第45話 悪魔の提案
「俺からしたら、その言葉は嘘にしか聞こえねえよ」
俺は言った。
嘘にしか思えない。どうして、そんな事を言うんだ。
俺はお前を疑いたいわけじゃない。
だけど、そんな顔をしてそんな言葉を言わないでくれ。表情と声はマジなんだよ。
今の俺は、一葉を除いて、人間不信の状況にあると思う。
赤松にも裏切られ、もはやどうしていいか分からない。
「ごめん、そんなこと言うべきじゃないよな」
「悪いのは理子さんを止められなかった私ですから」
――
――
「なあ」
数分の静寂の後、俺は口を開いた。
「今でも理子は、弱きを守る人間だと思うか? 赤松が単独で事に及んだと思ってるのか?」
「赤松君は、理子さんと今付き合ってますから」
「ん?」
ここにきて初尻情報だ。
「だから、あんなことをしたんでしょう。自分の彼女を守るために」
「理子が言っていたのか?」
「いいえ、一緒にホテルに入ってましたから」
マジかよ。そう言う事だったのかよ。
もやもやとする。
「だったら同じだ」
俺は言った。
「どちらにしても、理子がその騒動を止めなかった時点で、俺からしたら理子は悪だ」
理子がかかわっていようと、いなくても関係がない。
理子が主犯じゃなかったとしても、理子が「こんなことしないで」なんて言って止めなかった時点で、俺には信用できるものがない。
信用できるわけがない。
「桐花ちゃん、君の信じる理子はもういないんだよ」
「……」
ここで、少し俺の中で意地悪な俺が出て来た。
もしやこれをすれば、証拠を入手できるのではないだろうか。
「なあ、桐花ちゃん」
「何ですか」
「本当に俺の事を好きなら、理子の撮ったあの動画を俺にくれないか?」
悪徳ホストみたいな口ぶりで言った。
悪徳ホストならば——俺はホストの事はあまり知らないが——なんだろう……ホストなら、パパ活でもして、お金を貢げ、とでもいうだろうか。
それと似たような言葉だ。こんな言葉を言うならばあの時強引に動画データを奪っておけばよかったのかもしれない。
だけど、今更そんなことを言っても仕方がないだろう。
失われた時は取り戻せない。
今できるのは、桐花ちゃんを利用するだけだ。
桐花、俺は桐花ちゃんの事は好きだ。それは友達関係として好きだった。
彼女は確かに俺と理子が遊ぶことが少なくなっていたことに対し、疑問を抱き、そして俺たちの仲を取り持とうとしていた。
だけど、
今の状況で桐花ちゃんと付き合うという選択肢は存在しない。
桐花ちゃんと付き合うのなら——俺たちはそういう関係性ではないのだが——一葉と付き合った方が良いだろう。
「お願いだ」
「それをしたら付き合ってくれますか?」
「考えてやるよ」
口ぶりまでホストっぽく?なっている。
これで、桐花ちゃんが理子の命令で動いているのか、それとも自分の意思で動いているのかが、判明してくれるはずだ。
さあ、お願いだ。
「分かり、ました」
そして、彼女は自身の持つ動画データを俺に送った。
彼女は、こぶしを強く握った。
「ありがとう」
俺は彼女の頭を撫でた。
結局、だます形になってしまった。
桐花ちゃんをだまして動画データを差し出させることになった。
これが理子の罠でない事を祈る。
だけど、それにしては達成感が何もない。
どうしてだろう。これでいいはずなのに、なんとなくよくわからない。
「お礼が、欲しいです」
桐花ちゃんはそう言った。
そして、
「今度遊園地に連れて行ってください」
と、言って見せた。
★
彼女たちは建物の中に入ってきた。私はそれを追う訳にはいかなかった。
だって、わたしは制服姿。こんなところに来るのもギリギリセーフかアウトかなのに……
ホテル、しかもいわゆるラブホテルに入るなんて、アウトだろう。
だからこそ、彼女たちは制服姿から私服姿に着替えたのだ。
中でする事なんて決まってる。
出て来たところを撮ろうか。
瞬間に軽く調べると、
二時間程度という結果が出て来た。
休憩と言っても、二時間程度らしい。
だけど、二時間後にぴったりと出て来るのか分からない。
それにその動画を撮ったとしても、証拠としてどれくらいするのかもわからない。私も制服姿だから。補導される可能性もある。勿論ラブホテルに入るつもりは毛頭ないけれど、でもリスクは残念ながら生じてしまうのだ。
私は、真っ直ぐに、前を向く。
そして、自分の制服の裾を掴む。
どうしようか、悩んでいると。
「ねえねえ、お姉さん」
—―その瞬間だった。後ろから話しかけられたのは。
「もしかして立ちんぼ? 俺たちを誘ってんの?」
「おいおい、2Pするか? 何円でヤれる?」
この人たち、私をそういう目で見てる。もしかして、私が誘ってる。いや、売春なんて言う物を持ちかけようとしていると、
思っているのだろうか。
そうだった、そういうリスクもあるんだった。
私はすぐに身を翻し、逃走した。
やだよ。
胸とかしか見ない人間なんて。
私は恐怖感を担いながら、急いで逃走していくのだった。




