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クイズクロニクル  作者: pj.masta


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第15巻 森と滝の連絡便 第6章 カスカーダの細い滝

細い滝は、大きな滝のそばに隠れていた。


隠れていたと言っても、見つからないようにしていたわけではない。大きな水音が先に耳へ届くので、小さな水音を聞く前に、聞いた気になってしまうだけだった。ナナムは水路の脇で足を止め、葉の向きを一枚ずつ見た。旅人も立ち止まる。ククルーは耳を動かし、大きな滝の方ではなく、葉の裏側へ顔を向けた。


細い滝へ向かう道は、水路のすぐ横を通っていなかった。


水路に沿って歩けば早い。水の音を目印にできるし、葉橋も整っている。だがナナムは、わざと水路から半歩離れた苔の道を選んだ。苔の道は、足を置くたびに少し沈む。沈むから、歩く速さが水の速さに合わない。水は先へ流れていくのに、足元は待つ。旅人はそのずれを最初、少しもどかしく感じた。


「水路沿いではないんですね」


旅人が言うと、ナナムは振り返らずにうなずいた。


「水路沿いに行くと、水がもう案内している顔をします。案内されると、着く前に分かった気になります」


ククルーは苔の上で足を上げ下げし、沈み具合を確かめていた。


「なかなか歩きにくい道です」


「歩きにくい方が、音を聞きすぎません」


ナナムはそう言い、苔の切れ目に小さな葉札を置いた。葉札には文字がない。代わりに、水滴が一粒だけ乗っている。水滴は水路から来たものではなく、葉の裏で朝から待っていた露だった。


「これは、道しるべですか」


「道しるべに見える露です」


ナナムの返事は真面目だった。


「道しるべと決めると、後ろの人が同じところだけを踏みます。同じところだけ踏むと、苔が早く固まります。固まった道は、また水路みたいな顔をします」


旅人は、足元の苔を見た。いくつかの場所は、前に誰かが通ったのだろう、少し濃く沈んでいる。けれど、その沈みは線になっていない。線になりかけたところに、ナナムが露の葉札を置き、道になりきる前の迷いを残している。


細い滝へ行く道も、細い滝そのものと同じだった。


大きな滝へ向かう道は、祝祭の日には誰でも分かる。花の紐が張られ、歌声が流れ、葉橋は磨かれる。そこを歩けば、祝福を受けに行く人の顔になる。けれど今日は、便の湿りと祝福水の音を混ぜずに見るために来ている。祝福の道の顔を借りすぎると、便まで祝福の列に入ってしまう。


旅人は浅い連絡袋を持ち直した。袋の底には、丸い印、細い印、空いた印がある。どれも水路を通って来たものではない。森で見た手の位置を、ヴェルデガイア側で同じ高さに置くための軽い印だった。いま苔の道を歩くことで、その印たちも水路の速さから少し離れている。


「細い滝は、どのくらい細いのかな」


ククルーが聞いた。


「見ようとすると、少し太くなるね」


ナナムは当然のように答えた。


「見られていると思うと、水が集まるのですか」


「水ではなく、こちらの目が集まります。目が集まると、小さいものが大きな役目を持ちます」


ナナムは水路図の布を軽く押さえた。


「だから、先に目を少し散らします」


彼女は道の脇の葉を三枚指した。一枚は虫に食われて穴があいている。一枚は端が丸まり、裏が見えている。一枚は露を乗せたまま、少し傾いている。どれも、細い滝へ直接関係があるわけではない。だが、見る目を一か所へ寄せすぎないための葉だった。


旅人はそれを順に見た。


穴のあいた葉。裏が見えている葉。露をこぼさない葉。


それぞれを見ているうちに、大きな滝の音が少し後ろへ下がった。消えたわけではない。耳の真ん中を占めすぎなくなったのだ。ククルーも耳を片方ずつ動かし、音の場所を分けている。


