第59話 夜
そこから、俺は部屋に戻った。
最初は多少気まずかったものの、すぐに平然となって行った。
気まずい空気感も即座になくなったのだ。
そして鏡花と一葉との会話が弾んでいく。
その最中だった。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
そして、次の瞬間に一葉は口を開いた。
「何?」
「お兄ちゃん、明日一緒にバトミントン見学について来て欲しいの」
「結局行くのか?」
その言葉に鏡花は頷いた。
「一葉ちゃんにはもう言ったからあとお兄ちゃんだけ」
「かまわんぞ」
俺は頷いた。
何しろ、明日は暇だし、
それに鏡花がついて来て欲しいと言っているのだ。断る理由なんてどこにもないだろう。
「ありがと」
そう、鏡花は笑って言った。
そして、三人で一緒に暫く喋った後、鏡花は、「眠いから寝るね」と言って、部屋を去って行った。
「……一葉ちゃん、ファイト」
去り際にそう言ったのを俺は訊き逃さなかった。
そして、
一葉と二人きりになった。
ベッドに二人並んで寝る事は不可能、と言う事で布団を並べて二人で隣同士で寝る事になった。
「なんか」
一葉が口を開く。
「旅行みたいだね」
「そうだな」
旅行みたいだ。
「今日一緒に寝るなんて思ってなかったよ」
「でも、否定しなかった、でしょ?」
「ああ」
「エッチ」
「今日のそれは何なんだよ」
今日は何回エッチって言うんだ。流石に言いすぎている。
「でもさ、私恭介君と二人一緒に寝たかったよ」
「二人一緒に?」
「うん。こういう事」
一葉はとなりにごろんと転がった。そして、俺に抱き着いてきた。
「暑い」
「暑いなんて言わないでよ」
そう言って、一葉の抱き着く力が強くなる。
「何だよ」
「別にいいじゃん」
昼に続いて二回目か、別にだめという事ではない。
だけど、昼と違う部分がある。一葉がパジャマ姿になっているからか、あれの感触をさらに感じていく。
それを感じるとさらにドキドキとする。
「恭介君の体ってさ」
「ああ」
「ふにゃふにゃだよね」
「はあ?」
「ここさ、筋肉質だねって言うのが普通じゃん」
「そうだな」
「でも、ふにゃふにゃ」
「ふにゃふにゃで悪かったな」
別に俺だって好きでふにゃふにゃな訳ではない。
運動は嫌いでジムにも言っていないとなれば、ふにゃふにゃである理由はそろう。
だけど、俺だって好きでふにゃふにゃな訳じゃねえんだよ。
「ねえ、明日楽しみだね」
「鏡花のバトミントン?」
「うん。私バトミントン観るの久しぶりだから」
「そうだな。楽しみだな」
「でも、明日バトミントンする流れにならなくてよかったね、明日見学だけだし」
「どういうことだ?」
「ふにゃふにゃの筋肉じゃ上手く跳ね返せないでしょ」
それは明らかに俺を煽る言葉だった。
「なら、一葉、お前の身体見せてみろ」
「エッチ変態、ヤメテ!!」
「流石にそれはずるだろ」
女の特権と言うやつか。
とはいえ、無理やり脱がせたらそれは完全に変態の所業。
逮捕までアリエル、所謂犯罪行為だ。
そう考えると、
「仕方ねえ。降参だ。俺が悪かったよ」
俺は白旗を上げるしかなかった。
「ふふ」
そして、笑って、
「見せたゲルー」
そして、自分のパジャマをめくる。
「おい!」
その手は完全に脱ごうとしている手のように見えた。
悪いがここで脱ぐことは勘弁願いたい。
なんで、さっきと状況が真逆なんだよ。
俺が止めようとしていると、一葉が俺の手をはねのけ、完全にボタンをすべて外した。俺は思わず目をつぶった。すると、
「ナイトブラ付けてまーす」
そう言って、にこやかに笑った。
「だからいいって話じゃねえよ」
俺はそんな文句を言い放った。
見せるのもセクハラなんだぞ。一葉のブラ姿。それは俺の心身を緊張させた。
そんな会話をしているといつしか眠たくなり、俺たちは自然に眠りに落ち——
る訳もなく。
一葉が熟睡しながら抱き着いている今。
俺は目がバキバキに冴えていた。理由には当然ながら一葉の生肌を見せられたからと言うのもある。
くそっ、眠れねえ。
何しろ! 一葉に抱き着かれている。
当の本人は落ち着いた深い眠りを享受しているようだが、俺は違う。
俺は今も一葉に心をかき乱されているのだ。
くそっどうすればいいんだ。俺にはその答えが一切合切見えてこない。
なあ、一葉。
そろそろ離れてくれ。
夜中に、目が覚めた。
一度眠れたのに、また目が覚めてしまった。
一葉は流石に俺に抱き着くのを病めたようだが、かなり俺の方に近づいて行っている。
侵略されている。
だけど、それ以上に気になるのが今の一葉だ。
パジャマのボタンが二つほど外れていて、一葉の胸が直接見えるようになっていた。
谷間とかじゃなくて、ナイトブラがちらりと見えている。
結構はだけているな、と感じた。そう言えば一葉は寝る前に外したボタンを戻していただろうか。その答えは恐らく否だろう。
ああくそ、
見てはいけない、と瞬時に判断した。これ以上は俺の欲情を招いてしまう。俺は一葉とは逆方向に向き直し、目を閉じた。
ついさっき見た。だからいいという話ではではないのだ。視界に入れると、ドキドキとして欲情を招くのだ。
そこから先、また眠りにつくのに時間がかかったのだった。
★
目が覚めた時、すでに隣に一葉の姿はなかった。先に目が覚めたのだろうか。
俺は、布団を軽く足で蹴飛ばした。
一葉はいつまで俺に抱き着いていたのだろうか。
俺は軽く自分のパジャマを整える。軽くはだけていた。
人のこと言えないな、なんて思った。
昨夜の事を思い出すと今も気恥ずかしくなる。
一葉が昨日の夜俺にしたことは、明らかに距離感がおかしい。
やっぱりあれは俺への告白行為だったのではないかと、感じてしまう。
着替えてリビングに向かうとそこには既に食事を取っている一葉と鏡花がいた。
「おはよ、恭介君」
そして一葉は笑みをこちらぬ向けるのだった。




