第五十三話 キス
SIDE鏡花
「これは、一葉ちゃんに言おうかずっと迷ってたことなんだけど」
鏡花ちゃんがおずおずと口を開く。
「あたしいま小さないじめを受けてるの」
これは、まだお兄ちゃんにしか言ったことが無かった。だから、本当に話していいのか、あたしにも分からなかった。
だけど、言わなきゃならないって思った。
あたしは一葉ちゃんが遊園地に誘ってくれて嬉しかった。
あとでお兄ちゃんがいるって知って驚いたけど。
一葉ちゃんはあたしの言葉に対して、「え?」と、固まるような様子を見せた。
そりゃ、そうだよね。
「誰が!?」
一葉ちゃんは、鬼気迫る表情をあたしに見せてきた。
本気で心配してくれているのがあたしにまざまざと伝わってくる。
「部活の仲間……」
あたしがそう言うと、一葉ちゃんは、「許せない」って言った。
その表情からあたし以上に怒ってくれてるってのが伝わってくる。
「一葉ちゃん、一応言っておくけど、今回の件はお兄ちゃんにも言ってるの。お兄ちゃんも怒ってくれて、何かあったら殴り込みに行くって」
「私は殴り込みに行くのは悪手だと思う、けど」
「けど?」
「証拠を集めるべきだと思う。先生に言ったらすぐに対応してくれるような」
「お兄ちゃんの件も先生に掛け合ってるんだよね」
「うん」一葉ちゃんは頷く。「でも、上手くいくかどうかは今の所分かんない。先生はたぶん証拠が無かったらまともに取り合ってくれないし」
「なるほどね」
あたしは頷く、と。
「今はそんなことはいいの。鏡花ちゃんは今は大丈夫なの?」
「今は部活には行きたくはないかな」
そう、あたしは言った。
部活に行きたく無くて最近サボってる。でも、あたしも分かってるんだ。今のままだったらダメだって。部活を休むことで悪影響を受けてるって。でも、そんな事を思ってももう無理なの。
お兄ちゃんは、言ってた。部活以外の場所で楽しい所があるなら辞めてもいいって。
だけど、
あたしにとって今、部活は嫌な場所だけど、でも部活以外の場所で、バトミントンをするって、今のあたしには想像できない。
でも、お兄ちゃんの言ってることも一理ある。
あの時は……今もだけど、別の場所でやる事はイメージできない。けど、それは知らないからかもしれない。食わず嫌いと一緒だ。
あの時のあたしは正直パニックだった。だけど、探すのも手なのかもしれない。
「だから、あたし相談があるの」
「なに?」
「バトミントン、あたしと一緒に探してくれない?」
無理なお願いかもしれないと、あたしは思う。
それに付き合ってくれる保証なんてない。
それに、一葉ちゃんは今は忙しい。
だけど、
「あたしは最初はそこまでバトミントンに本気になるつもりは無かったの。楽しかったらよかった。だから、とりあえず今度あたしと一緒にバトミントン—―」
「いいよ」
一葉はちゃんはすぐにうなずいてくれた。
「来週一緒にさがそ」
「うん。お兄ちゃんにも相談してみる」
そして、あたしたちは小さなハイタッチをした。
★
後半戦はあっという間に過ぎていく。
そのまま俺たちは、遊びつくした。
遊園地の閉館時間は、18時だ。
と言う事で、17時半に、観覧車に乗る事になった。
観覧車に二人足を運ぶ。
一葉と一緒に観覧車に乗りたかったな、と思う。
一葉のやつも来るのが今日じゃなくて、また別の日に来てくれたらいいのに。
そしたら2人でデートが出来たのに。
勿論、桐花ちゃんを監視するため、という理由もあったんだろうけど、
しかし、それにしても、陽が落ちかけている。
空が赤く染まっている景色は見てて楽しい物だな、と感じる。
「きれいですね」
それは、桐花ちゃんも思っていたそうだ。
「きれいだな」
俺はその言葉に頷いた。
「ここに、恭介君と来れて良かったです」
感慨深そうに彼女は言う。その言葉に俺はまた頷く。
動画はいつ貰えるだろうか。
それが嘘で、とかだったらどうしよう、なんて思ったりもする。
だけど、
「動画、送りますね」
「いいのか?」
「そういう約束ですから」
そして、俺の正面から、俺の隣に席を移す。
「だけど、その代わり」
その瞬間だった。俺は正直瞬時に反応は出来なかった。しかし――
チュッ
頬にキスをされた。
驚いた。
くそっ、一体どういうつもりだよ。
「今度は唇に出来るように、頑張りますね」
彼女はそう言って穂が屋化に笑みを浮かべるのだった。
その後、手を振り、園の出口で別れた。
そして、別れた自国、17時45分。
「で、なんで今日来たんだよ、二人共」
「やっぱり気づいてたの?」
「当たり前だ。鏡花も一緒に。遊園地ならいつでも一緒に行くぞ」
「ずるいもん」
一葉は一言言った。
「恭介君を撮られるのが嫌だったんだもん」
頬を分かりやすくふくらまし、不機嫌を表していく。
「ああ、クソっ!」
そして、俺は一葉の目を真っ直ぐに見て、彼女の手を取る。
「俺だって寂しかったよ。思っちゃったよ。この前の赤松とのお出かけみたいに、一葉と一緒だったらなって」
「そう、思ってくれてるの?」
「当たり前だろ!!」
俺は叫んだ。周りに声が響いている。
「俺にとって大事なのはお前だけだ」
俺は啖呵を切った。
一葉の顔が赤らめていっている。
あれ、これ告白みたいなことになっちまったか?
なんて、思ってると、
「お兄ちゃんさあ」
俺は声の方向を見る。そこには不機嫌そうに腕を組んでいる鏡花の姿が見えた。
「あたしが見えてないの?」
明らかな不機嫌。その姿を見て、正直恐れおののいた。
「あたしが大事じゃないってこと?」
そして、矛盾点に突っ込まれた。
確かに、この発言は鏡花の事を大事だとは思っていないという事になってしまう。
この発言は元々、桐花ちゃんよりも一葉の方が何倍も大事だという事を言い表していたつもりだったが。
「お兄ちゃん、黙っちゃった」
鏡花はそんな俺を見て、そう呟くのだった。
その後は三人で近くのファミレスに入った。
ファミレスの中で俺たちはパスタを頼み到着を待っていく。
パスタの到着を待つ間、俺は動画を見た。
正直あまり見せたいものではなかったが、この際だ、仕方がない。
それを見て、「これはどう考えても犯罪……」
そう、鏡花が呟いた。
「流石にこれを見せたら、証拠になり得るだろう」
これで、動画が貰えなかったらどうしよう、なんて思っていたがそれは完全なる杞憂だったようだ。
一応裏切る事になる。
理子を地獄に落とすことになるからな。だけど、こればかりは仕方がないだろう。
それに、俺にはそれをする権利があるはずだ。
俺は理子に苦しめられて色々と嫌な目にあわされた。
だから、
これはちゃんと正当性のある復讐だ。




