」


言ってから、違うと思った。


でも、言葉はもう出ていた。


ククルーが僕を見上げた。


「謝るところかどうか、まだ決めないでほしい」


「でも」


「でも、も置きましょう」


名前を置く係が空札を出した。


ククルーは小さく頷いた。


「うん。でも、はかなり大事だよ。謝りたい気持ちも、困っている事実も、まだ一緒に煮込まない方がいい」


照合係の一人が、空中に新しい輪を描いた。


「臨時の実務処理を提案します」


「実務処理」


その言葉は急に硬かった。けれど、硬い言葉があることで助かる場面もあるのかもしれない。感情では持てないものを、手順が持ってくれることがある。


「旅人さんの通行と祝福保持については、リリウムさんの同行記録、ククルーさんの案内記録、名前を置く係の持ち歩き棚記録の三点で仮保証します」


リリウムが頷いた。


「語り部として同行を記録します」


ククルーは少し遅れて頷いた。


「案内役として同行を記録するよ。ただし、ネオンシャ側の古い案内記録は、未確定として分けておいてほしい」


名前を置く係も頷いた。


「持ち歩き棚の発生と、歩く棚の拍を記録します」


照合係は僕へ向き直った。


「旅人さんご本人にも、仮署名をお願いします」


「名前がないのに?」


「名前ではありません。あなたが、この手順を今は持ち歩く、という確認です」


今は持ち歩く。


第4章から続いている言葉が、また戻ってきた。


僕は筆を受け取った。胞子筆は軽い。軽いのに、指先が震える。


署名欄には、名前を書く場所がない。


代わりに、三つの小さな欄があった。


聞いたもの。


置くもの。


返す時を待つもの。


僕は少し考えた。


聞いたもの、の欄に、休みの中の泣き声、と書いた。


置くもの、の欄に、該当登録なし、と書きかけて、止めた。


その言葉をそのまま置くと、重すぎる。


僕は横に小さく、まだ登録されない、と書いた。


返す時を待つもの、の欄で、手が止まった。


何を返すのか、分からない。


名前か。


空白か。


僕自身か。


半透明の小石が手の中で温かくなる。


僕は、分からない、と書いた。


照合係はその三つの欄を見た。


「返す時を待つものが、分からない」


「はい」


「そのまま登録します。仮保証記録としては、むしろ正確です」


正確。


リリウムが使いそうな言葉を、照合係が言った。その時、リリウムの表情が少しだけ動いた。


塔の膜に、僕の仮保証記録が浮かぶ。


名前はない。


出身登録もない。


でも、三つの支えがある。


リリウムの同行記録。


ククルーの案内記録。


名前を置く係の持ち歩き棚記録。


そして、僕自身の「今は持ち歩く」確認。


七つの照合符号は、もう一度揺れた。


シルヴァリスが、淡く安定した。


ヴェルデガイアの水色が、予告便の写しとして小さな輪を作った。まだ行ったことのない大陸なのに、川の向こうから手紙が届く前の気配だけが残っていた。


ネオンシャの青紫は、遅れて一度だけ揺れた。


ククルーの鈴は鳴らなかった。


鳴らなかったけれど、ククルーはその点滅を見て、長く目を閉じた。


「ククルー」


僕が呼ぶと、ククルーは目を開けた。


「今は、ここにいるよ」


「本当に?」


「大丈夫という棚に置くには、少し大きいね」


ククルーは困ったように笑った。


「なので、今は案内を続けられる、くらいにしておくよ」


僕は頷いた。


照合係は仮保証の札を三枚作った。一枚はリリウムへ。一枚はククルーへ。一枚は名前を置く係の肩掛け棚へ。


僕には、札ではなく小さな紐が渡された。


「これは」


「登録紐ではありません。仮保証記録へ戻るための紐です。世界樹本体へ近づく時、照合を求められたら、この紐を灯り紐の近くへ結んでください」


紐は淡い灰色だった。


どの大陸の色でもない。


でも、どの大陸の色でもないからこそ、七つの光の間を通れそうに見えた。


僕は手首の灯り紐の近くへ、その灰色の紐を結んだ。


一つ。


休み。


もう一つ。


灯り紐がいつもの拍で光る。


灰色の紐は、光らない。


光らないまま、そこにある。


それだけで、少し安心した。


照合は終わったはずだった。


でも、塔の奥で、薄い膜が一枚だけ遅れて揺れた。


照合係が振り返る。


「今の膜は」


「古い未整理棚です」


別の照合係が答えた。


「通常照合には出ません」


膜の向こうに、細い文字が浮かぶ。


リリ。


昨日、霧の休みの中で聞こえた声と同じだった。


リリウムの袖札が、強く光った。


今度は隠しきれないほどに。


