第四十六話 友達
私は、ああいう人たちを軽蔑する。心の底から軽蔑する。
なんで、愛の形を性交渉でしか見られないのだろうか。
まだ、数年間付き合ったカップルならまだしも、なぜ、数日間会っただけですぐそう言う形に持っていくのだろうか。
子孫を残すため、それは男の思考だ。女には関係ない。
男は、子どもが生まれても逃げる事が出来る。
知らんぷりすることが出来る。だけど、女はおろさない限り、子どもを育てなくてはならなくなる。
そこに、《《ならなくなる》》なんて言葉をつけるのは良くないけど。
いくら避妊していたとしても、子どもが生まれる場合もわずかながらある。
そうなれば、大変だ。それこそ、経済的な自立が出来ていない場合には、
そう、わたしたち女性にはリスクがあるのに。
理子さんは自分からラブホテルに入っている。
軽蔑してしまう。自分から、そんな行為をするなんて。勿論駄目とは言わないけど、それでもまだ高校生なのに、なんて思ってしまう。
私は自分の腕をつかむ。
このままじゃあ、変な思考に入りそう。
帰らないと。
「あれ」
そう、後ろから声をかけられた。
「かずっちじゃん、こんなところでどうしたの?」
その言葉をきいて、私はげっと言葉を漏らしそうになった。
前の学校の同級生だ。谷村美代子。髪の毛を金に染めている、ギャルみたいな人だ。
「なんで、ここにいんの?」
「それはこっちのセリフだよ。しかも、あっちから出てきたよね」
そこは治安の悪い場所だ。そこから出てくるという事はそれ即ち、いかがわしい行為をしていたか、売春のようなものをしていたか、という事だ。
「それは、その……」
なんて返せばいいだろうか。
「事情があって。けしてそういう目的じゃないから!!」
「別にウチはそういう目的だと勘ぐってる訳じゃないんだけど? っなんか言い訳臭くね?」
「言い訳、臭くないよ」
事実なんだし。
でも、あの場所に行っていた目的までは言いたくはなかった。美代子ちゃんとそんなめちゃくちゃ仲の良かったわけでもないし、そもそも恭介くんの事情を許可なく話したくは無かった。
「ま、ならいいけど。それにしても久しぶりっしょ? なんで転校したの?」
「幼馴染と再会するため!!」
私は勢い言い放った。
嘘じゃない。理由は色々とあるけど、恭介くんに会うためというのは理由の半分近くを占めている。
「そんな大声で言わないでよ。正直ビビった……」
彼女は、若干身を引きながら言った。
その言葉にわたしは小さく、「ごめん」と言った。
「ねね、ファミレス行こ」
「なんで?」
「再会……記念かな」
「まだ転校してから二週間経っていないと思うけど」
「いいじゃん。うちらにとっての二週間は1年だよ」
そう言ってにっこりと笑う。
彼女には悪いけど、その表情は私にとって苦手と感じるようなものだ。
若干。若干だけど、帰りたい気持ちになってしまう。
だけど、私には断る勇気がない。
私は、彼女について行くことに決めた。
★
こんな形でもらっちゃっていいのかな、なんて思う。遊園地に一緒に行くことを条件に動画データを貰う事を約束した。
遊園地デートさえすれば、冤罪の証拠が手に入る。
手に入れば先生に提示する?
いや、それよりも警察なのかもしれない。
だけど、それをしたら、桐花ちゃんに嫌われることとなる。だけど、それでも、もう俺はこの身を汚してしまっているんだ。
それならば、もう、
どうでもいいだろ。
それで、桐花ちゃんから言われても。
それで、いいだろ。
くそっ、なんなんだよ、このモヤモヤは。俺は一体どうしたらいいんだ。
どうしたら満足するんだ。
早く、一葉に会いたい。会ってしまいたい。
「あれ」
あそこにいるのは理子ではないだろうか。
理子、彼氏連れか。
あれ、彼氏は赤松という話じゃなかったのか?
別の男と歩いているんだが。
この手の話でよくあるのは、彼氏じゃなくてお兄ちゃんというパターンだ。
だけど、俺は彼女が二人姉妹である事を知っている。
勿論従兄妹である可能性を考えてば、可能性は果てしない程沢山ある事になるけれど、今のところは浮気と断言していいだろう。
俺は一枚写真を撮った。
そして、家へと帰っていく。
★
「ねえねえねえ、今その恭介っちとはどんな感じなの? あたしに教えて?」
彼女はしつこく私に聞いてくる。
少しげんなりとしてくる。
どうしよう。私そこまでこの人と話すの好きじゃないんだけど。
私は彼女の事が苦手だった。嫌いじゃないし悪い人じゃないという事も知っている。だけど、どうしても苦手という気持ちはぬぐえない。だって、
一一位距離が近いんだもん。
そこがなんとなく苦手、
せめて恭介君がここに居たらいいんだけど。
そんなのないものねだりな事を私は知っている。
恭介君に早くあの画像を見せたいのに、それが今出来ない。それに対し今複雑な気持ちを描いている。
一応恭介君にメールは送った。
『今忙しかったらスルーしていいんだけど、ファミレスに来てくれない? 話したいことがあるから』
と、
「ねえ」
私は口を開く。
「あの後、私に対してどんな感じに、なってる?」
この質問自体が、多少変かも知れない。
だって、わたしは……
誰にも告げずに転校を決めた。あの日も恭介君と会わなくても、荷物を取りに行くだけ言ってすぐに退散するつもりだった。
ただ、私が勝手に転校を決めただけなのに、じみじみとした暗い空気にさせたくなかった。というのも理由の一つだ。
でも一番は、恨まれることが嫌だという言う事。だって、裏切ったみたいじゃん。
勿論わたしにも理由はあるわけで、それで裏切ったと言われても困る事だけど。
「みんな不思議がってたよ。なんでなんだろって」
「まあ、そうよね」
あの時の私は、周囲から見たらなんでも、それこそすべての物が上手く行っていた、かのように思われるだろう。
だけど、実際はそんなことは無かった。私は色々と我慢していた。
勿論そんな泣き言を言ってもどうにもならないと思ってるけど。
「今、恭介くん、幼馴染と一緒に居られて幸せとは思うんだけどね」
「あたしを裏切って、幸せを手にしたってことか」
「否定できない、かも」
私がそう言うと彼女はまた笑う。
最初は嫌だと思ってたけど、少しずつ楽しくなってきたかも。
「ねえ」
「なに」
「私って、美弥子から見てどんな人」
「なにそれー、突然過ぎない?」
「確かに……」
私は頷いた。
「あたしから見たら、元気いっぱいな子だよ」
「だよね」
という事は私の擬態は上手く言ってたってこと。
それを聞いて、少し安心したな。
変な感じになってなくて。
私が、素の自分で居れるのは基本的に恭介君と一緒に居る時だけだ。
美弥子ちゃんとも、鏡花ちゃんとも、素の私で話すことなんて不可能に近くて。
「それがどうしたの?」
「いや、なんとなく」
「じゃ、カズっちからみて、うちはどうなんのよ」
「ええ!?」
まさかそんなことを訊かれるなんて、思ってなくて。
「ええっと……」
早く答えないと失礼になるかも。
私は頭を抱えながら考える。
えっと、
えっと、
えーっと。
「明るい人」
「同じじゃん」
「同じって言われても」
「そんなにあたし印象なかったんだ。えーん」
泣きまねをして見せる。
それを言うなら、明るいイメージも大概だと思うんだけど。
「優しい、人?」
「それ印象ない人に言う言葉じゃん」
私は唇を尖らせる。
「意地悪」




