第41話 過去
その、翌日は無事に安眠することが出来、8時近くまで寝てしまった。
良かった。寝坊してしまったのは良くなかったが、昨日みたいに不眠症じみた事にならなくてよかった。
俺は欠伸をし、目をぱちくりとさせる。
正直、昨日寝不足だったせいで、まだ少し眠い。
八時まで寝たとはいえ、昨日の分の睡眠時間はまだ確保できていないようだ。
仕方ない。昨日の睡眠時間のつけを今支払っているようなものだから。
本音で言えばもう少し寝たい。
だけど、二度寝は健康に悪いと聞くし、何より、もう少し寝てしまえば、学校に遅刻してしまう。遅刻なんてことは正直なところ、したくない所だ。
いい加減に、起きなければならない。
俺は小さな伸びをした。
そして、服を身に着け、そしてリビングへと向かっていく。
「おはよ」
リビングには母さんだけがいて、鏡花はいないようだった。
最近部活をさぼっていた鏡花だったが、
今日はまじめに部活に行ったようだ。
部活と言えば……
そう言えば俺は部活に入ってねえな、とふと思った。
今生じている問題が片付けば、その時にはいよいよと行動を起こしてもいいのかな、なんて思った。
まあ、一葉は部活よりゲームがしたいと言いそうなのだがな。
「学校遅れそうだから、ご飯食べずに行くわ」
俺はそう言った。ご飯を食べていたら学校に遅刻するし、一葉を待たせることになる。
一葉には集合遅れると連絡はしたものの、もう既に待ち合わせ場所にはついているだろう。
今でさえ遅刻ギリギリなのだ。
ご飯なんて、食べていたら。
結果なんて簡単に見えて来る。
一葉を交えた完全な遅刻だ。俺が遅刻するのはまだいいが、一葉まで連帯で遅刻するのはごめんだ。
「そう? 行ってらっしゃい」
そう、母さんが言い、俺は家から出た。
そして、一葉と合流して学校に向かう。
「すまん、一葉」
一葉と合流して早々に、俺は一葉に頭を下げた。
「遅くなって」
そう、謝罪の言葉を口にした。
ほんとうにすまなかったと感じている。
一葉に迷惑をかけた。
「別にいいよ」
「でも、遅刻する可能性があるからな」
少し小走りにしなければならない。
「大丈夫だよ。それよりも」
一葉は頭を下げた。
「昨日はごめんね」
「何が」
「あの人に対して」
俺の父に対して、か。
「ああ、ショックだったらしいぞ」
「だから、ごめんなさい」
「いや、謝る必要はない」
一葉が嫌だったという気持ち。それに嘘はないと思う。
「だけど、少しずつ父さんに慣れて行こうな」
「うん」
一葉は小さな言葉で頷いた。
「まあでも、あの後全力で謝ったからな」
「それはありがとう」
一葉はお礼を言った。
「うん。苦手意識を頑張って克服していく」
「偉いぞ」
そして、無事に学校に着いた。ぎりぎりで学校に間に合った。今は32分。ホームルームが35分からという事を考えれば、本当にギリギリ間に合ったと言えるだろう。
ぜいぜいと息をたらす。
「久しぶり、こんなに走ったの」
「俺もだよ」
俺がそう言うと、一葉は笑った。
そして、今日も竹下さんの姿は無かった。
彼女も不登校になってしまったのだろうか。
そして、学校の雰囲気はいつも通りだった。
どうやら俺が知らない所で問題が生じた、なんてことはない様だ。
そして、昼休み。
「恭介君、理子さんとの出来事を訊いてもいい?」
その言葉に俺は軽くむせた。
「なんで?」
「だって、分からないもん。私は理子さんについてほとんど何も知らない。そもそも、理子さんと恭介君が付き合ってたことは元々知ってたけど、それだけだもん。ほとんどこの二週間の知識しかないよ」
「そうだったな」
一葉は理子の事をほとんど何も知らないし、俺と理子の付き合っていた二年間も知らない。
一葉からしたら、情報が圧倒的に足りないという状況だろう。
「一葉」
「ん、なに?」
「それはどれくらいまで話せばいいの?」
というのもだ。
詳細に一から話せなのか、それともダイジェストに言えばいいのか。
「とりあえずダイジェストで。私もあまり聞きたくはないし」
「だよな。俺も本音ではあまり話したくない」
勿論ここで話さなければならない事は知っている。
だけど、だからと言って、全文を子細に語れるほど、克服などという者は出来ていない様に思える。
「じゃあ、言うな。上手くしゃべれるかは分からないけど」
俺が言うと、一葉は頷いた。「大丈夫。変なこと言っても大丈夫」と笑ってみせた。
★
俺はある日一葉から突然告白されたんだ。その時の俺は、クラスに友達もいないボッチだった。最初、嘘告白を疑ったが、すぐにうなずいてしまった。何しろ、その時のあいつはクラスの中でもダントツと言ってもいいほどの美人で、言うのは悔しいがクラスのヒロイン的な役割を担っていたんだから。
そこから、初の帰り道。理子二人きりの帰路は俺の心臓を昂らせたよ。
なんか、夢みたいだった、なんて言うと、今となっては悔しいが、まさにそんな気持ちだった。
そして、それから毎日迎えに来てくれるようになった。
