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クイズクロニクル  作者: pj.masta


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第13巻 ネオン雨の情報屋 第1章 ネオン雨の入口

歩廊は、濡れているように光っていた。


けれど、足裏に水の冷たさはない。


旅人は一歩だけ進み、すぐに止まった。止まったのは怖かったからではない。足元の光が、こちらの足より少し遅れて色を変えたからだ。


青い線が靴のまわりを細く囲む。


次に、薄い緑。


その次に、白に近い桃色。


色は足を追っているように見える。だが、追っていると決めるには早い。歩いた跡に、歩廊が返事をしているようにも見えた。


旅人は、低い声で言った。


「足のあとに、色が来た」


ククルーは、前足を歩廊へ置く前に、ひげだけを外へ出した。


「足より先に色が来るより、だいぶ礼儀正しいね」


ネジリが、飛空艇の出入口から身を乗り出した。


「足より先に色が来ることもあるのですか」


「ネオンシャでは、あるかもしれないね」


ククルーは軽く言った。軽い声だった。けれど、足はまだ出ていない。


旅人は、そのことを見て、何も聞かなかった。


聞かないかわりに、戻れる席の札を振り返る。飛空艇の床と歩廊の境目に置いた札は、まだそこにある。外へ出ても戻れる。戻っても、外へ出たことは消えない。


シオンは歩廊へ降り、先に片膝をついた。手袋をした指で床の光をなぞる。指先は濡れない。ただ、なぞったあとに小さな点が三つ浮かんだ。


「入口の足あと灯です」


「足あとですか」


ネジリが降りながら聞いた。


「足あとのように見える灯です。ここでは、初めて入る人がどこで立ち止まったかを、床が少しだけ覚えます」


「覚えるのですか」


ネジリの声が少し高くなった。


シオンは首を横に振る。


「覚えたように見える、です。長くは残りません。案内係が、迷っている人に気づくための灯です」


旅人は、床に浮かんだ点を見た。点は三つある。さっき掲示板の下で見た、返事に見える印に少し似ていた。


似ている。


同じではない。


旅人は小札を出した。


`足あと灯`


その横に、もう一枚。


`返事に見える印と、少し似ている`


「似ている、と書くのはよいですね」


教授がうなずいた。


「同じ、と書くには、まだ材料が足りません」


ネジリは真面目に、同じ、と書きかけた小札を裏返した。


「裏返しました」


「同じ、と書く手前で止まれたんだね」


ククルーがそっと言うと、ネジリは少し胸を張った。


その時、歩廊の上を、透明な屋根の影が横切った。


屋根は雨宿りの屋根に見える。けれど、屋根の下を通る人たちは、雨を避けている様子ではない。立ち止まっている人もいれば、屋根の外へ出て、色の線が肩のそばを通るのを待っている人もいる。


色の線は、人の体に当たらない。


当たらないように見える。


当たったあとで、光だけが横へ流れているようにも見える。


旅人は、雨信号布を一度広げた。布は歩廊の端で、ふわりと空気を受ける。ネオン雨が近くを通るたび、銀糸だけが短く光った。


青。


薄い緑。


白に近い桃色。


そして、名前をつけにくい明るさ。


「同じです」


ネジリが言い、すぐに布の前で口を押さえた。


「同じに見えました」


教授はうなずいた。


「その言い直しで、布の仕事ができました」


ククルーが、ようやく歩廊へ前足を下ろした。床の足あと灯は、ククルーの前足のまわりで小さく丸くなった。丸くなって、すぐにほどける。


「ぼくの足には、少し遠慮があるね」


「遠慮ですか」


「毛があるからね」


ネジリは、ククルーの前足を見た。それから、自分の靴を見た。


「靴にも、遠慮はありますか」


「靴には、たまに急ぐ気持ちが入るよ」


ククルーはいつもの調子で言った。今度は、少しだけ本当に笑っているように聞こえた。


入口の歩廊は、ゆるやかに曲がっていた。曲がった先に、細い路地がある。路地と言っても、壁に囲まれた暗い道ではない。透明な板と低い掲示台、光を受ける水盤のような床、短い屋根の影が重なった、明るい道だ。


