第79話 お風呂
「なんで」
私は呟いた。理由はすっごく単純。
なんで? って、それは……
恭介君が、上半身裸だったから。
「なんで」
「なんでって、今上がったからに決まってんだろ」
慌てたような声で恭介君が言う。
「上がったの?」
「上がったよ。どうしてくんだよ」
「話したかったから」
そう私が告げると、
「とりあえず、出て行ってくれ。色々と……まずいから」
確かに、恭介君はタオルを用いて必死に下半身を隠している。
「じゃ、じゃあ後で」
私はそう言って扉を閉めた。
★
「危なかった」
俺は下半身をタオルで抑えながらそう呟いた。
下半身を見られてたら、終わってたかもしれない。
タオルで隠してたとは言え、慌ててだったから、ちゃんと隠せてはいない。
覆い隠してはいるものの、形がついている可能性もあるのだ。
「反省しなきゃな」
いや、一葉が来ることを予測なんて、ほとんど不可能なのだけど。
「くそっ」
とりあえず服を着て、一葉の元に行かなければ。
「お待たせ」
俺はそう言って一葉の元へと行った。
一葉は洗面所のドアの前で立って待っていた。
「さっきはごめんな」
「いや、こちらこそ……」
そして、頭を下げた。
一葉の潮らしい表情は可愛かった。
そして、
「恭介君、私がお風呂に入ってる間、一緒に喋ってくれない?」
なんて、言われたものだからびっくりだ。
「いや、おい」
「だめ?」
上目使いで聞いてくる。
「いいけどよ」
「じゃあ、お願い」
それにしても、会話なんて部屋の中でも出来るというのに、今日の一葉はなんか、少しだけ変だ。
どうかしたのだろうか。
そして、一葉の許可と共に、洗面所へと繰り出した。
中からシャワーの音が聞こえる。今まさに一葉が髪の毛を洗っているのだろう。それを感じれば、ドキドキとしてしまう。
一葉が今まさに裸でシャワーを浴びているとなると、
ああ、だめだ。この音が俺の欲情を招いてしまう。
「恭介君」
これが聞こえる。俺は「なんだ」と言った。その声が震えていたかどうかは、俺にはもはや分からない。
「シャワーの音って興奮するの?」
「意地悪な質問してくんなよ」
その答えは当然、是だ。だけど、それを言ってしまえば、一葉はきっと俺の事を変態と詰ってくるだろう。
「ふふ」
一葉が笑う声がした。
「少し話してもいい?」
「いいぞ」
きっと一葉の事だ。重要な話なのだろう。
「私、今も不安なの」
一葉は震える声でそう言った。
「明日? は鏡花ちゃんも来てくれるみたいだけど、でも現実的に考えたらそんな簡単な話じゃないよね」
「そりゃな」
お金の問題がある。うちの家は決して裕福なわけではない。勿論貧乏でもないが、しかし、人一人増えて、しかもその学費ともなると大変だ。
その場合、一葉の親から養育費奪わなければならないだろう。それに対するハードルはさらに上がる。
だけど、それは、もう一つ選択肢があると言えばあるのだ。
それは、一葉のお父さんからもらっているであろう様引く日をそのまま横流ししてもらうという事だ。そうすればある程度は解決っ出来るだろう。
しかし依然として断られるリスクは十分に存在しているというのが今の状況。
辛い状況なのだ。
「だけど、俺たちが何とかする絶対だ。いざとなれば父さんに頼めばいいしな」
「あはは」
一葉が一番父さんの怖さを知っている。むろん父さんは中身は怖い訳ではない。だけど、やーさん顔負けの恐ろしさがあれば、きっと、交渉が上手くいくだろう。
勿論それは、だからって勝利が確定したみたいに言うのはまだ早いのだけれどな。
「しつこいって思われそうなんだけど、私って今自信がないんだよね。結局今もこれで良かったのかな、なんて思っちゃう」
「なら、それでいいだろ。俺は一葉を助けられるってだけでうれしいんだからさ」
「うれしいこと言うじゃん」
「これが俺の本絵だよ」
俺がそう言うと、一葉は笑った。
「今日は楽しいよ。一葉のまた新しい一面を見れて、な」
「そう、確かに、キス……」
そこまで言った途端、一葉は恥ずかしそうに声を震わせ、
「なんで言おうとしたんだよ」
「だってえ」弱気な声を一葉が出し、
「いいじゃん」と言い我のように言った。
「開き直ったのか?」
「かもね」
そして、ちゃばんという音がした。お風呂の湯船の中に入ったのだろう。
しかし、俺も高校生、思春期だ。
一葉がお風呂に入っている音を聞き続けるのに堪えうる精神力は持ちえていないと、自分自身でも思っている。
しかし、このままにしておくわけにもいかない。
「なあ、一葉」
俺は口を開いた。
「そろそろ部屋に戻ってもいいか?」
そして聞いた。
すると一葉は、「やだ」と一言言った。
「これってさ」
口を開き、
「一緒にお風呂入ってるみたいなものだし」
その言葉に、俺は正直、今まで隠し続けていた欲情を抑えられなくなった。
「部屋戻るわ」
俺は強引にそう言って部屋に戻って行った。
危なかった。もう少しあそこにいたら、一葉を襲ってしまう可能性があった。それこそ、お風呂に侵入して。
いや、それはただの変態だ。
もしかしたら一葉は俺に部屋に侵入して欲しかったのかもしれない。裸を見て欲しかったのかもしれない。だけど、俺にはそれは無理だったし、したくはなかった。
「ああ、」
もし、一葉の望みが後者だったなら、一葉は俺を意気地なしだとなじるだろう。お願いだ。如何か、前者であってくれ。