家で一緒に朝ごはんを食べる事もあったよ。だけど、その時鏡花はいつも不満げな表情だった。もしかしたらあれは、理子の本性を見抜いていたが故だったのかもしれないな。
そして、その間に、桐花さんとも話すこともたびたびだった。
彼女は別のクラスだったが、理子の友達だったらしい。彼女とは結構すぐに気が合った。
浮気にならない程度だったが、一緒に話すことが多くなった。
当時は理子という共通の友達がいたからこそ、話もよく合ってたよ。だからこそ、桐花さんに対しては弱くなってしまうんだ。
そして、初デートは映画だった。一緒に恋愛ものを見たよ。その時、理子は泣いていた。今思えばあの涙は不思議だ。何しろあいつにそんな情緒があるようには思えなかったから。
そこから先は二週間に一度ほどデートをするようになった。つまり月二回だ。
俺はそのデートを毎日楽しみに生きるようになった。
そして、高校に上がった時に俺はバイトを始めたんだ。遊び過ぎてお金が足りなくなってたから。バイトも楽しかったよ。理子は、一緒に帰れなくなったと嘆いていたからな。
そんで、去年の夏あたりから雲行きが怪しくなってきた。
何t何となく、理子との距離を感じて来たんだ。最初はたまたまだと思っていた。
だけど、今思えばそのタイミングで気づくべきだった。あいつが俺に愛想をつかしているだなんて、
思えば、そんな予兆はあった気がする。
だから、その時の俺は馬鹿だったんだな、と思うよ。
段々とあいつのなんていうか、態度がひどくなってきた。
また、デートの頻度が月一になって行ったんだ。
放課後も予定があるみたいで俺と遊ぶ時も少なくなっていた。もしかしたらあの時から既に浮気をしていたのかもしれねぇ。
そんなある日、俺はあの言葉を言われたんだ。
★
「ふぅん」一葉は軽く鼻を鳴らす。
「恭介くん、一つ聞いていい?」
「…………なに?」
「初デートって、私とも一緒に映画見に行ったじゃん」
「小学生の話だろ!!!」
たしかに俺と一葉は小学生の時も一緒に遊ぶことはあったけど。
「それとこれは違うじゃねえか」
それこそ、彼女じゃない。一葉はただの幼馴染だった。
今回デートという単語を使ったのは、彼女だったからだ。
「そんなこと言っちゃうんだ」
「言っちゃうんだって……」
確かあの映画館の時は一葉が「観たい映画があるの……」なんて言って、俺にパンフレットを見せてくれたんだっけ。
あの時、「一緒に行こ」そう小さな声で告げた一葉。
俺は頷き、頭脳は大人な探偵漫画の映画を見に行ったんだっけ。
あの時は鏡花は一緒じゃなかった。
それを言えばあれはデートと言えばデートなのか。
「理子との初デートに訂正しておく。俺はもうデートしてたみたいなもんだから」
「え? じゃあ私に気があったってこと? デートって好き同士で行うのだよね?」
「…………罠を仕掛けてくるのやめてくれ」
気があったとかは無いけど、その時映画に誘う一葉の姿が可愛いなと思ったのは事実。
だから困る。
「答えてよ」
「罠から俺を出さないつもりなのか?」
「決まってんじゃん」
一葉はまた歯を剥き出しにした笑顔を見せる。
くそっ、この小悪魔め。
「で、どうなの?」
「話の本筋からはそれてる気がするが……可愛いとは思ってたよ」
そういった俺の声は平常を保っていたのだろうか。
「このロリコン」
「小学生同士はロリコンにならねえだろ」
そして、そんな茶番(?)は幕を閉じ、本命の話に入っていった。
「まあ、冗談はともかく」
その言葉で俺は安心した。俺をいじるためだけに、話を聞いたわけじゃなかったと知って。
「話的に最後の半年は浮気をしてた可能性が高いね」
「かもな」
かもなじゃなくて、ほぼ確定だろう。
帰る頻度が少なくなったというのは、件の浮気相手と帰っていた、という事なのだから。悔しく思う。
なぜ、気づかなかったのか。
とはいえ、俺が毎度やらかしてるのは、もう当たり前の子音みたいになっている。それが実に複雑餡気持ちにさせて来るのだが。
「その証拠を掴めればいい」
「でも、向こうは私を浮気相手だと思ってるらしいから、半端な証拠じゃ話にならないと思う」
「だからこそきちんとした証拠を、ってことだろ」
一葉が頷いた。
「そこで、昨日言った通りストーカーします!!」
一葉は自信満々に言い放った。
「毎日熱心にストーカーしたらいつかぼろを出すはずだしね」
毎日やるつもりなのか。
「でも、恋人と一緒に居たからって、証拠にはならない」
何しろ『どしたん話聞こか』方式で出来た彼氏という可能性がぬぐえないのだ。
「そうだね」
一葉は小さな声で言った。それはぼそぼそとしていた。
そう、そこが非常に問題になってくるのだ。
「だから、ストーカーは私がやるから恭介君にはさらなる任務をお願いします」
「任務?」
「私も本当は頼みたくないんだけど、背に腹は代えられないし」
「それって」
彼女は頷いた。
「田淵さんから情報を抜き取って」
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