第33話 相合イヤホン
翌日五時半に目が覚めた。最近睡眠が浅い。まだ寝たかったが、目がすっかりと覚めてしまって、再び眠る事は出来なかった。
それに、二度寝は健康に悪いとも聞く。ともすれば、もう一度寝るだなんて選択肢は存在しなかった。
はあ、と息を吐く。
—―このまま不眠症になるのかな。
早く心配事を解消できたらいいのに、なんて思う。だけど、そんな事中々無理なのだ。
今日は一葉はいない。いつもの所で待っててくれている。
伸びをする。そして、IPADを持ち、アニメを流す。
二期までしか見てなかったから、第三期まで見なければならない。
勿論義務ではないが、この機会だ。見る事が楽しみなのだ。
まだ早朝だから音量は出せない。ワイヤレスイヤホンを取り出して、耳に着ける。そして、デザリングしたら後は完璧だ。
イヤホンを通じてOP曲が流れている。一葉と一緒にアニメを見るのもいいのかな、なんて思ったりする
。
そして、アニメを見る。時系列で言えば映画はこの第三期の前に入ってくる。第三期の最初、知らないキャラが魔王軍に入ってきた。このキャラがこの章のキーポイントキャラなのかなと、思った。
俺はスマホをいじる。
そして、一葉とのトーク画面を見る。
意味もないのに見るか。話すときは大体電話だから、トーク画面にはほとんど会話がないなと思った。
「あ」
間違えて、通話画面を押してしまった。これで、一葉を起こしてはいけない、と思い咄嗟に通話を斬る。しかし――――それは時すでに遅しだったみたいだ。
『どうしたの?』
なんで、二コールで電話に気づくんだ。
明らかに早すぎるだろ。
こうなれば先程の失敗が悔やまれる。
なんで、誤って電話をかけてしまったのだろうか。
『間違って送ってしまっただけだから気にしないで』
『……眠れないの?』
『うん』
僕は返した。
『眠れないから、アニメ見てるところ』
『そうなんだ』
『そっち行ってもいい?』
『は?』
『私もあまり眠れないの。お願い』
いや、どういう事だよ。
え、一葉が今からこっちに来るのか?
訳が分からなさすぎる。
『どういう事だよ』
それからは既読は一向につかなかった。
そして、既読がついた瞬間。
『ドア、明けて』
とラインで言われた。部屋の窓を開けると、和葉の姿が見えた。俺は小さなため息を一つ。
「今行きますよ」
そう、小声で呟き、動いていく。ドアの前。そこに一葉がいるはずだ。
「お邪魔します」
小声で一葉が言った。俺の両親を起こさないための配慮だろう。
そして、俺は口に出したい言葉を抑えつつ、一葉を上の階へと連れて行った。
「それにしても、来なくても良かったんだぞ」
「ううん、来たかったから来たの。私も眼が冴えちゃってあまり眠れなくて」
俺は一葉の表情を見る。完全に嘘だと、その顔が言っている。眠そうだ。
嘘をつくならもっとましな嘘をつけ、と言いたくもなってしまう。
「まあ、いいよ。一緒にゲームでもするか?」
「アニメ見てるんでしょ。私もそれ見たい」
「もう見たんだろ?」
「転王は何度見たっていいよ」
そう、略称名を言い、そして、俺の耳と自身の耳にイヤホンをつけた。近くに置いていたワイヤレスイヤホンじゃなくてだ。
ナニコレ
ナンダコレ
流石に、相合傘ならぬ相合イヤホンはドキドキする。
ワイヤレスイヤホンもあるぞ、と言ってしまえば楽だっただろうか。
だけど、今俺はそれを言いたくはなかった。
俺の欲が勝ったのだ。
俺の左耳と、一葉の右耳につけられたイヤホン。そして、耳にイヤホンをきちんとはめるために、くっつかれている肩。