反射路地。


そう呼びたくなる場所だった。


でも、まだ呼ばない。


シオンが先に札を出した。


`反射路地、と呼ぶ人がいる`


「名前が先に走らないように、呼ぶ人がいる、で置きます」


旅人はうなずいた。


路地の入口には、濡れた掲示板があった。プロローグで飛空艇から見た掲示板より近い。近いぶん、文字は読みやすいはずだった。


だが、近づくほど読みたくなる文字が増えた。


`入口案内`


`右の屋根は修理中`


`雨見台は満席`


`短い知らせ札は一人一枚`


`迷ったら止まる`


文字は一つずつ出ているのに、目には一度に届く。届くから、分かった気になりそうになる。


旅人は、最初に読めたものを選ぼうとして、手を止めた。


最初に読めたもの。


大事に見えたもの。


近くで光ったもの。


それらは、同じではない。


旅人は掲示板の前に、小札を三枚置いた。


`最初に読めた`


`大事に見えた`


`近くで光った`


ククルーが、三枚の間にしっぽを入れないようにして覗き込む。


「三枚に分けたから、しっぽを置かずに見られるね」


「しっぽも読むのですか」


ネジリが聞いた。


「しっぽは、読まれると困る時があるね」


そう言って、ククルーはしっぽを丸めた。ほんの少しだけ、さっきより速く。


旅人は、それも見た。


見たが、まだ札にしない。ククルーを札にするためではなく、聞きたくなった手が先に走らないようにするためだ。


掲示板の下には、細い箱があった。箱のふたには、小さな文字が浮かんでいる。


`短い知らせ札`


シオンは箱を開けた。中には、指二本分くらいの細い札が何枚も入っていた。どの札も薄く、端に小さな穴がある。


「入口で使う知らせ札です。長く書くと、雨に流れた時に読みにくくなります。短く書くと、遠くまで届きやすくなります」


ネジリは一枚取った。


「短い方がよいのですか」


「短い方がよい時があります」


シオンは、すぐに言い直した。


「短い方が、よく見える時があります」


教授が、短い知らせ札を光に透かした。


「よく見えることと、よいことは違います」


ネジリは札を見つめた。


「短くすると、落とす言葉があります」


「はい」


シオンはうなずいた。


「だから、入口では短い知らせ札を一人一枚だけにしています。知らせる前に、何を落としたか自分で見るためです」


旅人は、短い知らせ札を一枚手に取った。軽い。軽すぎて、書いた言葉がすぐ飛んでいきそうだった。


何を書くか。


入口。


着いた。


雨。


信号。


どれも短い。


どれも、落とすものが多い。


旅人は札に書かなかった。かわりに、札の裏へ小さく印をつける。


`まだ短くしない`


ネジリもまねをしようとして、止まった。


「まねをすると、考えたことになりますか」


「まねは、入口になります」


教授が答えた。


「でも、入口を通ったあと、自分の足あと灯を見た方がよいです」


ネジリは自分の足元を見た。足あと灯はもう薄くなっている。完全には消えていない。薄い緑の点が一つだけ、靴の後ろに残っていた。


「まだ残っています」


「残っているうちに見ると、急がなくてすみます」


シオンはそう言って、掲示板の横へ進んだ。


反射路地に入ると、音が増えた。


雨音ではない。


でも、雨音のように細かい。


信号音ではない。


でも、信号音のように短く切れる。


上から落ちる色の線が、屋根の端で小さく鳴る。掲示板の文字が薄くなる時、紙をめくるような音がする。誰かが短い知らせ札を箱へ戻すと、ちい、と高い音が鳴る。


三つの音は、重なる。


重なると、ひとつの知らせに聞こえそうになる。


旅人は立ち止まり、耳ではなく、足元を見た。


足あと灯がまた光る。今度は青ではない。白に近い桃色が、靴の右側にだけ出ている。


「右へ行け、でしょうか」


ネジリが小さく言った。


