第78話 妹
「お兄ちゃん」
そう、ノックされる音で、俺は目を覚ました。
薄れる意識で耳を研ぎ澄ます。
俺に呼びかけていたのは鏡花だった。
「鏡花か、どうした」
「どうしたじゃないでしょ」
鏡花は言った。
「お風呂に入る時間だよ」
そう言われ、俺はそうか、と思った。
「なんでわざわざ」
「中々お風呂入って来ないから」
「ん、これまで何してたんだ? リビングにはいなかったようだが」
「部屋でゴロゴロしてた。お母さんもそうだったんじゃない?」
「そうか」そして、俺は起き上がり、「お風呂入るよ」
俺は言った。
「ってあれ?」
鏡花は、目を見開いた。
「一葉ちゃん?」
鏡花はまずっ直ぐに今もなお眠り姫となっている一葉を見た。
「なんでここにいるの?」
俺は寝ている一葉の髪の毛を優しく撫で、「実はだな」と告げる。
そして俺はかくかくしかじかと告げ始めた。
これまでの経緯を伝えると、
「お兄ちゃん、あたしも連れてってよそれ」
鏡花が頬を膨らませながら言った。不服そうだ。
「ごめん」俺は頭を下げた。「すまん」
もう一度頭を下げた。
「それで、逃げて来たの?」
「ああ」俺は頷いた。
「あたしがいたら……」
「情けないとは思ってるよ、でも」
「別に責めてないよ。でも、あたしがいたらなんかできたかなって、お兄ちゃんだけだと力不足だし」
「悪かったな、ってか責めてるだろ」
「責めてないよ。自慢のお兄ちゃんだし」
そう言って鏡花は笑って見せた。
「とりあえず一葉ちゃん起こさなきゃね」
「そうだな」
俺は頷いた。
そして、
一葉を優しくゆり起こす。
「おーい、一葉」
明らかに熟睡していた。
起こすのも一苦労だろう。
俺はもう一度揺らしてみる。すると、一葉は俺にじっと抱き着いてくる。
俺は鏡花の方を見る。
「とりあえず一緒にお風呂入ったら? 一葉ちゃんを引きづってさ」
「駄目に決まってるだろ」
「してたらお兄ちゃんを殴ってた」
「だろうな」
そりゃそうだ。一緒にお風呂入るなんて、兄妹でも無理だ。実際に俺は鏡花と一緒にお風呂に入ったことがないし、入らないのがが当たり前なのだ。
「とりあえず引きはがすのを手伝ってくれ」
「分かった」
そして、鏡花が俺と一葉を分離させた。そのままお風呂に俺は向かう。なんかどっと疲れたなと、感じる。
疲労が多少溜まっているように感じる。
俺は軽い欠伸をしながら服を脱いだ。
そしてお風呂へと入る。
★
「あれ……私……」
記憶がない。私どうしたんだっけ。頭がいたい。
「目が覚めた?」
聞き覚えのある声がする。これは、鏡花ちゃん?
「私……」
「ごめんね、お兄ちゃんじゃなくて」
その時に漸く気が付いた。
鏡花ちゃんに膝枕をされていると、
「恭介君は?」
「お風呂入ってる」
「そう」
そこまで話して、先ほどまで恭介君としていた好意を思い出し、急に恥ずかしくなった。
「うぅ」私は顔を抑える。「どうしたの?」
「何でもない」
私は小さく首を振り、鏡花ちゃんの膝枕から抜け出した。
そして、
恭介君のベッドに寝転がる。
「鏡花ちゃん」
「なに?」
「私、これでいいんだよね」
恭介君に助けを求めたことに対してだ。
こんなことを考えてても、仕方ないと思う。
だけど、不安になってしまうのはたぶん私の悪癖なんだと思う。
はぁ、
「大丈夫」
鏡花ちゃんがにっこりと笑う。
「あたしもついてるから、安心して」
その言葉には強さがあった。
「ねえ、鏡花ちゃん」
「なに?」
「私……この家に住んでいい?」
その言葉に「分かんない」そう鏡花ちゃんは言った。
「だって、あたしの一存じゃ決められないんだもん」
そう言って彼女は笑った。
それにつられて私も笑った。
「明日はあたしも話しに行くから安心して」
「うん」
私は頷いた。
鏡花ちゃんは優しい。
だからきっと大丈夫だ。そう私は確信した。
そして、私は立ち上がる。
「お風呂行ってくる」
「お兄ちゃんと入るの? それはだめだよ」
「そう言う訳じゃないの。ただ話したくて」
「一緒に入るなら、水着着て、だよ」
「そんなつもりないって」
流石にそれは恥ずかしすぎるし。
「ただ、お風呂の前で話すだけだよ」
そういうと、鏡花ちゃんは笑って見せた。




