第34話 目覚めのハグ?
「お兄ちゃん、何してるの!?!!?」
俺はその声で目をグッと閉じ、そして開けた。
目の前には鏡花の姿だ。
今俺は一葉に抱きかかえられるように、いや、抱きしめられていたという事に気が付いた。という事は、俺は一葉と密着しているという事も同義で、
いや、という事は……
「なんだこれ」
俺は呟く。
意識がまだ明瞭ではなく、よく意味が分からない状況だ。
訳が分からない状況なのだ。
一葉はベッドから落ちて俺に抱き着いているという事か。
いや、普通に考えてどういう状況だよ。ベッドから寝転がり落ちて、までは分かる。分かんねえけど。
なんで、その後俺に抱き着いてんだよ。まったく芋が分かんねえ。
そりゃ……鏡花が驚くに決まっている。
「なんで……一葉ちゃんが」
「来たんだよ。朝に」
「朝にって……どういう事? あたしにもわかるように教えて」
「かくかくしかじかで」
俺は説明を加えていく。
「なるほどね。そう言う事」
そう、鏡花が言う。
「でも、まさか添い寝するとは思わなかったわぁ」
手で口を抑え、うわあとでも言いたげな表情を見せる。
「うるせえな」
俺が言うと、すぐに彼女はあはは、なんて言って笑って見せた。
「それにしても……一葉ちゃんをどうするの?」
「どうするって、このまま寝かせるしかないだろ。……まさか起こすわけにもいかないし」
「でももう7時半だよ」
七時半。確かにそろそろ起きないと遅刻をしてしまいそうな。
これではいけない。
「確かにな」
そう、俺は鏡花の顔を見て、頷いた。
「おい、一葉」
俺は一葉の体を揺らす。だけど、「くまちゃん、……かわいい」離れようとしない。というか俺は今くまちゃんぬいぐるみのつもりで抱き着かれているのか?
「お兄ちゃん、一応言っておくけど、セクハラしたら駄目だよ?」
「分かってるわ」
流石にそんなことはしない。
そして、俺は一葉の肩を剥がそうとする。だけど案の定離れそうにはない。
……どうしようか。……本気で引きはがしてもいいが、それだと一葉に軽い暴力みたいなことを振るってしまう事になる。
強引にしては一葉にけがをさせてしまう。
「お兄ちゃん、もうイチャイチャは辞めて」
「したくてやってるわけじゃない!!」
俺は大きな声を出していった。
「あたしそろそろ行かなきゃだめだから、それまでに起こして」
「先に……行ってもいいんだぞ」
それに、鏡花はいつももっと早くに家を出るはずだ。
「大丈夫。今日は自主練だから」
だからいいという話なのか?
運動部はあまり知らねえが、だめなんじゃないか。
「そう思うなら、鏡花が起こしてくれてもいいじゃないか」
「あたし、お兄ちゃんが苦しんでるところを見るのが楽しいから」
「鬼かよ」
「悪魔です」
鏡花がそう言って悪戯に笑った、次の瞬間……一葉が目を開いた。
「あれ」
一葉は小さな声で呟く。
「恭……介くん?」
「ああ、俺だ」
「どうしてここにいるの?」
「なんで覚えてねえんだよ」
思わず突っ込んでしまった。
「ていうか、今の状況って」
一葉が俺の顔を真っ直ぐに見上げる。そして――「きゃー」と叫んだ。
「いやいや、お前、不審者が入ってきたかのような声を出すなよ」
「ごめん」
一葉は謝って見せた。
「お兄ちゃん最低」
「俺は今悪くねえよな?」
むしろ俺は今完全に被害者だと思うんだけど。
「一葉ちゃんを虐めるのは、あたし許せない」
「なんでだよ」
「じゃあ、あたし行くから、イチャイチャはこのくらいにしておいてね」
「いちゃついてない」
一葉は憤慨した様子で言った。
というか今、俺と一葉は密着している状態だが、
会話劇になっていたのは明らかに俺と鏡花だったのでは?
まあ、それはいいや。もう鏡花は出て行ってしまった。
そして、鏡花がいなくなって急に静かになった空間で、
「ごめんね」
そう、一言謝って見せた。
「まさか寝てしまうなんて思ってなかったし、こんな感じになるなんて思ってなかった」
「いや、謝る事はねえよ。俺が起こしちゃったんだし、結果的に俺も安眠できたから、いいってことよ」
「そ、ありがとう」
一葉はそうお礼を言い、
「ねえ、恭介君、照れてる?」
そう問われた。
「照れてねえ。と言ったら嘘になるな。あんなに密着してたら」
「ふうん」
少しご機嫌な表情を見せ、
「ねえ、今日だけどさ」
「なに?」
「朝ごはん外で食べない?」
その提案、それは家で食べずに、近くのファミレスで食べるという物だった。
「いいよ」
俺は即答した。むしろだめな理由が一向に思いつかなかった。




