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第八話 再会

「お邪魔します」


 一葉は俺に先行して建物の中に入っていく。


「あ、」


 一葉は今から出かけようとする鏡花の姿を見た。鏡花は金曜日出かけていていなかった。

 学校に行っていたのだ。



「久しぶり」


 一葉は鏡花に元気よく手を振った。


「うん、久しぶり」


 そっけない態度の鏡花。あれ、何かあったんだっけ。



 俺と一葉が喧嘩していた、と確か一葉は言っていた。


 俺が覚えていないそれが、このそっけなsない関係しているのだろうか。

 俺はムズ痒い気持ちを感じながら、出ていく鏡花を見送った。


「何かあったのか?」

「ううん、わかんない」

「知らないのか?」

「うん」


 そう言った一葉は少し悲しそうだった。


「まあでも、大丈夫でしょ」しかし、一瞬でそれが笑顔に変化した。

「そうなのか」


 俺がおずおずと訊くと、


「だってきっと、久しぶりだからとか、私が変わりすぎて気づかなかったから、とかそう言う事でしょ」


 そう言って一葉は笑った。だけど、その表情は少し暗いように思えた。

 空元気だな、とすぐに分かった。





「じゃあ、早速今日もこれやろ」


 一葉はそう言ってカートレースゲームを指さした。


「相変わらずだな」

「面白いしね」


 そう言って一葉は笑う。


「今日も、恭介君に勝つよ」


 そう、にっこりと笑った。その一葉の表情は明るい物だった。

 今回の笑顔は空元気な物ではない様だ。


「ねえ、恭介君」


 レース中に一葉が口を開く。


「私、その理子さんには負けないから」


 俺はその言葉に、思わずコントロールを乱した。そして、カートは奈落の底に落ちた。


「あはは、動揺してる!」


 一葉は直進の道で、一瞬コントローラーを置き、軽く手を叩く。笑顔で俺を嘲笑うように。


「うるさい」


 救出されたカートを運転しながら俺は言う。


「強者の余裕かよ」

「だって私、かなりリードしてるし」

「まあ、確かにな」


 俺は今7位。そして、一葉は一位を独走している。


「でも、抜かす」

「やってみて」

「おう」



 そして、無言で二人でカートレースをしていく。


 そのまま三レース目が終了したところで、一葉が口を開いた。


「わたしね、やっぱり理子さんの事許せないの」

「許せない、か」


 確かに俺も許せないという側面はある。だけど、一葉の様子を見るに、俺よりも怒りを感じているという感じがした。


「復讐でもするのか」

「復讐はしないよ。でも、君の無罪は常に訴えたいと思ってる」


 そう、はっきりと告げた彼女の姿を見ると、自信に満ち溢れてて、

 何となく力強い頼れる味方という感じがする。


「ありがとう」


 俺は一葉に助けられてばっかりだ。


「俺に一葉の身の回りの問題で、解決できることとかあるか?」

「何?急に」

「いや、俺ばかり助けられてるから」


 俺は一葉に何も与えられていない。

 一葉に助けられっぱなしで、俺は何も出来ていない。



「一緒にゲームしてるだけで楽しいからいいよ。それが君の存在意義だから」

「そう言われると大したことない存在意義に聞こえるな」

「でも、そういうものじゃない? 人って弱いしさ、誰かに必要とされてたらいいんじゃないの?」

「まあ、そうかもな」


 ゲームをする仲間という名目とはいえ、今一葉に頼りにされている。

 それだけで良いのかもしれない。


 少なくとも今の俺は一人の人間を楽しませる事が出来ている。

 それだけで、この世に生きていい何よりの証左になるのだから。


「でも、私が絡まれたら助けてもらおっかな」

「絡まれる?」

「前の学校の人たちに……かな?」

「そうだったな」


 一葉は前の学校で人間関係で悩んでいたと言っていた。

 もし仮にその人たちと再会した時、気まずい雰囲気になるという事はすぐに分かる。



 それどころか、激しいいじめを受けていた可能性だってあるんだ。

 一葉が言っていないだけで、そういった可能性は十分に存在しているのだ。



「分かった。その時は俺が守るよ。いや、むしろ俺に守らせてほしい」

「壮大だなあ、まるでナイト様みたい」一葉は笑い、「うん、じゃあお願いします」


 そう言って、俺の手を握った。


「あ、おい!」


 そして、妨害を受けた俺のカートが奈落へと落ちていく。


「妨害は無しだろ」

「えへ、ごめん」


 一葉は可愛らしく謝ってきた。





 ――――




 —―――


「そろそろ帰らなくちゃだ」


 一葉が時計を見て言った。


 時計の長針は六を指している。まさにご飯を食べる時間だ。


「そうだな」


 俺は頷いた。もう少し一葉と遊びたい所だ。だけど、一葉はずっとここにいるわけにはいかない。


「名残惜しいけど、また明日な」

「うん」


 そして俺は見送りのために一葉と一緒に下のリビングへと向かっていく。



 そして、一葉が母さんと軽い会話をした後、



 玄関で、


「じゃあ、また明日ね」


 にっこりと笑いながら、一葉は言った。


 ああ、そうか。一緒の学校に通うという事はそう言う事か。


「そうだね、また明日」


 毎日一葉と一緒に居れる。そう思うと、嬉しい気持ちになれる。


 それだけで、学校に行く理由になり得るのだ。


 そして、俺は去っていく一葉に手を振ったのだった。


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