シオンは首を横に振った。


「右にも光が出た、です」


「右へ行け、ではない」


「はい」


「でも、右へ行きたくなります」


「それも置けます」


旅人は、小札を出した。


`右にも光が出た`


その横に、ネジリが書く。


`右へ行きたくなった`


ククルーは、二枚の札の間を見て、小さくうなずいた。


「歩く前に、行きたくなった手を見ているんだね」


その時、路地の奥から、短い声が来た。


「右は、屋根の修理中です」


声は近く聞こえた。だが、声の主はすぐ近くにはいない。掲示板の下にある小さな音筒から聞こえたのだ。


ネジリは驚いて、右足を引いた。


「右へ行かない方がよい、ですか」


音筒は答えない。


代わりに掲示板の文字が一つ浮かぶ。


`右の屋根は修理中`


それだけだった。


行くな、とは書いていない。


行け、とも書いていない。


旅人は、さっきの三枚の札の下へ、新しい札を置いた。


`右の屋根は修理中、と聞こえた`


ククルーが、その下に小さく足した。


`行くな、とはまだ聞いていない`


シオンは少しだけ笑った。


「ネオンシャの入口で、その札が置けるなら、だいぶ安心だね」


「安心してよいのですか」


ネジリが聞いた。


「安心したくなった、と置くのがよいです」


ネジリは、短い知らせ札を見つめた。


「短くすると、安心も速くなります」


「速い安心は、悪いものではありません」


教授が言った。


「ただ、返事の場所をなくすことがあります」


旅人は、プロローグの紙帯を思い出した。返事待ち回線の前。まだ誰にも送っていないのに、返事を置ける場所を空けるための線。


ここにも、それに似たものがある。


路地の両側に、細い溝が走っている。水路に見える。だが、水は流れていない。色だけが、時々、溝の中をすっと通る。通ったあと、掲示板の文字が一つ薄くなる。


「これは水路ですか」


旅人が聞くと、シオンは答えを少し置いた。


「知らせ路です」


「知らせが流れるのですか」


「流れるように見えます」


シオンは、今度は先に言い直した。


「本当には、流すものと、残すものと、返事を待つものが分かれています。入口では、分かれているところまでは見えません」


「見えないのに、流れているように見える」


「はい」


旅人は溝の横へしゃがんだ。色が通る。薄い緑。白に近い桃色。青。


通ったあと、路地の奥の小さな看板が光った。


看板には、猫の横顔のような形があった。


黒く見える。だが、影ではない。濡れた板に反射した色が、黒に近く重なっているだけだ。


文字は、まだ読めない。


読めないのに、誰かがこちらを見ているように感じた。


ネジリも看板に気づいた。


「黒猫です」


ククルーの耳が、ほんの少しだけ動いた。


旅人は、その動きに気づいた。ククルーはすぐにいつもの顔で、看板を見上げた。


「ネオンシャには、猫に似た看板も多いね」


「ククルーに似ていますか」


ネジリが聞く。


ククルーは、少し考えた。


「ぼくの方が、もう少し丸いね」


その答えに、ネジリは安心したように笑った。


旅人は笑いながらも、小札を一枚だけ置いた。


`黒猫のような看板`


その横に、何も書かない札を置く。


誰のものか。


何の店か。


こちらを見ているのか。


それはまだ、入口の路地では決めない。


掲示板の前に戻ると、短い知らせ札の箱の横に、別の小さな箱があることに気づいた。こちらには、札が入っていない。空だ。


`聞き返し札`


文字は、短く浮かんでいた。


「これは空です」


ネジリが言った。


「空の箱です」


シオンはうなずいた。


「短い知らせ札を出した人が、あとで聞き返された時に使う札です」


「先に空なのですか」


「先に空です。短く知らせるなら、あとで聞き返せる空きを用意します」


旅人は、その箱の前で長く息を吐いた。


