第九話 幼馴染との登校
翌日、俺は深夜に夢を見た。そう、俺がひどい目にあう夢だった。理子と一緒に楽しく暮らしていたのに、ある日理子に裏切られる夢だ。酷い夢だ。
……だけど、それが本当に酷いのは。正夢だという事だ。
正夢で逢って欲しくはなかった。
だけど、残念なことにそれは、現実なのだ。嘘偽りのない現実なのだ。
はぁ、と俺はため息をこぼす。学校に行きたくない。嫌な現実だ。もういっそこれが現実じゃない、他の世界ならよかったのに。だけど、そんな事を考えても、ここが現実なのは変わらない。
学校に行きたくない、といくら思っても学校に行かなくてはならない事は分かっている。
だけど、俺の弱々しい心はそれを 拒んでいる。
その瞬間だった。メールがスマホに飛んできた。
「今日学校で喋れるの楽しみだね。じゃあ、いつもの所で待ってるね」
いつもの所がどこか、分からない。だけど、それはおそらく、俺と一葉の家の分岐点にある一個の交差点だ。たぶんあそこにいる。
何時にそこに行くかは書いてなかった。だけど、一葉がそう言ってくれている以上、待たせるわけにはいかなかった。
そうだ、これが現実でいい事もあるじゃないか。
俺は今彼女――一葉と一緒に学校に行ける。それだけ考えても楽しい気分になる。
と、こんなことを考えている暇ではない。さっさとしないと、一葉を待たせてしまっている。もう待っていると書いてあった。今も一葉は寒い朝空の中、一人俺を待っているのだ。
早速俺はすぐに着替えを済ませて、下へと行った。
「早いわね」
「一葉を待たせてしまうんでな」
「あら」
「あらじゃねえよ」
そして、俺は急いでご飯を口に入れ、家を飛び出した。
あの交差点で一葉が待ってる。そう考えると非常に気分は楽だ。
「おはよう」先に待っていた一葉が俺に話しかけてくれた。
「おはよう……待っててくれたのか」
「うん。七時から」
今が七時半だから、30分も前から待っててくれていることになる。
「そんなに早くからいなくてもよかったのに」
ここから学校までは15分で着く。それを考えれば、8時でもまにあうはずなのだ。
「私が、恭介君に早く会いたかっただけ」
そう言ってにっこりと笑う。その笑顔を見るだけでなんとなくほっとする。
「だから、気にする必要はないよ」
「いや、気にするだろ」
俺は頭をポリポリとかきながら言った。
だが、ここで話してても仕方がない。
「じゃあ行こうか」
そう、俺が言うと、一葉は「うん」と頷いて見せた。
もう、一葉と幼馴染であるという事を隠す必要はない。
そう考えたら気分は楽だ。
そして俺たちは隣同士、二人歩いていく。
ドキドキとする。そんな大したことじゃないと、分かっているはずなのに、なんとなく緊張をする。
「なあ」
「なに?」
「緊張するな」
「なんで?」
一葉は笑顔で言った。無邪気に。
どうやら、一葉は気づいていないようだ。
一葉と二人で一緒に登校するという事の価値に。
一葉は、まず、美人なのだ。本人がそれに気が付いているのかどうか怪しいところだ。
だけど、少なくとも俺は一葉は美人だと思う。
なんとなく誇らしい気持ちになる。ただの幼馴染が誇るのもおかしな話だけど、それくらい一葉は可愛いのだ。
それに、
「今日、俺と一緒に登校することで、勝負するって決めたんだろ」
「うん。恭介君を振った理子さんを後悔させてやるんだから」
そう言って拳を突き立てた。
その後はゲームの話をした。俺たちがやっているのは何もテレビゲームだけではない。スマホに入れる、所謂ソシャゲもやっている。
ソシャゲのキャラが当たったと言ったら、「ずるい」と、一葉は頬を膨らませた。それがなんだかおかしくて俺も笑ってしまう。
そのゲームは最近話題のゲームだから、皆やっているゲームだ。
オープンワールドのゲームであり、まるでテレビゲーム並のグラフィックな事で有名だ。
そして、いつのまにか、学校までたどり着いた。
学校に入ると、そこにはまだ誰もいなかった。
「一番乗りだね」「だな」
誰もいない教室に来るのは正直初めてだ。俺が教室に着いた時、その時必ずだれかいたというのが常なのだから。
いや、其れは違う。一度だけ学校に早期についたことがあったはずだ。
だけど、それは正直忘れ去りたい記憶で。
何しろ、理子との思い出なのだから。
あの日俺は理子と朝早化ウニ待ち合わせして学校に行った。理由としては理子が早くに目を覚ましたから、一緒に学校に行こ、と誘われたのだ。
我儘な理由だけど、あの時の俺は理子の事が好きだった。だから、二つ返事でOKしたのだ。
くそ、自滅しちまっている。自分から嫌な過去を思い出してしまった。
そして、顔を上げると、そこには心配そうに俺を見ている一葉の姿があった。
「暗い顔しちゃってどうしたの?」
「嫌な思い出を思い出しちゃって、ちょっとな」
「大丈夫。私がついてるから」
そう言って一葉は俺の手に自信の手を重ねる。その手は暖かく、なんとなく力を貰える、という感覚がした。
「ありがとう」
俺はそう、お礼を言った。
そして、どんどんと人がクラスに入ってくる。
「ねぇ」
3人目が入ってきた後、一葉は口を開く。
「理子さんに関しては、どうなってほしいとかある?」
「周りに人がいる状況で話すことじゃないと思う。だけど、それは置いといても、俺はどうなってほしいとかはないよ。ただ、俺は、……学校で平穏で暮らしたいだけだ」
復讐心が全くないわけじゃない。だけど、今俺が望むのは学校での立場回復だけだ。
「今の俺は、浮気をして理子を捨てたと勘違いされてるからな」
それこそ理子が出した噂によってだ。
「わたしが、その噂を消して見せるよ」
「ああ、それはお願いしたいけど、それは俺自身でやりたい」
勿論、これは俺だけの問題じゃないと思っている。いや、だからこそだ。
俺は今まで、その噂をか聞けそうだなんて、考えてなかった。
俺に立ち向かう勇気がなかったから、俺が小心者だから、等々様々な理由はあるだろう。だけど、一番大きな理由が一つ。
一葉がいることだ。俺は一葉のために、噂をもみ消さなくてはならないだろう。
そうでないと、一葉にも変な疑い、そして理子からの嫌がらせをされる可能性があるのだから。
俺が嫌な目に合うよりも、一葉に被害が向かう事の方が嫌なのだ。




