第七話 敵対宣言
そして屋上からの帰り道にトイレだけ済ませて、教室に戻る。
すると、先に教室に戻っていた一葉が、あいつ……理子と会話をしていた。
いったい何を話しているのだろうか。慰問に思った。
だけど、一葉の表情が見るからに曇っていた。
それで、何の話をしているか、すぐに分かってしまった。
一葉はたぶん、念を押されているのだろう。
そう、俺に話しかけるなと、
俺を孤立させるために、一葉を脅しているのだろう。
一見滑稽におもえる。
一葉がそんな申し出を受けるはずもないのに。
……一瞬そんなことを考える自分は性格が悪いのかな、なんて思った。
だけど、別にそこまで気にすることでもないかと思った。あの日の絶望は今も忘れられないものだったのだ。理子には嫌な目に合って欲しかった。
思えば、告白してきたのは理子からだった。
理子が俺の事を好きだと言って告白してきたのだ。
それから二年仲良くやってきたはずだ。最初は理子のテンションに振り回されっぱなしだったが、一緒の時間を過ごすことで、仲を深めてきていたはずだ。
それを思い返すと、またイライラが飛び出してくる。
くそっくそっくそっ!!
この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
そして、理子に苛々とさせられている自分も嫌いになってくる。
ああ、こんなはずじゃなかったのにな、なんて思う。
……俺は……俺の人生を生きたいのに。
理子にこんな形で妨害されたらたまったものではないのに。
……俺は小さくため息をついた。
ああ……一葉に慰めてもらいたい。
そんな情けない事を思った。
★
「ねえ、転校生さん。少しいい?」
私が教室に戻った時、柳理子さんに話しかけられた。
この人が、彼を苦しめた張本人。そのことを思うと、怒りが満ちて来る。
許せない。
彼は本当に苦しそうな顔をしていた。
許せない。
許せない。
絶対に許せない。
苦しんで死ねばいいのに。
「何ですか?」
私はそんな暗い感情を胸の中に押し殺して、返事をした。
今はそんなの表に出してはだめだ。今は愛想よくしないと。
ここで、喧嘩腰になるのは本当に良くない。得な事が一切存在しないんだもん。
それに、私が要らぬ言葉を吐いて、恭介君に入らぬ迷惑でもかかってしまったらと、思うとそんな事絶対に言えない。
私は恭介君が苦しんでいる所を見たくない。
「彼に、宮田恭介に話しかけないで欲しいの」
「それは、どういうことです?」
「簡単な話よ。無視して欲しいの。あいつの事を」
そして彼女は、彼の事を指さす。
やっぱりそういう事なの?
「お断りします」
私はそう言った。そんな申し出に乗る必要性を感じられない。
たとえ相手が、恭介君じゃなかったとしても、そんないじめのような提言に乗る事は、私のプライドに反する。彼女の提案に乗った時点で、私は私の嫌いな何かになってしまうだろう。
「必要性が感じられません」
どうやらその言葉が気に障ったみたい。
顔がどんどんと不機嫌なものになっていく。
その顔を見て、若干の恐怖を覚えた。
でも、私は負けたくない。
「私以外の人にお願いしてください」
その瞬間だった。頬に若干の痛みを覚えた。
すぐに叩かれたのだと、理解した。
「彼の肩を持つってことは、そう言う事でしょ」
どうやらこれは脅しらしい。私の中のトラウマが実を結びだす。でも、迷う事はない。
「いいえ、誰がターゲットでも私はそうします。それに、彼に手を出したら、私が容赦しませんよ。その時には覚悟してください」
私は踵を返して、柳さんから離れて行った。
結局喧嘩腰になっちゃったかなと、少し反省した。
だけど、私の信念に基づいて行動した結果だ。
反省はするけども、後悔はしない。
恭介君を守る事が、私の使命だから。
この結果で恭介君が被害が被るようであれば私が全力で守ろう。
そう、わたしは心で誓った。
★
「今日も家に来るのな」
帰宅路、俺は隣に立つ一葉に言った。
「いいじゃん」一葉は笑う。元気がいいと、感じた。
「今日疲れたもん」
「なら、母さんに頼んで元気が出る飲み物を頼むか」
「やったっ!!」小さくガッツポーズをしてみせた。
「なあ」
「ん?」
「さっき、あいつと何を話してたんだ」
そこが気になる。
何を話していたかどうかによって、正直これからの身の振り方が変わってくる。
「大したことは話してないよ。ただ、喧嘩売っといたよ」
「喧嘩?」
「うん。恭介君に手を出したら許さないって」
「それ、一葉もいじめられるやつじゃん……」
一葉は地獄のなかに身を置くことを決めたようだ。
「大丈夫だよ。私ハート強いし」
「そういう話。まあそういう話か」
俺は不登校になったが、一葉なら耐えきりそうだ。
それに、一葉が決めた事だ。俺はその選択を否定したくない。
「それに」と、俺の肩をギュッと寄せながら言った。
「せっかく恭介君と同じクラスになれたんなら、一緒に色々と喋りたい」
その顔は可愛らしかった。
「それに」指をもじもじとさせる。「なんか私、恭介君を独り占めできてるみたいで本当にうれしい」
「それならよかったけれど」
「だから早速今日は家で独り占めさせてもらうよ」
そして、一葉は楽しそうに笑った。
★
「何なのあいつ」
あたしは近くのゴミ箱を蹴った。
ムカつくムカつくムカつくムカつく。
なんてあたしの指示に従わないわけ?
あり得ないんだけど。転校生だから、天然とかな訳?
本当に意味が分かんない。しかも無駄に可愛いし。
あたしの命令に従わなかったらどうなるか。
身をもって知ってもらうから。
そうなればあいつも苦しむでしょ。
そもそもあたしは、あいつと付き合うつもりはなかった。
ただの嘘告白だったのに、何を勘違いしたのかそこからずっと付き合う事になった。本当に意味が分からない。あたしはなんであんな地雷に告白しちゃったんだろ。
別の陰キャを狙ったらよかった。恭介—―あいつが悪いやつじゃなかったから。
だから、中々振れなかった。それもムカつく。
元から言えばあたしから先に振ったらよかったのに、こんなに時間がかかった。
ムカつくムカつくムカつく。あたしの気分が高揚するように、絶望に満ちればいいのに。
地獄に堕ちればいいのに。




