第五十六話 お風呂
そして、一葉がいなくなった後、ベッドで俺は寝転がった。
一葉がさっきまで寝ていたベッド。そう考えると、ドキッとしてしまう。
いやいや、こんなことで、間接添い寝? をしただけで、こんなふうになるなんて、本当に添い寝をしてしまったらどうなるんだろうか。
そもそも俺は一葉と添い寝をしたいという目的で、一葉を家に呼んだわけではない。
いや、そういう気持ちもない訳じゃない。
ただ、一葉のパジャマ姿を見たかったから、と言う気持ちもある。
一葉と夜、パジャマ姿の一葉が寝室に行くまで一緒に喋りたいなと思ったこともある。
だけど、その中で俺は、
結局一葉に対する欲望を持っていたのではないかと、思ってしまう。
俺は一葉の事が好きなのかもしれない。
勿論友達としてじゃなく、異性としての話だ。
一葉は可愛い。そもそも一葉と付き合えるなら、付き合いたくない奴はいないだろう。
一葉から告白されて断るやつはいないだろう。
くそっ、分かんねえ。
今日は一葉にドキドキされっぱなしだ。
★
SIDE一葉
「お風呂入るね」
そう、中にいる鏡花ちゃんに言う。
「うん。いいよ」
そして私はお風呂の中に入っていく。中には鏡花ちゃんだ。
私はぱっとシャワーを浴びて、お風呂へと入っていく。
「はあ、気持ちいい」
私はそう言って、肩までオフにつかる。
お風呂はそこそこ大きかった。それこそ、私と鏡花ちゃんの両方が、端まで足を延ばせるくらいには。
「日曜日だけどさ」
「うん」
「結局恭介君誘った?」
バトミントン部の事だ。
「まだ」
鏡花ちゃんは言った。
「今も迷ってるんだよね」
迷っている?
「バトミントン見学の事?」
「うん。一応見学と体験レッスン応募してんだけどね」
「見学応募してても、怖いもんね」
私が言うと、鏡花ちゃんは頷いた。
「怖いよ。そこを気に入っても気に入らなくても」
そして、唇を尖らせる。
「あたしだって、分かってるよ。あいつらが悪いだけって。でも、思っちゃうの。あたしが普通じゃないのかなって」
「普通じゃない?」
「うん。もめ事起こしたの今回だけじゃないし」
「それは、鏡花ちゃんが悪かったの?」
「ううん」鏡花ちゃんは首を振る。「そんなわけない」
「ならいいじゃん」
私は笑った。
「なら、鏡花ちゃんは悪くないよ」
心の底からそう思う。
何も悪い事はない。
私の記憶上では、鏡花ちゃんは私のお姉ちゃんみたいなものだった。
それはおかしいと思う。だって、二歳も年が離れているんだもん。
しかも、私の方が年上だし、
その理屈で言うなら、私がお姉ちゃんでなければいけないはずだ。
だけど、昔から引っ込み思案だった私にとっては、鏡花ちゃんは私の光みたいな存在だった。
だけど、鏡花ちゃんは間違っていることは間違ってるという性格だった。
私も恭介君に関わる事なら、臆せずに言える気ど、自分の事になったら言えるはずがない。
実際、両親には私の気持ちを言えてないし、今もいいなりのままだ。
思わず、危機回避してしまう。だけど、鏡花ちゃんは物怖じせずに何でも言える。
それが、鏡花ちゃんの魅力なんだと思う。
私に欲しい能力だ。
だけど、それのせいで、物事がうまくいかない場面も多くなっただろう。
私が昔、いじめではないけれど、嫌がらせを受けていた時も。
『あんたたち、恥ずかしくないの? あたしだったら恥ずかしいよ。そうやって物を隠したり、人間の屑がやる事だよ』
そう言ってわたしを助けてくれた。
自分よりも年上で、自分よりも体躯が良い人相手にそう言い放ったのだ。
その時は恭介君はいなかった。だけど、たまたま目撃した鏡花ちゃんが助けてくれたという話なのだ。
その後鏡花ちゃんはぼこぼこにされた。
その時に私がどうして立ち向かうのか聞いた覚えがある
その時鏡花ちゃんは『こっちは悪くないのに我慢するのはおかしいじゃん』と言っていた。
それは確かにそうだ。
だから、私は理子さんに対して敵意を向けているのだ。
鏡花ちゃんがその姿勢でいる鏡花ちゃん自身を嫌いになって欲しくない。
そのスタイルを続けて欲しいと思う。
「一葉ちゃん、どうしたの? 意味深な表情を見せて」
「ううん、何でもない」
わたしは言った。
意味深な感じしてたかなあ、なんて思った。
そして、私たちはお風呂を楽しんだ。
そして、
お風呂から上がった。
と、同時に私は自身の服をさすった。
パジャマだ。
彼には、恭介君には私のパジャマ姿はみせえたことはなかった。
だからちょっと、ほんのちょっとだけ、ドキドキとする気持ちがある。
恭介君は私のパジャマを気に入ってくれるだろうか。
気に言ってくれたらいいなあ。
というか、それにしても。
鏡花ちゃんのパジャマ姿可愛い。
私は思わず、
「どこで買ったの?」
そう訊いた。すると、
「近くの服屋さん」
そう、おずおずと鏡花ちゃんが言った。
そして、一回転して、
「子どもっぽいけど、可愛いでしょ」
「うん、可愛いよ。一葉ちゃんも」
「え? そうかな」
「うん。可愛い!!」
鏡花ちゃんはにっこりと笑った。
そして、鏡の前で二人並び、洗面所に置いていたスマホを手に取り写真を撮る。
恐らくこの写真は私は暫く見返すだろう。




