第52話 童貞を殺す笑み
SIDE一葉
「お兄ちゃん、気づいてますね」
そう、鏡花ちゃんが言った。
「あたしたち、お兄ちゃんの邪魔になってるのかな……」
「そんなことないって、私たち二人で満喫しよ」
私は鏡花ちゃんにそう言った。
恭介君たちは、ご飯を食べにレストランに入って行った。
レストランに向かって、二人の様子を見てもいいけれど、でもそれは迷惑になる可能性があるかもしれない。
だから、私たちは、
「じゃあ、次はこれ乗ろう」
そう、提案した。鏡花ちゃんはその言葉に頷いた。
提案した場所は、メリーゴーランドだ。列に並んでいる人はそこまでいないように見える。多分すぐに順番が来てくれるだろう、と思う。
「これ、お兄ちゃんにはもう言ったんだけど」
鏡花ちゃんは小さな声でぼそぼそと行った。
「あたしの話、聞いてくれる?」
真剣な顔だ。私はその言葉に頷いた。
★
「沢山メニューがありますね。どれたべるか迷います……」
桐花ちゃんはメニュー表を見て、唸る。
確かにメニューが沢山あり、メニュー表も5ページ程度ある。
それも、パスタやオムライス、ドリアと言った洋風メニューからそば、うどん、ラーメン、チャーハン更にはとんかつやハンバーガーまである。沢山、兎に角沢山のメニューがあるように思えた。
まるで、フードコートのようにジャンル問わずいくらでメニューがあるようだ・
「どれにしようかなあ」
楽しそうに、桐花ちゃんはメニュー表を見ていく。
楽しそうに見ている。
対する俺は既にもう決まっている。パスタだ。
パスタを今俺は食べたいと思っているのだ。
理由はそこまであるわけではない。ただ、理屈じゃなくて、気分だ。
そして、10分程度迷ったあと、結局桐花ちゃんは、グラタンを頼んだ。
そして、料理の待ち時間の間。俺には桐花ちゃんに聞きたいことがあった。それは、
「そういや、どうして俺のことを好きになったんだ?」
それこそまさに気になっていた事だ。
この前は俺の記憶上、俺がどうして好きなのか、その理由は言ってなかったはずだ。そして俺は思うのだ。もしかしたら、ごまかしたのかもしれない。
もしそうなると、理子の手のものである事が確定するがどうなのだろうか。
「えっと」
おずおずと手をこばめる。そして、
「私は一目ぼれとかじゃないのです。でも、一度恭介くんも私を助けてくれたことがあるのを覚えてますか?」
「ああ、そんな事もあったな」
うろ覚えだが、そんな事があった。
同じクラスになるまで俺と桐花ちゃんとの交流はそこまで多かったわけではない。ただ、そんな中で、俺は桐花ちゃんを助けたことがあるのだ。
それは別に大したことじゃない。
ただ、横断歩道に飛び出そうとしていた彼女を止めたという事だ。
それだけだったけど、
「それが一目ぼれと言う話だな」
「一目ぼれじゃありません。ただ、あの時の出来事が契機になりましたね……」
なるほど。そういう話か。
俺は小さくうなずき。
「でも、どうして俺に告白しなかったの」
「理子さんがいたからです」
はっきりと彼女はそう告げた。
「だから、私は自分の恋心は隠そうと思ったのです」
そして、今に至ると、
「なるほど、よく分かったよ」
「恭介君は、一葉さんじゃなくて、私にする気はありませんかっ!!」
一層大きな声で桐花ちゃんが言う。
「それは今、考えている所だ。だから遊園地で俺にアプローチして欲しい」
一瞬、俺は何を考えているんだ、となった。
変な言葉が続いている。俺は本気で悪徳ホストにでもなろうとでもしているのだろうか。
「分かってます。だから」
その言葉に合わせて彼女はグラタンをスプーンですくい、
「あーん」
と言いながら、俺にスプーンを差し出してくる。
「あ、おい!」
「別にいいじゃないですか」
そして、更に近づけ、
「あーん」
そう、もう一度言う。仕方ない。覚悟を決めるしかない。
俺は、そのスプーンを口にくわえた。
これは完全なる間接キスってやつだ。
恐らく向こうはわざとだ。ああ、くそっ、ドキドキとしてしまう。
そんなのではだめなはずなのに。ああくそ、困る困る困る。
「ドキドキ、しますね」
そう言ってえへへと笑う。
並の男子なら、これだけでいちころだ。
まさに『童貞を殺す笑み』だ。
俺も、一葉がいなければやばかったかもしれない。心の中の一葉が助けてくれたのだ。
あれ、ふと思った。
なぜ俺は、桐花ちゃんにころって言ったらっ駄目だと思っているのだろう。
たぶんそれは、一葉の存在だ。
一葉を裏切るから、とかじゃない。一葉に警戒しろなんて言われるから、でもないと思う。
一葉と気軽に遊べなくなるのが絶対に嫌なのだ。
だからこそ、可愛そうなことだが、桐花ちゃんと付き合う選択肢なんてものはどこにもないのだ。
とはいえ、この遊園地の間は桐花ちゃんをだまし通さないといけない訳なのだけど。




