第63話 拷問
★
SIDE一葉
「遅い」
私は呟いた。今日恭介君と待ち合わせしてるけど、彼は一向に現れてこなかった。
恭介君は待ち合わせに遅れて来るような人じゃない。
恭介君は遅れて来るなら絶対に連絡をしてくれるはず。
だから、絶対に今の状況はおかしい。恭介君に電話をかける。だけど、彼は電話に出てこない。ラインを送っても同じだ。
明らかにおかしい。
私は彼の家に向かって走っていく。
私は、インターフォンの前に立つ。
そして、押した。
ピンポーン
音が響く、とすぐに『はーい』と言う声が聴こえた。
鏡花ちゃんの声が聴こえる。私はそのまま中に上がっていく。
「一葉ちゃんどうしたの?」
そう、鏡花ちゃんが訊いた。
「えっと、恭介君今どこにいるか知らない?」
その言葉に、鏡花ちゃんは「どういう事?」と首を傾げた。
私はそんな鏡花ちゃんに事情を説明した。
「其れって……」
「うん。事件に巻き込まれてると思う」
この場合、何かなんてわかってる。
理子さん、彼女が何かしたのだ。
多分彼女が恭介君を攫って。
っ許せない。私は拳を強く握った。
「鏡花ちゃん、私行ってくる」
そう言った。このまま指をくわえて解決するの待っている訳にはいかない。今、恭介君を助けられるのは私だけなんだから。
「あたしも行く」
鏡花ちゃんは、荷物をすぐに持った。
「あたしだって、お兄ちゃんを助けたいんだもん」
その言葉に私は頷いて、
「うん。二人で助けよ」
そう、二人で握手をした。
理子さんの家なのか、それともどこかの倉庫かは分からない。
まずは理子さんの家に行って、誰もいなかったら警察に相談しよう。
そう、決めた。
★
10分ほど、部屋に放置され続けた後、理子が戻ってきた。
理子は俺を視界に入れ、ご飯を食べていく。
ある意味拷問だな。
お腹空いている中で、理子が美味しそうにご飯を食べている所を見なければならないなんて。
「食べたいの?」
理子がこちらを向く。
「なわけ、ねえだろ」
俺はそう返した。
食べたいという訳にはいかない。
それは理子への屈服を表すワードなのだから。
「ふうん」理子は言ってパスタの麺を巻いていく。
そして――
「あーーん」
俺にパスタを差し出してきた。
「お腹空いてねえって言ってるだろ」
「関係なんてないわよ」
そう言って麺を俺の口にくわえた。
美味しいと感じた。久しぶりのご飯だ。
味をしっかりと舌で感じ取り、歯で噛み、唾液と交えて消化していく。
満足感を確かに感じた。
そう言えばなんで、家を出たのか。
それは一葉とファミレスに行くためだった。
そう言えば俺もお腹が空いていたんだな、と思った。
「おいしそうな顔をしてんじゃん」
そして、にっこりと笑う。
その顔を見ると、少し悔しい。満足そうな顔をするんじゃなかった。俺はすぐに緩みかけた表情を真剣なものに整えなおした。
「さて、と」
理子は服を脱ぎ始めた。
「何を」
「暑いから脱ぐだけ」
マジで何を考えているんだ。
三大欲求、睡眠欲、食欲、そして性欲。
食欲を刺激したから、今度は性欲に訴えようというのか。
「これはあたしなりの復讐」
そう言い放ち、服を完全に脱ぎ、彼女の胸が現れた。
理子の巨乳が揺れる。
「あんたはあたしの胸に障る権利があったのに、それをしなかった。知ってる?
あたし、今男をホテルに誘って性行為してるんだけどさ、高値で売れるのよ。最低でも3万円はもらえたの。これってすごい事だと思わない? 一日働いてももらえないようなお金が、あたしの楽しい事をして、貰えるの。これって奇跡よ。
普通の男は三万円も払ってようやくあたしの体を好きに出来るの。
でもね、
お金を払わずに、ただであたしの胸に触れるチャンスがチャンスがあったのに、嫌がってあたしの胸を触らず、キスもしなかった愚か者が恭介、あなたなのよ」
なるほど。これはそういう意味での復讐なのか。
俺に胸を見せつけ、なおかつ欲情を喘ぎながら俺に胸を決して触らせない。そして、触る権利があったのに、と言って俺の後悔を浮かびあがらせようとしているのだろう。
これは筋が通っている復讐だ。むしろ今までの復讐? いじめ?が筋が通っていなかっただけだ。
それについては、
彼女が被害者面をするため。自分が加害者じゃなくて、被害者になりたいからそれをしただけ、と言う事。そういう意味ならば、筋はある意味通っていると言えよう。
しかし今彼女は俺を苦しめようとしている。後悔の念に縛り付けようとしている。
「あんたは。この胸を触る権利を自分から放棄したの」
「哀れだな」
気が付けば俺はそう呟いていた。
本音だ。可愛そうに思う。性欲のみに縛られている。それ自体が。
あまりにも可哀そうだ。
胸で俺を屈服させることが出来ると思っていること自体が。
確かに、男性の本能として、触りたいと思う気持ちはある。目の前に胸を差し出されているのだ。抵抗できる人間は数少ないだろう。しかし、そういう問題ではない。
なんなら、不可抗力とは言え、一葉の胸を見ている。理子の胸は一葉のそれよりも遥かに大きい。だけど、
どちらの方が今触りたいかと言われれば一葉だ。
勿論それは比べればの話だ。そもそも、健全な関係を壊してまで触りたいとは思わない。
「なあ、理子。こんなことはもうやめようぜ」
俺は、言った。
理子は哀れだと、心の底から思うのだ。




