第44話 ストーカー
SIDE 一葉
私は理子さんの後を追いかけていた。
証拠とか何かが見つかるかどうかは分からなかったけど、でも私は恭介君のために証拠を集めたいと、思っている。いや、集めなければならない。
そしてそれは、私の為でもある。
私は理子さんの事が許せそうにはない。
恭介君を苦しめたのだ。許せるほうがおかしい。
理子さんは歩いていく。このまま家に帰られてしまうと困ってしまう。
そうなれば、今日は手柄なしとなってしまうから。
周囲を見渡す。今のわたしはまるで探偵みたいだ。
この場でこんなことを思うのは間違いなのかもしれないけど、楽しい。
楽しいと思う事は、悪い事ではないと、私は思う。勿論そのせいで油断でもしてはだめなのだけど。
そして、理子さん裏路地に入っていく。
この先には確か、ホテル街があったはず。所謂夜の街だ。ここで、理子さんは何をするのだろうか。
そのままストーキングを続けていくと、理子さんはある人物と会った。見るからに長身で、180は越えていると思う。さらに顔も整っていて、イケメンという部類の人間に当たると思う。
そして、彼は理子さんの浮気相手だろう。理子さんはその彼とそのまま一緒にホテルに入っていく。
ホテル、そのことが奇妙に思えた。ホテルに入ってすることなんて決まっているだろう。
性交渉意外にあり得ない。
恭介君が、裏切られた理由の一つは、体を重ねてくれなかったから、と聞いている。
彼女は、これを恭介君にして欲しかったのか。
そう考えるとますます汚らしい。
別に体を重ねる事だけが、愛の形だと、少なくとも私は思う。
私は、一枚写真を撮った。
一応証拠画像になってくれるはずだ。
とはいえ、別にこれを流してもたいして力にはなってくれない。
理子さんのイメージは下げられるかもしれないけど、でも、それで恭介君の評価が上がるとは思えない。
とりあえず、理子さんの相手、それを探らないと。
「今日、ここに来れてあたし嬉しい」
そういう理子さん。彼女は、にっこりと笑う。
「その前にまずは、トイレで着替えないとだめだぞ、理子」
「分かってる。武くん」
武、聞き取りずらいが、確かに彼女はそう言った。
武、訊いたことがある気がする。
武、武、
だけど、思い出せない。上の名前も知らないと。
そして、理子さんはトイレに入っていく。
下の名前を覚えたらそれでいいだろうか。
★
SIDE恭介
「私は、昔からずっと、人とジャベルが苦手で、内気だったんです」
彼女のその言葉。ここまでは少なくとも嘘ではなさそうだ。
「私は、ずっと、小中って虐められてました。ずっと、激しいいじめを受けていて、学校を休もうとさえ、思ったこともありました。だけど、それを助けてくれたのが理子さんだったんです」
「気味と俺は同じ学校だったよな」
「はい。でも、別のクラスだったですよね」
「そうだったな」
俺と理子は同じクラスだったが、桐花ちゃんだけ、別のクラスだった。三人同じクラスになったのは高校に入ってからだ。
「たぶんそのときはまだ理子さんは恭介くんとは付き合ってなかった時だと思います。でも、その時に私は理子さんに助けられたんです」
「どんなふうに?」
「そうですね……いじめに対して、主犯に対して怒ってくれました。恥ずかしくないのって?」
見事なブーメランだ。
(桐花ちゃんの言葉が正しい前提だけど)それならどうして今こんないじめみたいなことをしているんだ。
「恭介くん、理子さんは良い人なのです。
……その後暫く一緒に家に帰ってくれて、……身を瀕していじめっ子から助けてくれたんです。そこから、理子さんは私の憧れに変わったんです。
だから、恭介くんと付き合ったと聞いて祝福しました。楽しそうな理子さんの姿を見て私も嬉しく感じました。その時に思ったんです。2人を祝福して、2人の絆を守っていこうと」
そこまではぎりぎり筋は通っている。
理子の言葉が見事なブーメランだったりとか、突っ込みたいことが多かったが、それでも、ここまでの話なら大きな矛盾はないように思う。
「私も恭介君たちと一緒に遊んでいく中で、恭介君に対する愛の心がありました。でも、我慢しました。理子さんの運命の相手を奪うわけにはいきませんから」
たぶんここからが本命の話だろう。
なんとなく空気が引き締まった、ような気がした。
「だから、びっくりしました。理子さんが裏切られたって聞いて。そんなわけないと、思いましたが、クラス中がそんな空気になっていて、正直ショックでした。
でも、それ以上に、雰囲気に負けて、恭介君が本当に裏切ったのかなって。しかもあんなかわいらしい彼女がいたら、浮気を本当にしてたのかなって、思ってしまって。自分が辛かったです。
そこから、不登校にはなりませんでしたが、私はただただショックで、恭介くんとは目を合わせられませんでした。だけど、赤松さんの件。それで少し違和感を感じました」
そして、自分の髪の毛をおずおずとさする。
「だから、スタバの件は驚きました。私から話しかけようと、明日こそ話しかけようと思ってたら話しかけられましたから」
なるほど。
そして、彼女は続けて話した。
「私は、恭介君を助けたかった。だけど、理子さんの顔に泥を塗るのも嫌だった。だから、あんな言葉になったんです」
目だけを見たら、嘘は言っていないと、思う。
だけど、どうして、
「俺からしたら、その言葉は嘘にしか聞こえねえよ」
俺は言った。
嘘にしか思えない。どうして、そんな事を言うんだ。
俺はお前を疑いたいわけじゃない。だけど、そんな顔をしてそんな言葉を言わないでくれ。
今のオレは、一葉を除いて、人間不信の状況にあると思う。
赤松にも裏切られ、もはやどうしていいか分からない。