照合塔の七つの照合符号が、すべて少し暗くなる。暗くなった分だけ、古い未整理棚の膜が明るく見えた。


リリウムは動かなかった。


けれど、息の仕方が変わった。


名前を置く係が小さく言う。


「その記録は、登録網に混じっていたのですか」


照合係は首を横に振った。


「いいえ。混じっていたというより、登録されないものの照合に反応して、奥から浮きました」


登録されないもの。


僕の照合が、リリウムの古い記録を起こした。


また、すみません、と言いそうになった。


今度は飲み込んだ。


飲み込んだ言葉を、胸の中で空札へ置く。


リリウムは袖札を押さえたまま、僕を見た。


「あなたのせいではありません」


先に言われてしまった。


「でも」


「でも、も置きます」


リリウムは少しだけ笑った。


その笑いは疲れていた。でも、逃げる笑いではなかった。


「この手順が終わったら、話します」


リリウムの言いそびれ。


僕の中では、その名前が静かに棚へ置かれた。


照合塔の古い膜には、リリ、の後が浮かばない。


呼びかけて止まったまま。


リリウムはその止まった声へ、今は返事をしなかった。


でも、昨日と同じように逃げもしなかった。


「今日は、旅人さんの仮保証を先に整えます」


リリウムは照合係に言った。


「私の記録は、その後で」


照合係は深く頷いた。


名前を置く係は、肩掛け棚の一番下の引き出しを開けた。そこには、何も入っていない小さな空間がある。


「ここへ、今日の分を置きます」


「何を」


僕が聞くと、係は言った。


「登録されないことが、すぐに消えるべき間違いではなく、次の手順を必要とする状態であること」


長い言葉だった。


でも、その長さに救われた。


短くすると、たぶん僕はまた怖くなる。


未登録。


異常。


不明。


そういう短い言葉は便利だ。便利だから、刺さる。


長い言葉は持ちにくい。けれど持ちにくいぶん、簡単に投げられない。


僕は灰色の紐を見た。


登録されないことが、すぐに消えるべき間違いではなく、次の手順を必要とする状態であること。


今は、それを持ち歩く。


照合塔を出ると、外の霧は少し高くなっていた。膝ではなく、腰のあたりを漂っている。閉じない輪の灯りは、朝よりも弱い。でも消えていない。


遠くで、霧の巨像だったものの気配がした。


足音ではない。


泣き声でもない。


ただ、誰かが休んでいる気配。


僕は手首の灯り紐と灰色の紐を見比べた。


光るもの。


光らないもの。


どちらも、今は必要だった。


ククルーが隣を歩きながら言った。


「旅人さん」


「はい」


「登録されないことは、きみが世界の外にいる証拠じゃないよ」


僕は返事をしなかった。


ククルーは続けた。


「ただ、世界の棚が、まだきみの置き方を知らないということだね」


「それは、助けになることなのかな」


「いいこと、という棚にはまだ置けないね」


ククルーは僕を見上げた。


「でも、悪いこと、という棚へ急いで入れる必要もないよ」


その言い方は、ククルーらしかった。


答えをくれない。


でも、立っていられる場所をくれる。


リリウムは少し前を歩いている。袖の古い札は、布の下でも淡く光っていた。名前を置く係は、その光を見ないふりをしている。見ないふりではなく、今は見すぎない作法かもしれない。


照合塔の方から、鐘ではない薄い音がした。


仮保証記録が登録された合図だと、照合係が言っていた。


僕には名前がない。


出身登録もない。


でも、今日の手順はある。


その手順は、僕一人のものではない。リリウムの同行、ククルーの案内、係の棚、七つの照合符号、そして僕自身の分からないという署名でできている。


空白は、一人で空いているわけではなかった。


そう思った時、クロニクルブックが胸元で小さく震えた。


開くと、新しい項目ができていた。


七大陸登録網。


その下に、細い字でこう書かれている。


登録されない旅人。


僕はその文字を見て、すぐに閉じたくなった。


でも、閉じなかった。


文字は僕を閉じ込めるためにあるのではない。


次に照合する人が、まったく初めから怖がらなくていいようにある。


僕はページの下へ、そっと指を置いた。


文字は変わらない。


変わらないけれど、隣に小さな空欄ができた。


そこにはまだ何も書かれていない。


次に開くための空欄。


リリウムの言いそびれが、そこで静かに待っていた。

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