「目を散らすと、耳も少し落ち着くね」


「耳だけで聞くと、水が強いです」


ナナムは言った。


「葉の穴も、裏も、露も一緒に見ると、水の音がただの大きい声ではなくなります」


旅人はその歩き方を覚えた。細い滝へ行くとは、目的地へ近づくことではなく、耳と目の高さを少しずつ変えることだった。水路を離れ、苔を踏み、葉を見て、露を見て、大きな水音が自分の中で強くなりすぎないようにする。そうしてやっと、小さな音を聞く準備ができる。


「聞こえそうで、聞こえないね」


「聞こえない?」


「聞こえる前に、大きい方の音が来ます」


ナナムはうなずいた。


「カスカーダの細い滝は、そういう場所です。大きな祝福水の音に、細い音が混ざりやすいんです」


旅人は、遠くに見える瀑布樹カスカーダを見上げた。巨大な幹からいくつもの水の筋が落ち、葉の間で光っている。生命の祝福を運ぶ水。かつて祝祭の雨を戻した大きな流れ。けれど今、その大きな流れに答えを求めると、便の小さな湿りまで祝福の音にしてしまいそうだった。


「世界樹に聞けば分かる、とはしない」


旅人が言うと、ナナムはほっとしたように肩を下ろした。


「うん。カスカーダは流れを持っているね。でも、便の行き先を答える係じゃないよ」


ククルーは真面目な顔でうなずいた。


「大きな樹ほど、便利な案内役にされがちだからね」


「案内役もですか」


「案内役もだよ。気をつけることが多いね」


ナナムは少し笑い、すぐに水路の足元へ目を戻した。そこには、三枚の葉が並べられていた。どれも同じ緑ではない。一枚は水をよく弾き、一枚は水を少し含み、一枚は葉脈に沿って水を細く分ける。


「流れ分けの葉です」


ナナムは一枚ずつ指した。


「これは祝福水の音を聞く葉。これは便が触れたかもしれない湿りを見る葉。これは、二つを同じにしたくなる手を置く葉です」


三枚の葉は、ただ置かれているのではなかった。


一枚目の下には、丸い石が半分だけ埋まっている。水を弾いた時、その震えが石へ伝わり、音が少し低くなる。二枚目の下には、柔らかい苔が敷かれていた。湿りを含みすぎず、逃がしすぎず、影だけを少し長くするための苔だ。三枚目の下には、何もない。何もないために、葉脈の細かさがそのまま見える。どこへでも流れそうに見える危うさを、隠さないためだった。


ナナムは一枚目を指で押さえなかった。葉の端に触れ、葉が自分で戻るのを待つ。二枚目には、息をかけなかった。湿りの変化を早めないためだ。三枚目には、手を近づけただけで止めた。近づけると、自分の手まで葉脈の一部に見えそうになる。


「扱いが違うんですね」


旅人が言うと、ナナムはうなずいた。


「同じように扱うと、同じものに見えます。違いを見せるために違う扱いをするのではなく、もともと違う扱いをしないと、それぞれが見えなくなります」


ククルーは三枚目の葉をじっと見た。


「ぼくは、三枚目に印を強く置きたくなるね」


「印を強くすると、何を見る葉か決まってしまいます」


ナナムが言うと、ククルーは前足を引っ込めた。


「危ないところだったね」


旅人は、三枚の葉の間にある小さな空きを見た。そこには水も影もない。だが、空きがあるから、葉は互いの役割へ寄りかかりすぎない。一枚目の震えが二枚目へ移る前に、空きが少し休ませる。二枚目の湿りが三枚目の葉脈へ流れ込む前に、空きがそれを見せる。


「空きも道具ですか」


「道具にすると、空きが働きすぎます」


ナナムは少し考えてから言った。


「でも、空きがないと、道具が働きすぎます」


旅人はうなずいた。低い棚、責めない皿、受け取り台、そして流れ分けの葉。どれも、物だけではなく、物と物の間が大事だった。間があるから、手がすぐ一つの結論へ行かずに済む。


「三枚目は、流れを見る葉ではない?」


「手を見る葉です」


旅人は三枚目を見た。葉脈が細かく、どこに水を落としてもすぐ道のように見える。道のように見えるから、危うい。祝福水と便の湿りが同じ葉脈に沿ったら、つながったと言いたくなる。


