第80話 布団
「あ、お兄ちゃん」
鏡花が元気よく手を振った。それこそ部屋に戻ってきた俺に対してだ。
「部屋にいたのかよ」
鏡花の手元には漫画だ。今まで漫画を読んで待機をしていたのだろう。
「自分の部屋に戻らないのか」
「だめ?」
「だめじゃないけど」
俺がそう言うと、「なら、いいってことで」と鏡花は笑った。
「あ、そうだ。お母さんにメールで連絡したらOKだって。まあ、まだ今日泊るかどうかだけしか話してないけど」
「そうか」
そこまでか。
とはいえそれだけでも十分だろう。
明日の朝食時に本気の階段の場を設ければいいという話だ。
「いつまで俺の部屋にいるつもりだ」
「一葉ちゃんが戻ってくるまでかな」
「長いな」
「別にいいじゃん。それよりもさ、この漫画さ、エロシーン多いね。ラブコメのお決まりじゃん」
「おい、何読んでんだよ」
よりによって読まれたくない系の。
俺は、ラブコメ漫画がかなり好きだ。
そして、鏡花が今読んでいる漫画、その11巻のおおよそ三分の一部分。それを見ればきっと、ハプニングキスシーンが起きるシーンだろう。
それだけならいい。だけど、そこからいちゃシーンが多くなっていくのだ。
一葉は読んでいないはずだ。勿論、俺の見ていない場所で読まれてたら終わりだけど。
ちなみにこれは全然過激ではない。
男の夢のような、それこそ楽園みたいなラブコメもあるのだ。
それこそ、ハーレム物だ。
そちらじゃなくてよかったななんて思う。だけど、どちらにしても、
「読むのをやめろ」
俺は言った。
「そろそろやめてくれ」
「ま、いいけど、もう読んだことあるし」
「あるのかよ」
そう、俺が言うと、鏡花はふふと笑うのだった。
「あ、そう言えばこれは幼馴染との――」
「やめろ」
俺は鏡花を制した。別に深い意味があってその漫画があるわけじゃない。
現にその本を買ったのは、一葉と再会した後だし。
――――――――――――
そして、それから少し経った後、一葉が戻ってきた。
「おかえり」
俺が言うと、
「ひどいじゃん」
そう、一葉が唇を尖らせた。俺が先に戻ったのがそんなに気に食わないらしい。
「あれは流石に俺を信用しすぎだから」俺はそう言った。
「実際、あと少しでやばい所だったんだぞ」
「何が?」
「しらじらしい」
俺は言った。
分からないなんてことがあったとするならば、それは流石に鈍感王と言う称号を与えなければならないだろう。
「ふふ」
一葉は笑った。
その後は軽くゲームをして、そして寝る流れになった。
ベッドではなく、床に布団を敷いて二人並んで寝転がる。
「ねえ、恭介君」
その中で、一葉が口を口を開く。
「私たちって付き合ってるの?」
唐突なその言葉。だけど、ごもっともだ。今日は良くも悪くも二人の関係が大分進んでしまった。幼馴染と言う関係は壊れてしまったのかもしれ兄。
「どうなんだろうな」
俺はそう返す。
「俺たちはもう幼馴染じゃないのかもな」
「なら、どんな関係?」
一葉はあの言葉を求めているのだろう、と言う事はすぐに分かった。ここで言わなければ男じゃないだろう。今までほとんどすべて一葉に頼りがちになっているが、今この言葉は言うべきだ。
「恋人とか?」
俺は言をけっして言い放った。
「言ってくれるんだ」
「なんだよ」
言ってくれるって、なんだよ。そう苦笑してしまった。
「それで実際どうなんだ」
「何が?」
「何がって、俺たちの関係の事だよ」
「それは、私がこの家に住めるようになってから、かな」
「お前から仕掛けたんだろ」
「もう、決まっているようなものだから、ね」
そう、一葉は笑った。
確かに、まあ事実ほとんど確定事項みたいなものなのかもしれないが。
それこそ、もうキスまでしたのだ。これで未だに幼馴染のままなのがおかしい。
とりあえず付き合っているという認識でよさそうだ。
しかし、一葉とずっと一緒に住むのか。それはきっと、そうきっと楽しそうだ。
だけど同時に、耐えられるのかな、なんて思う気持ちもある。
それは勿論欲情にたいしてだ。
恋人になれば、そんな行為は普通になるのかもしれないが、だからと言って常日頃からしまくっていいという訳ではないと思う。
そして話題変更。
「一葉、疲れはどうなんだ?」
「正直へとへと」
一葉は、息を吐きながら言った。
「まあ、それは俺もだ」
今日は色々な事があったからな。
まさかここまで大変な一日になるとは、夢にも思っていなかった。
「疲れたあ」
一葉はぐーーと伸びをした。
「じゃあ、もう寝るか?」
「それは、嫌」
一葉は俺の手をギュッと握った。
「もっと話したい。アニメの話とか、だめ?」
そんなことを言われては仕方がない。
「分かった」
俺は頷いた。
無論、一葉と話すのは楽しいのだ。
それに今の俺は結構一葉の言いなりになってしまう。
一葉に可愛らしくお願いされたら、俺はもうその可愛さの虜となってしまうのだ。
「じゃあさ、第三話のさ、ヒロイン可愛くなかった?最高なんだけど」
俺は幸せ者だと思った。一葉を独り占めで来ているのだから。
そして、30分ほど他愛のない話をした後、眠りに落ちた。
幸せな夜だな、と感じた。




