第62話 理子の襲来
日曜日。
休日だ。だけど、今日は一葉と会う約束があった。一緒にファミレスに行こうという話になっていたのだ。
俺が家のドアを開け、外に出ようとする。と、そこには桐花ちゃんの姿があった。
「ごめん」
そして、そう、彼女は一言言った。
「それは、どういう意味」
何がごめんなのだろうか。
「ごめん」
彼女はただ謝るだけだった。
そして、彼女は俺に抱き着いてきた。
「何をするんだ」
「ごめんなさい」
そして、もう一度謝った。
正直意味が分からない。如何いう事なんだ?
と、思っていると彼女は俺のポケットに入っていたスマホを手に取る。
「なあ」
そういうのも束の間、桐花ちゃんの後ろには理子がいた。
「ありがと」
理子が言って、俺のスマホを握った。スマホを奪われたのだと、その時に気が付いた。そして、今の桐花ちゃんは、理子の手先に成り下がっているとも。
「犯罪だぞ」
「今の状況で、どうやって警察を呼ぶのよ」
「家に戻って—―」
「させない」
理子に手を取られる。
「あたしと話し合いましょ」
そう言って彼女は笑った。
その瞬間だ。桐花ちゃんに後ろ手に拘束具をかけられた。それは、手錠だった。
百金に売られているようなちんけな物ではない。勿論警察官が使うようなそれではないだろう。しかし、SM用の、鍵を指さない限り解かれないような手錠なのだろう。
そのまま、俺は連行されていく。多分行先は理子の家なのだろう。
「君はそんな事するやつじゃないだろ」
俺が言うも、桐花ちゃんはその言葉に何の事も返してこなかった。
そして、理子の家にたどり着いた。久しぶりの理子の家への訪問がこんな形になるとは思っていなかった。部屋の内装はそこまで変化していなかった。ちゃんと奇麗に部屋の中が整えられていると、感じられた。
だけど、その中で物騒なものがいくつかあった。SM用の鞭や、猿轡など、不穏なものがあるのだ。
俺はもしかしたらこれからあれで拷問されるかもしれない、と感じると途端に体が震えていく。
それにしても、想定していなかった。理子が直接俺に手をかけるなんて。
切羽詰まっているという証拠だと思う。何しろ普通こんなことをしたら足がつく。しかも学外だから虐めとかじゃなくて直接教師に話が行く可能性だってある。
なのに、どうして。
「さてと、これはどういう事だ」
俺の上半身は裸にされ、手は手錠で拘束されている。俺の衣類は今パンツだけになっている。ここまで来たら完全にSM風になっている。だけど、理子はそんなつもりはないだろう。俺は女王様に鞭でしばかれて喜ぶような豚じゃないし、理子もそれで悦ぶ女王様ではないのだろう。
「さてと、もう抵抗できない様にしようかなって思うの」
「拷問でか?」
「さあね」
そして、くすくすと笑う。
「桐花ちゃんは、スパイだったのか?」
「ううん」
彼女は首を振った。
「この子はあんたを本気で救おうとしていた。だけど、それは無理だった様ね」
そして、俺の顎を手で触られ、理子の手の感触が伝わってくる。
「あたしはあんたの心を完全に折る」
そう、断言して見せた。
その言葉は、正直に言ってかなりの圧があった。これは完全に言い逃れが出来ない犯罪行為だ。
「もしかして、先手を打ったのか?」
「ええ、勿論。ここから、あんたが証拠を提出したら終わる。だから、完全に心を折るために来たのよ」
「一葉がいるから無駄だ」
「そうね。これも無駄な抵抗かもね」
そして、自嘲した。
それを分かっているのに、あくまでも俺を苦しめるために、こんなことをしているのか。
「俺のどこが気に入らなかったんだ」
「前も言ったでしょ」
「あれで納得できるわけが無い」
「あたしは、」
そして、俺の髪の毛を掴まれる。
引っ張られ、微痛を感じる。
「あたしは、何回もお願いした。性行為をしようって。でも、ずっとはぐらかされて、キスも頬までにしか出来なかった。あたしはそれが辛かった。あたしは、友達の延長戦としての彼女になりたかったわけじゃなかった。恋人にしかできない行為をしたかった」
「ホテルに入って行ったのも、そう言う事なのか?」
「もちろんよ!!」
理子は叫んだ。
「ビッチだなんて言われても、あたしは気にしない。ただ、あたしは他人と体を重ねたいだけなの!!」
その言葉に、俺は何も返せなかった。
俺は人と体を重ねるという行為が怖かったし、高校生の時点でやるべきこととは思わなかったのだ。
だけど、理子がそれで苦しんでいるのも事実。だけど、
「だったら俺に熱意をもって性行為をするように説得して欲しかった。それか素直にもっと早く、俺を振って欲しかった。」
「まだ体を重ねる希望があったからよ」
「なら説得してくれよ!!」
俺は叫んだ。
「俺はこの件、謝らないといけない事もある。だけど、それは全てじゃない。噂を流し俺を悪者にした点に関しては、完全に逆恨みだと考えてる」
「うっさい!!」
ビンタをされた。
「なあ、理子。俺は今のお前は嫌いだが、過去のお前は好きだった。あの時は上手く言ってたのに、なんでこうなったんだろうな」
「性行為してくれないからでしょ」
「そうだな。俺はお前がそこまでしたかったってことに気づかなかったな」
その言葉に理子はぷいっと首をそっぽに振った。そして、
部屋から去って行った。
俺は息を吐く。しかし、両手足を拘束されているため、まともに動くことはできない。
なんか体がジンジンとして痛む。
理子のやつは俺と性行為がしたかったのか。
あいにくだけど、俺にはする気が無かった。
怖かったのもある。だけど、俺の望む恋人関係では無いのだ。
もしかしたら、理子に熱心に説得をされていたら、する気になったかもしれない。だけど、それはあくまでもタラレバだ。
ああくそ、カップルと言うのは、性交渉をするものなのかよ。
……俺は彼女を作る資格なんてなかったのかもな。
俺にとっての恋人と言うのは、友達の延長戦。それだけなんだ。
俺は、友達の延長戦としての彼女を求めていた。
カップルって一体何なのだろう。
俺の価値観はおかしいのだろうか。
だったら俺はもう彼女は作らない方が良いのかもしれない。