ナナムは、聞く前の台から持ってきた小さな水滴を、最初の葉の端へ置いた。


水滴はすぐに弾かれ、丸いまま震えた。大きな滝の音と同じ拍で震えているように見える。けれど、ナナムはすぐにそうは言わなかった。


「祝福水の音に近い震えです」


「祝福そのもの、ではなく?」


ククルーが聞くと、ナナムは首を横に振った。


「それを言うには、樹の側を高くしすぎます」


旅人は浅い連絡袋から、丸い印、細い印、空いた印を取り出した。印は少し乾いている。受け取り台で触れた湿りは、完全には消えていないが、ヴェルデガイアのものになりきってもいない。


「便の湿りは、どこへ」


ナナムは二枚目の葉を示した。


「ここへ近づけます。載せるとは、まだ言いません」


旅人は細い印を二枚目の葉のそばへ置いた。葉は水を少し含み、印の影をやわらかくした。影は伸びたが、流れにはならない。細い印は、まだ細い印のままだ。


大きな滝の音が、ふっと低くなったように感じた。


実際に音が変わったのではない。耳が、細い印の影を見たことで、別の音を探し始めたのだ。旅人はその変化を言葉にする前に、三枚目の葉を見た。


「今、二つを結びたくなった」


ナナムもうなずいた。


「ナナムもです。祝福水の震えと、便の影が同じ高さに見えました」


「同じ高さに見えると、一つの流れにしたくなる」


「はい」


ナナムは三枚目の葉へ、指先だけを置いた。水はない。印もない。そこに置かれたのは、つなげたくなる手だった。


ククルーは葉をのぞき込み、ひげを少し上げた。


「三枚目の葉は、なかなか働き者だね」


「働き者だから、名前を付けすぎないでね」


ナナムの返事に、ククルーは口を閉じてうなずいた。


細い滝の音が、ようやく聞こえた。


大きな滝の奥ではなく、足元の葉の間から来る音だった。水が落ちる音というより、葉脈を一つずつなぞる音に近い。流れているのに、急いでいない。運んでいるのに、着いたとは言わない。祝福水の音とも、便の湿りとも、似ているが同じではない。


旅人は息を止めずに聞いた。


「便の音ですか」


ナナムはすぐには答えなかった。


「便の音に似ています。でも、便だけの音ではありません。祝福水の音にも似ています。でも、祝福だけの音でもありません」


「じゃあ」


「細い滝の音です」


その答えは、何も解決しなかった。けれど、何かを混ぜずに済んだ。旅人はそのことに安堵した。


細い滝のそばには、浅い水皿が置かれていた。ナナムが用意したものではなく、前からそこにあるもののようだった。皿の縁には小さな葉の欠けがあり、水は半分しか入っていない。半分しか入っていないから、音を全部受け取った気にならずに済む。


「これは」


「ここでは、浅い水皿と呼んでいます」


ナナムは言った。


「音をすくいすぎないための皿です。今日は、細い滝の音を少しだけ持ち帰るなら、これを使います」


旅人は皿を持ち上げなかった。持ち上げる前に、持ち上げたい手を見る。音を持ち帰りたい。森へ戻して、胞子灯と並べたい。そうすれば、何か分かるかもしれない。届かなかった便に似た影のことも、流れなかった招待札にしたくなる札のことも、少し見えるかもしれない。


その手は、ある。


あるけれど、皿いっぱいにすくう必要はない。


旅人は浅い水皿を、細い滝の下へほんの少し近づけた。水は皿に入らなかった。かわりに、音だけが皿の縁を震わせた。小さな震えが、丸い印、細い印、空いた印の影へ順に触れる。


丸い印は、水を受け取った形に見えた。


細い印は、流れた形に見えた。


空いた印は、何もないところへ音が通った形に見えた。


どれも、見えただけだった。


「持ち帰るのは、音そのものではないですね」


ナナムが言った。


「音が触れた時の、見え方」


旅人は答えた。


ククルーは小さく首を縦に動かした。


「軽い荷物だね。落としても、落としたことを責めにくい」


「落としたら、また聞きに戻る」


旅人が言うと、ククルーは目を細めた。


「落としたあとも、戻って聞けるんだね」


ナナムは流れ分けの葉を三枚とも元の位置へ戻した。葉は乾いていない。けれど、濡れたことで役目を終えたようにも見えない。祝福水の震え、便の影、つなげたくなる手。三つは同じ場所にありながら、混ざっていなかった。


