第48話 弱音
「恭介君!!」
谷村さんが去った後、我慢の糸がキレたように、一葉が俺の方にもたれかかってきた。
「なに?」
「疲れた。膝枕して」
「今肩枕してるだろ」
肩に頭を乗せられている状況。これは肩枕と言っても、表現的に間違ってはいないだろう。
「膝枕!!」
一葉は言って、俺の許可もなく俺の膝のうえに寝転がる。
一葉の頭の感覚が膝に伝わってくる。
くそっ、ラブコメとかでも、男の膝枕は聞いたことない。何しろ、大体の膝枕は女の子の膝に男が乗るという事なのだから。
「なあ、一葉。そんなに嫌だったのか、あの人」
一葉は焦燥しているように感じ取れた。
「嫌っていうか、話してると疲れるんだよね。良い人だし、話してても楽しいときは楽しいんだけど、なんとなく合わないっていうか」
「あーなるほど」
そういうことか、と思った。
「確かに上手く仲良くなれない人って居るよな」
「うん。でも、嫌なところを言えって言われても、言えないし。わかんないよ」
「私ね、こんなこと言えるの恭介君に対してだけなの。弱音を吐けるのも恭介君相手だけ……なんでかな?」
弱音、か。
確かに、俺にしか弱音は吐いていない様に思える。
実際この前鏡花と話してた時も、完璧な自分を演出しようとしていたように思える。
「幼馴染だからだろ」
「……ふーーーーーん」
明らかに不満たっぷりの表情をしている。
俺に何かもの言いたげな様子だ。
「なんだよそれ」
「別にいいじゃん」
そして一葉は軽く目を瞬きさせて。
「それで……浮気現場見たよ。理子と武って人が一緒にホテルに入っていくの」
「奇遇だな。俺もだ」
「え?ホント?」
「ああ、でも赤松と付き合ってるんじゃないのか?」
「……なにそれ」
一葉は首を傾げた。
「桐花ちゃんから聞いたんだよ。理子が赤松と付き合ってるって」
「っそれって!!」
「つまり確定で二股してるってことだ」
一葉は頷いた。
「うん。たぶんそう言う事だと思う」
「だよな」
「ねえ、またさ、話変わるけど、ちょっと話したいことがあるの」
一葉のその言葉に、
「なに?」
と返す。
「今日呼んだ理由にもつながるんだけど」
「うん」
「私にとって黒歴史なの」
「うん……って何が?」
「中高時代が」
一葉は確か、嘘の自分を演じていた、みたいな発言はしていたと思う。
それと関係があるのだろうか。
「私、嘘の完璧な自分を演じる事があるの。その中でも、中学とか、前の学校は酷かった。多分恭介君がいなかったからかな」
「俺がいなかったから?」
「うん。恭介君の前だったら。全然大丈夫なんだけど、でも仲良くない人相手に元気で振る舞うのって疲れる」
「確かにお前、そういう時嘘の笑顔を浮かべるよな」
俺が言うと、彼女は頷いて見せた。
「だから、疲れちゃうんだよね。だから、美代子ちゃんが知ってたのも、私の裏の一面。でも、恭介君は私の表の一面しか知らないと思う。だって、わたし恭介君といたら、大丈夫だから」
疲れているのか、喋り方がたどたどしい。
そして、一葉は一瞬小さく寝返りを打つ。
「でも、今日は甘えていい?」
「普段俺が甘えてるだけだから」
そして、俺は一葉の頭を優しく撫で、
「恩返しだよ。俺からのな」
それを受けた一葉は嬉しそうな顔をした。
そこからまた30分ほどたった。
そこから俺たちは夜ご飯を食べる事にした。
とは言っても俺は桐花さんとので、もうご飯を食べている。
基本一葉の食べている姿を見ているだけだ。
「そう言えば」
一葉が食べている姿を眺めている、ふと思い出した。
「あの話し合いの事なんだけど」
「そう言えば……」
その様子を見ると、一葉はどうやら忘れていたらしい。
「結局デートすることで、証拠の……動画を貰えることになった」
「騙されてないよね、それ」
「流石にまた騙されたら、どうしようもねえだろ」
流石に警戒はするし、スマホの録音機能も常時オンにするつもりだ。
「で、どこに行くの?」
「遊園地デート」
俺がそう言うと、一葉は頬を膨らませた。
「一葉?」
「ずるい」
「え?」
「ううん、何でもない」
張りつけたかのような笑顔で一葉が言った、明らかに無理をしているように見える。
「一葉、何があるんなら、言っていいんだぞ」
「何でもない!!」
一葉はもう一度叫ぶ。まるで、立ち入られたくない何かがあるかのように。
「はい! もうこの話終わり、ゲームしよ、ゲーム!」
「俺の前なら、笑顔を張りつけても疲れないって言ってたのに、いや、これが素なのか?」
「何言ってんの。ゲームするよ」
「一葉、お前そういう性格だったっけ……」
「いいじゃん」
そして、スマホゲームのマルチプレイをすることとなった。




