第62話『セレスティ・ローゼンベリア』
「ああ、そうだろうとも。セレスティ、君は何も知らなかった」
アルベルトはいつもの穏やかな笑みを湛えたまま答える。
セレスティの表情に安堵が浮かぶのが、ノワールの位置からはよく見えた。
「そうです。セレスティ様はこの件に関与しておられません」
アルベルトの言葉を肯定したのはシャロットだ。
光の神子はいつものように、儚い笑みを宿した。
「ですが……」
再び手帳を開き、シャロットは続ける。
息苦しい沈黙が、また舞い降りた。
「ヴァレンシュタイン家の庇護下にあったノワール様の殺害を依頼し、その実行を幇助した疑いがございます」
今度は、呼吸すら止まったかと思うような静寂だった。
「……何ですって……」
小さくセレスティが言葉を零す。
レオンハルトが一歩前に出ると靴底が床を打つ音が響いた。ノワールもその手に引かれ、足を前に進める。
「ノワールはこの王都で一度拉致され、殺されかけている。幸い救出が間に合ったが――」
レオンの声が響く中、セレスティはノワールを見下ろしていた。
例え父に殴られていようと、いつだって無関心だったセレスティの瞳は、今までに無く真っ直ぐにノワールを捉える。
ノワールもまた、それを見上げていた。
「捕らえた犯人は、金と引き換えに依頼を受けたと言った。そして金の流れを追い、辿り着いたのが……光の神子、セレスティ。貴女の名前だった」
「嘘です!」
間を置かずにセレスティが叫ぶ。悲鳴にも似た、悲痛な声だった。
「小賢しく、何人も人を挟んでいたせいで追うのには苦労した。――だが、金で人殺しを請け負うような者は、金のために証拠も売る。そう知っておくべきだったな。幸い一枚だけ、貴女の筆跡で書かれた指示書が出てきた」
呆然と立ち尽くすセレスティは、はっと気付いたようにアルベルトを見上げた。
だが、セレスティを見下ろす瞳は笑っていない。冷たい、形ばかりの笑みがそこにあるばかりだ。
次ぐ言葉を失って一歩後退り、階段を下りた先にいるノワールへと駆け寄る。
「お姉様、どうか信じて……! 嘘だと、どうか言って!」
ノワールの両腕を掴み、セレスティは縋り付く。その爪は、レースの手袋越しにノワールの肌へと深く食い込んだ。
黒と白、対照的な色のドレスの裾が重なって揺れる。
同じ顔立ちをした双子は、同じ目線の高さで向き合っていた。
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