第42話 桐花
そして、その日の放課後、俺は桐花さんと一緒に居る。
一葉は背に腹は代えられないといった理由が分かった。
「じゃあ行こ」
「うん」
例の二人きりで会うという話だ。
あの時は俺が断った。
一応その後、桐花さんが、縁を取り持ちたいとは言っていた。
その言葉に俺は無視して見せた。
そして、そのあと俺と一葉の昼休みに乱入したことで解消された。
だからこそ、今度は俺の方から仕掛けていこうという話だ。
桐花さんを誘えばすぐに承諾の返事が来た。その時間おおよそ20秒後だ。
まるで俺がメールを送ってくるのを待っていたかのように、彼女は即レスをして見せたわけだ。
だけど、もちろんの事、桐花さんが理子の手先かもしれないから、警戒しなければならない。こちらから誘ったとはいえ、すぐに承諾を見せられては警戒しなければならない。
もう一つ気になる事もある。
一葉。
あれだけ桐花さんを警戒していたはずなのに、認める事に至ったのか。
その理由は分からない。信じるに足る証拠でも見つかったのだろうか。
それとも、彼女をただ、利用してやろうという考えなのだろうか。
そして、放課後俺は桐花さんの元に行った。一葉と一緒に帰路につかなかったのは、一葉が転校後、恐らく初めてだ。
だからこそ、緊張する。桐花さんの事をもっとよく知り、そして理子の情報を抜き取らなければ。
「どこに行く?」
桐花さんと合流した後、俺は問うた。
「この前はスタバだったけど、今日はスタバじゃなくてもいい?」
「だったらどこに」
「それは決まってるの」
彼女は笑みを浮かべながら言った。
まさかの場所だった。
そこは、所謂近くのゲームセンターだったのだ。
「なんで」
「一葉さんだけずるいから」
つまり、一葉の事をずるいと思っているのか。
「だから桐花さんも一緒に遊びたいと?」
「桐花ちゃんって呼んで」
そう、頬を膨らませた。
「分かった、桐花でいい?」
「桐花ちゃんでお願いします」
ここは、決して他の呼び方は許さないんだな。
桐花ちゃんよりも桐花の方が距離が近いような気がするが、彼女はそれでも桐花ちゃんの方が良いという事。
変わっているな、と思った。
「分かった。桐花ちゃん、遊ぼう」
正直、桐花ちゃんという呼び方は、年下の子どもにするみたいであまり好きじゃないんだけどな。
そして、早速太鼓ゲームの前に来た。
そして、一緒に太鼓をたたいていく。
その中で、桐花さん、いや桐花ちゃんの表情は楽し気だった。
その後は今度は、カートレース、そしてクレーンゲームと様々なものを楽しんでいった。
その中で桐花ちゃんに、怪しい動きだとか、怪しげな表情などは全くと言っていいほど見られなかった。
ここまで来たら、俺をだましているんじゃないか、なんて疑いは消し去ってしまってもいいんじゃないだろうか、と思う。
だけど、それを一葉に言ったら甘いなんて言われそうだな、と思う。ちなみに余談だが、この間ずっと録音をしっぱなしだ。
だけど、その録音は恐らく再確認することもなく、破棄されるだろう。
だけど、今俺の中には、破棄されてほしい気持ちと、破棄されてほしくない気持ちがせめぎ合っている。
だけど、俺は桐花ちゃんにまで裏切られたくない。
実感破棄されてほしい気持ちが上回っている。
そして、
「疲れました」
桐花ちゃんは息をハアハアたらしながら言った。
「お疲れ」
一時間以上一緒に遊んだのだから、疲れ切っていて当たり前だ。
「楽しかったか」
「はいっ!! とても!」
ならよかったな、と感じた。
そして、訊きたい事だ。
「桐花ちゃん、君は俺が浮気したと思ってる?」
否定はしていたはずだ。
「俺と一葉は本当にただの幼馴染で付き合ってなんかいないんだ。それに、理子から別れを告げられた時、俺は一葉とは、四年近く会っていなかった」
「そうですか」
彼女は頷いて見せた。
「もちろん、だから理解してくれだなんて、言うつもりはない。だけど、そう言う事だから理解はしてほしい」
「なるほど……」
桐花ちゃんには、詳細な話はしていなかったはずだ。
「俺は別に理子を地獄に落とそうとしている訳じゃない。ただ、俺の立場を回復させたいだけなんだ。だから、折り合いをつけたい。俺が理子を裏切った訳じゃない事をクラスに知らせたいだけなんだ」
それならば、理子を地獄に落とすわけじゃない。
互いの勘違いだったことにしてしまえば、全て万事解決に動いていくという、可能性さえあるのだ。
勿論俺の立場が回復することが前提ではあるのだが。俺としては復讐したい気持ちもある。だけど、俺の学校での安泰を確保することが一番大事なのだ。
「えっと、その……」
桐花ちゃんはおどおどとする。
「私、今日話さなきゃならないことが……」
指をモジモジさせる。
「なんだ?」
「私、嘘ついた」
桐花ちゃんは、小さな声で言った。
何の嘘ついたのだろうか。
「私、実は……」
そして、俺の手を取った。
「あの、お願いがあるのですけど」
「何ですか」
「私と付き合ってくれませんか?」
その言葉に俺は「は……?」と目を見開いたのだった。




