第63話『光の神子』
「……幼い頃から……」
ノワールが、掠れた声を零した。
「貴女が、闇の神子を貶めていたのね。セレスティ」
だが、その瞳は真っ直ぐに双子の妹へと向けられていた。
宝石のように澄んだセレスティの瞳が見開かれる。
ノワールはちらりとシャロットへと視線を向ける。
社交界で積極的に情報を集めてくれていたシャロットは、一つの事実に行き着いていた。
「幼い頃から、闇の神子は不吉で、汚らわしく、死をもたらす。今では常識と言える、そんな噂を……昔から伝えて広めていたのは貴女だと聞いたわ」
聖書の中では神聖とされている双子の神子の片割れだけが悪とされた、その理由をもうノワールは知っていた。
双子の片方だけを愛した両親がその噂話を否定せず、積極的に乗った理由も、今なら理解出来る。
「私は愛されていなかった。貴女はいつも愛されていた。それなのに、なぜ……」
ノワールを殺さずとも、セレスティは輝いていられたはずだ。少なくとも、この王都で崇められていたのは光の神子だけだったのだから。
真っ白な妹の頬へと手を伸ばす。
しかし、直後憎悪を色濃く映したセレスティの瞳に、自分の姿が映った。
「貴女が……ヴァレンシュタインなんかに拾われたからじゃない……!」
喉の奥から絞り出すような、初めて聞く声だった。
同時にセレスティの指がノワールの首を捕らえるため伸ばされる。が、その腕はレオンの手によって阻まれた。
「あっ……!」
「ようやくか。手間を掛けてくれる」
セレスティの細い手首を掴み、強引に背中側へと回させる。伴う痛みに表情を歪めながらも、セレスティはノワールから目を離さなかった。
「お姉様が……闇の神子が必要とされ、愛されるなんて認めない……! それは美しい、光の神子だけの特権なのだから!」
抵抗し、身を捩る度にセレスティの髪は乱れていく。
それでも月明かりを閉じ込めたような髪はやはり一房ごとに煌めいて、美しかった。
「闇の神子を貶めたりしなくとも、貴女はいつだって誰より美しかったわ……セレスティ」
「うるさい……!」
長年ずっと思い続けてきた本音でさえ、悲鳴のような叫びに掻き消される。
セレスティは必死にもがき、レオンの足を蹴りつけてはいるが、少女一人の力で振り払えるものではなかった。
困惑、混乱。そんな感情に染まる視線が、全てセレスティに向けられる。
「どうして! どうして……! 私は……光の神子なのに……!」
鳥が歌うような美しい声で、セレスティは最後までそう繰り返していた。
国王の命令で衛兵がセレスティと父母を引き摺るように連れて行き、広間はまた静寂に包まれていた。
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