短い知らせ札。


聞き返し札。


足あと灯。


濡れた掲示板。


反射路地。


音筒。


どれも、見ればすぐ分かる道具に見える。けれど、どれも、すぐ分かったことにしないための道具だった。


旅人は、短い知らせ札にようやく一つ書いた。


`入口にいる`


短い。


短すぎる。


でも、今の足の場所だけなら、書ける。


その横に、聞き返し札の箱へ空白を一枚入れる。


`入口のどこにいるか、聞き返せる`


ククルーはそれを見て、ひげをゆっくり揺らした。


「入口にいる、だけでは迷子になりそうだけれど、聞き返せるなら、迷子になりきらずにすむよ」


「迷子になりきらない」


ネジリはその言葉を気に入ったように繰り返した。


路地の奥で、猫の横顔の看板がもう一度光った。


今度は、文字が一つだけ読めた。


`あとで`


それだけだった。


あとで。


今ではない。


来い、でもない。


待て、でもない。


あとで、と読めた。


旅人は、札に書いた。


`あとで、と読めた`


ククルーが、その札を見て、ほんの少しだけ息を止めた。


止めたように見えた。


そのあと、いつもの声で言う。


「あとでは、とても便利な言葉だね。便利すぎるから、棚が必要だね」


「棚ですか」


「あとで、と言ったものを、どこへ置いたか忘れない棚だよ」


旅人は、戻れる席の札を思い出した。飛空艇の出入口。外でも中でもないところ。


今は、もう歩廊にいる。


戻れる席は背中側にある。だが、背中側にあるからといって、なくなったわけではない。


旅人は、反射路地の入口に小さな空白札を置いた。


`あとで置き場`


ネジリが、隣へ書く。


`忘れないためではなく、急がないため`


教授は深くうなずいた。


シオンは、濡れた掲示板を見た。


「これで、第1の入口は通れます」


第1の、という言い方に、旅人は少しだけ眉を動かした。


シオンはすぐに言い直した。


「最初に通る入口、です。順番を決める言い方に聞こえました」


旅人はうなずいた。


順番。


入口。


最初。


どれも、強い言葉だ。


強い言葉ほど、ネオンシャでは速く届くのかもしれない。


旅人は、短い知らせ札を箱へ入れた。


`入口にいる`


札は箱の中で一度だけ光り、どこかへ飛んでいかなかった。ただ、掲示板の端に、小さな点が一つ増えた。


知らせた。


でも、送りきってはいない。


届いたかどうかも、まだ分からない。


その横の聞き返し札の箱は、空白のままだ。


空白のまま、待っている。


旅人は、その空白を見て、少しだけ安心したくなった。


安心したくなった、という札を出す前に、ククルーが言った。


「ここは、入口だね」


その声は、落ち着いていた。


速すぎない。


遅すぎない。


けれど、最後の音だけが、雨音に少し濡れたように聞こえた。


旅人は、ククルーを見た。


ククルーは、反射路地の奥を見ている。黒猫のような看板ではなく、その少し手前。濡れた掲示板と足あと灯と知らせ路が重なる、何もないように見える場所を見ている。


「ククルー」


名前だけ呼ぶ。


ククルーは振り向いた。


「はい」


「入口にいる」


旅人がそう言うと、ククルーは少し笑った。


「うん。入口にいるよ」


それ以上は、まだ聞かない。


旅人は、聞き返し札の空箱を見た。


聞き返せる場所はある。


今すぐ聞き返さなくても、場所はある。


その時、濡れた掲示板の下から、小さな音筒が一つせり出した。


音筒は、ラッパのように大きくない。


親指ほどの短い筒で、口を近づけても声を吸い込む気配はなかった。


筒の横には、細い文字が浮かぶ。


`入口の音筒`


ネジリが、目を輝かせた。


「話す道具ですか」


シオンは首を横に振った。


「話し始める前に、どこまで話すか決める道具です」


「話す前に?」


