第35話 朝ファミレス
そして、母さんに一言謝ってから、外のファミレスへと言った。
まだ、朝八時。そのファミレスにもそこそこの人はいた。
「ねえ見てこれ、朝メニューだって」
「ほー、そんなのあるんだな」
思えば朝にファミレスに来たことなんて、ほとんどなかった。
昼に来た時はいつもハンバーグかパスタを頼むから知らなかった。
そのメニューはトーストと、サラダのメニューだった。
これで、300円という事だった。
「一葉はこれ頼むのか?」
「ううん、パスタ」
「ここは頼む流れだろ」
「いいじゃん」
そう言って一葉は笑った。
そこまで行ったら、頼む流じゃないのか?
ただ、あるってことを示したかっただけなのか。
「まあ俺も、パスタ頼むけど」
俺がそう言えば一葉は「じゃあ一緒じゃん」と言って笑った。
俺は、バジルパスタ、一葉は明太子のパスタを頼んだ。両方500円の安いパスタだ。
そして、頼んだ後、
「ねえ、あの後ライン来た?」
彼女――桐花さんからだろう。
「来てるよ。一応」
そして俺は見せる。
昨日の、『そうですか。でも、私思ったんです。今複雑な誤解が生じてるんだって。だから私は二人の間にある溝を取り払いたいだけなんです」
という返答だ。
それを見て、
「納得いかない」
そう、一葉が言う。
「だってさ。溝とかじゃなくて、完全に理子さんが悪いんだもん」
「お前の言いたいことも分かるよ」
なにせ、俺と理子は喧嘩している訳ではない。ただ、理子が謎に俺にかみついてくるだけだ。
記憶上俺が理子に恨まれることをした覚えなんてないというのに。
「だから俺はこれには返信していない」
というよりもどう返信を返せばいいのか分からないのだ。
「じゃあ、竹下さん対策を行おうよ」
「おう」
竹下恵梨香、それは理子とは真反対のグループに所属している女子だ。
そして、気が強い。
俺にとっては苦手な部類に入る。
それこそ、世界には自分と自分よりも下の他人しか生きていないという認識だと思うのだ。周りの女子に厳しく、さらに舎弟と呼ばれるものもいる。(女子だが)
言葉にすれば若干ヤンキーみたいな感じなのだ。
常に、目を光らせており、自身に反抗しようという物は、処罰せんとするその眼光。考えただけでかなりきついものがある。
「俺は個人的にさ」
俺は言葉を紡ぐ。
「うん」
「あまり関わりたくはない人間なんだよな。勿論今それが許されるとは思えないけど、こういう状況じゃなかったら絶対に関わりようのない相手だと思う」
「それは私も一緒。如何話しかけたらいいのか、分からないんだもん」
一葉はうんうんと頷いて見せた。一葉もそこに関しては同じ気持ちらしい。
「だからどう話を持っていくのか、考えなければならないんよな」
だけど、一つ分かるのはそれは難しいという事だ。
彼女に納得してもらう、という事は非常に困難な事だと考えている。それは、主義信条とかじゃなくて、
竹下さんは自分のやりたいことをやるだけだ。
つまり俺たちは彼女にメリットを提示しなければならないという訳だ。
「昨日はつい頷いたけど、難しいって」
ターゲットを変えたほうがいい。
今はそんなことを思う。
上手くいけばいいが、そうじゃなければ、
敵を増やすだけになってしまう。
「大丈夫。何とかなるよ」
「お気楽だな」
「うん。勿論」
言って一葉は笑う。
その瞬間だった。ファミレスの店内に、一人歩いている女が見えた。それを見て俺たちは唾をのんだ。
まさかの竹下恵梨香が歩いているじゃないか。
まさか朝ファミレスをしてる人がもう一人いるとは。
幸い向こうは俺たちの存在に気が付いていないようだった。
それにはほっとした。
ここで気づかれたら良くない展開に巻き込まれる恐れがあったのだから。
だけど、運の悪い事だ。彼女は俺たちの席の前のテーブルに座った。今俺の背中の後ろに竹下恵梨香がいる。
声を出すのはリスキーだ。そう思い、俺はスマホを取り出し、ラインで文章を書く。
『これ一体どういう状況なんだよ』
『私も知らないよ。しかも、落ち込んでる感じじゃん』
『落ち込んでる』
『そう。わたしにはそうとしか思えない』
その言葉を読み、鼻から軽く息を鳴らす。
落ち込んでいる。か、
一葉がそう感じたのなら、事実なのだろう。
『これ、もしかして慰めたりとかした方がいいのか』
一葉に訊くが、
『とりあえず話しかけないでおこうよ』
そう、一葉が書いた。俺は、静かに頷いた。
その瞬間、一葉から電話がかかってきた。一葉はスタンドのようなものにスマホを立てている。
なるほどと、俺はすぐに理解した。俺からだと、彼女の姿がほとんど見えないのだから、こうするのも当然だ。
そして、そこから二人で、ラインで話をし続けた。
その10分間、後ろの竹下さんに動きはなかった。
しかし、徐に彼女は立ち上がった。そして、そのまま真っ直ぐに歩いていく。これは……
『ドリンクバー取りに行ったね』
『そうなんだ』
しかし、このまま姿を隠したままではいられないだろう。どこかで一手打たなければ。
『ねえ、さっきはああいったけど』
『うん』
『やっぱり私動くわ』
一葉はそう送った後、すぐに動き始めた。
俺はそれを止めたりなどはしなかった。何しろ、俺自身もそれが正解だと思ったから。
そして、俺も立ち上がろうとしたが、「恭介君はここで待ってて」と、諭されてしまった。
恐らく一葉一人で動いた方が得だと考えたのだろう。