ああ、だめだ。刺激が強すぎる。耐えきれそうにもない。
映画館の時と一緒だ。
一葉の横顔が気になりすぎて、アニメに上手く集中を向けることが出来ない。
だけどこれではいけない。アニメを見ると決めたならアニメを見なければ。
俺は真っ直ぐIPADに目を向け、集中させる。
「ねえ、恭介君」
その途中で一葉がこちらを向く。何か話したい事でもあるのだろうか。
だけど、その一瞬がいけなかった。
一葉はイヤホンのせいで俺と一葉の間の距離が近づいている、という事に気が付いていなかったんだろう。
一葉の頬が俺の頬にこすり合わせられ、そしてイヤホンは耳から外れていく。
なんだ、なんなんだこの破壊力は。
ああ、緊張しすぎて、上手く表情を作れない。
上手く表情が作れないこれは一体どうしたらいいんだ。
そして一葉は何もなかったようにイヤホンを自身の右耳に着ける。
だけど、その一葉の横顔は照れているように感じた。
「気をつけろよ」
俺は言った。その声は震えていたかもしれない。
「ごめん」
一葉は素直に可愛らしく謝った。
「で、なんだったんだ?」
「大したことじゃないよ。でも、新キャラ可愛くない? って話」
「確かにな」
三期から登場した、ルーミナ。彼女は主人公たち魔王軍に捕らえられた人間だ。理由としては、そのあまりある魔力によるものだ。
部下たちはすぐに殺すことを求めた。人間と敵対しているのだから当然だろう。しかし、それに唯一異を唱えたのは主人公だった。というのも、主人公はあくまでも人に対する切り札として使えるかもしれないと思ったのだった。
そんな彼女に魔王自ら会いに行くのだが、その際にルーミナは「私を襲うの?」と訊いた。
それに魔王は否定するが、「わたしの価値なんて、娼婦としてしかないもんね」というのだった。
自己肯定感が劇低い女の子なんて、可愛くないわけがない。多少自信を卑下しすぎて、鼻につく部分はあるけれど、全然それは許容範囲だ。
「人気らしいよな」
「うん。人気だよ」
「映画にも一瞬出てきてたしな」
映画にも最後ちょろっと出て来た。
食客として、魔王城にいるのが見えたのだ。
新キャラは出ないと、一葉が言ってたのに、驚いた。俺の知らないキャラが出て来たからだ。だけど、その一瞬の出番ながら、活躍シーンがあったのだ。その時は、どんな役割のキャラなのかは分からなかったが、今理解できてうれしい所だ。
「三期まで見たほうが映画楽しめたかもしれないな」
「っごめん」
「別に攻めてねえよ。映画面白かったしな」
「それは良かった」
言って一葉は笑ったのだった。
そして一葉はすぐに眠そうにした。当たり前だ。まだ、六時なのだから。
「一葉、寝たらどうだ?」
「ううん、眠たくない」
「嘘付け」
流石にこの表情を出して眠たくないなんてわけがない。
「寝ろ」
「眠たく――」
「命令だ、寝ろ!!」
強い言葉を吐いた。
俺の家に来てしまったがゆえに、一葉の体調が悪化するのはあまり好ましくないと思っている。
俺が目を覚まさせ、ここにこさせてしまったのだ。
「心配なんだ。それに最初は眠たくなかったのに、眠くなるのは当たり前だろ」
「うん、そうだね」弱々しい声で一葉は言った。「ベッド貰っていい?」
「全然かまわないよ」
俺が言うと、一葉はすぐにベッドに寝転がった。
そして、一葉の穏やかな寝息を聞いたのはその後すぐだった。
一葉は気持ちよさそうに寝始めた。その表情は可愛らしかった。
そして、そんな寝顔を見てしまったら、俺も少し眠たくなった。
俺は一葉の髪の毛を優しくさする。そして、床に俺は寝転がり、目を閉じた。