「はい。入口では、話したいことが多くなります。どこから来たか。どこへ行くか。誰を探しているか。何を見たか。全部言うと、掲示板が先にまとめてしまうことがあります」


掲示板がまとめる。


旅人は、その言い方に少し緊張した。


まとめられると、便利そうだ。


でも、自分より先にまとめられた言葉は、自分の足より先に走る色に似ている。


ククルーは音筒の前で、ひげをゆっくり揺らした。


「じゃあ、入口では短く話す練習をするんだね」


「短く、というより、返せる長さだね」


シオンは音筒の横に、細い帯を一枚差した。


帯には三つの印があった。


`今いる`


`あとで聞いて`


`まだ言わない`


三つとも、入口に似合う言葉だった。


旅人は、どれを使うか迷った。


今いる。


あとで聞いて。


まだ言わない。


どれも正しいように見える。


正しいように見えると、選びたくなる。


旅人は、音筒へ顔を近づけず、先に札を書いた。


`選びたい手`


それを音筒の前へ置く。


シオンは小さく笑った。


「入口でそれができる人は、少ないです」


「少ないと、すごいのですか」


ネジリが聞く。


「すごい、も速いです」


シオンは、ネジリの言葉を責めずに、音筒の横の帯へもう一つ小さな余白を開けた。


そこへ、旅人は書いた。


`すごいと言いたくなった手`


ネジリは少し照れて、でもその札を見てほっとしたようだった。


ククルーが言う。


「入口は、いろいろな手が出るね」


「入口だからだね」


シオンは歩廊の向こうを見た。


「ここに来た人は、着いたと言いたくなります。着いたと言うと、街が迎えようとします。迎えられると、行き先ができた気がします。だから、入口は便利です。でも、便利なぶん、少し速い」


旅人は、三つの印のうち、最初の一つを選んだ。


音筒へ、息を入れるように言う。


「今、入口にいる」


音筒は、その声を大きくしなかった。


ただ、濡れた掲示板の端に、さっきより淡い点が一つ増えた。


点の横には、聞き返し札の空箱へ伸びる短い線がある。


「大きくならないのですね」


ネジリが言った。


「入口の音筒は、大きくする道具ではありません」


シオンは答える。


「戻ってこられる声にする道具です」


旅人は、音筒を見た。


声を大きくするのではなく、戻ってこられる声にする。


それは、飛空艇の上で覚えた、もう一度見られる場所をなくさない速さに少し似ていた。


旅人は札を書いた。


`戻ってこられる声`


その札を、入口の音筒の横へ置く。


ククルーは、その札を見て、今度は濡れたような音を立てずに笑った。


「戻ってこられる声が、入口に残ったね」


旅人はうなずいた。


戻ってこられる声。


そう書きたくなった。


でも、よいと言いたくなる手は、さっき置いた。


今は、言葉にしない。


濡れた掲示板は、入口にいるという点と、戻ってこられる声の札を別々に光らせている。


別々だから、あとでどちらかだけを聞き返せる。


旅人は、入口を通った気にならないよう、もう一度足元を見た。


ネオン雨は、路地の透明な屋根を滑り、掲示板の文字を薄くし、足あと灯を消えかけの点へ変えていく。短い知らせ札は、箱の中で静かに眠っている。黒猫のような看板は、もう光っていない。


光っていないのに、あとで、という文字だけが目の奥に残っている。


旅人たちは、反射路地の入口に立っていた。


雨の反射。


濡れた掲示板。


短い知らせ札。


信号音に似た雨音。


全部を一つにすれば、ネオンシャに着いた、と言えるのかもしれない。


けれど、旅人はまだ、そう言わなかった。


入口にいる。


今は、それで足りる。


そして、足りない分を聞き返せる空きが、すぐ横に置かれていた。

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