「これで、何か分かったと言うには早いね」


ナナムが言った。


「でも、分けて見られる場所はできた」


旅人が言うと、ナナムはうなずいた。


分けて見られる場所は、すぐに片づけられなかった。


ナナムは三枚の葉を元へ戻したあと、葉の下に残った丸い石、苔、何もない空きをもう一度見た。見たあとで、石のまわりの水を拭かず、苔の端を整えず、三枚目の下の空きを埋めなかった。


「片づけないのですか」


旅人が聞くと、ナナムは首を横に振った。


「片づけると、終わった手順になります。残しすぎると、次に来た人が結果だと思います。だから、戻すけれど終わらせません」


彼女は葉の横に、小さな横向きの札を置いた。札は立てない。立てれば説明になる。横に寝かせることで、そこに何かが行われたとだけ分かる。


「横向き札だね。水路側では、今日はここまで、でもまだ終わりではない場所に置こう」


ククルーは横向き札をのぞき込んだ。


「横向きは、なかなか謙虚だね」


「縦にすると、読む顔になります」


ナナムは答えた。


旅人は横向き札の低さを覚えた。次に森へ戻った時、菌糸と水路を同じ布に置くなら、こういう低い札が必要になる。ここで分けたことを成果にせず、かといってなかったことにもせず、次の場所へ運ぶための向き。


細い滝の音が、横向き札のそばで一度だけ薄くなった。水が弱まったのではない。こちらが、音を持ち帰りすぎない姿勢になったからかもしれない。


「はい。第七の、いえ」


ナナムは言いかけて、自分で止まった。


「次に見る場所へ、細い音を持って行けます」


旅人は、その言い直しをありがたく思った。番号にすると、進んだ気になる。進んだ気になると、今見たものが足場ではなく成果になる。ナナムも、それに気づいたのだろう。


細い滝の音は、まだ続いている。


旅人は浅い連絡袋を開いた。袋の底にある三つの印の隣へ、浅い水皿の縁で受けた小さな震えを、言葉にしないまま置く。置いたと言っても、見えるものではない。袋の口の内側が、ほんの少し涼しくなっただけだった。


「森へ戻すんですか」


ナナムが聞いた。


「戻す前に、間へ置く場所がいる」


旅人は答えた。


「菌糸と水路を、一つにしない場所」


ナナムの目が、水路図の布へ落ちた。


「間の台ですね」


「まだ台とは決めない」


「はい。台になりたがる場所、ですね」


ククルーが小さく笑った。


「みなさん、だんだんぼくの出番を減らすね」


「出番がなくなるわけじゃないよ」


旅人は言った。


「ククルーも、そこで一緒に見る」


ククルーの鈴が、鳴らないまま少し揺れた。水音に触れたのか、風に触れたのか、まだ分からない。けれど、揺れたことだけは見えた。


ナナムは、受け取り台の方へ戻る前に、細い滝へ頭を下げなかった。代わりに、流れ分けの葉を一枚ずつ、元の葉陰へ差し戻した。礼ではなく、位置を戻す手だった。


カスカーダは何も答えなかった。


大きな滝も、小さな滝も、同じように流れ続けている。けれど、旅人の耳には、もうすべてが一つの水音には聞こえなかった。祝福水の音に近い震え。便の湿りに近い影。つなげたくなる手を置いた葉。細い滝の音が触れた時の見え方。


それぞれが、同じ水辺にある。


混ざっていないから、次に並べられる。


旅人は浅い連絡袋を持ち、ナナムとククルーと一緒に、細い滝から少し離れた。水音はすぐ後ろについてこない。けれど、袋の内側に残った涼しさが、歩くたびにほんの少し揺れた。


次に必要なのは、森と滝を一つの道にすることではない。


二つの音が同じ場所で聞こえた時、どちらも消さずに置ける間を探すことだった。

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