第31話 田淵桐花
そして次の矢を打たなければならない。
早速田淵桐花さんの方を見る。
理子と色々と話しているようだ。
俺は彼女とも親交があった。理子の彼氏として、話す機会がそこそこあったのだ。
どちらかと言えばおとなしい性格で、いつも理子に振り回されるという側面があった。だけど、いやそうな顔はしていなかったし、今もしていないから、理子の事を嫌いではないのだろう。
恋愛感情抜きで、友達として桐花さんの事は好きだった。
話が合って、会話をすることも多々あったのだ。
そんな彼女も今では俺が裏切ったと思っているのだろうか。
「いつ、アタックする?」
「昼休みと言いたいけど、いつも二人で昼ご飯食べてるよね。そんな中で田淵さんに話しかけても勝算は低いと思う」
「それは確かにな」
理子の目があるのに、ついてくるわけがない。
むしろついてきたら、それこそスパイだと思わなければならないだろう。
「私は、理子さんの目を盗んでいくには、放課後しかないと思ってる」
「なるほどな」
確かに、放課後は一緒には帰っていない。その理由としてあるのは、家の方向だ。
家の方向が違えば、帰る距離も倍近くになる。
だからこそ、一緒に帰る必要性がないのだ。
それが、今俺と一葉くらい仲がいいのなら別だけど、そこまでではないだろう。
早速行動を開始するべく、放課後に俺たちは動き始めた。
『恭介君、首尾はどう?』
一葉からラインが届く。
俺と一葉は二人別の方向から、二人を見てる。
『ああ、そちらから見えているかは分からないけど、理子とバイバイしたようだ』
『OK』
一葉は俺に見えるように、グッドサインを出した。
後は、桐花さんの後ろからついていき、話しかけるだけだ。勿論話に乗ってくれるかどうかは分からない。
むしろ乗ってくれない可能性まである。というのも、あくまでも彼女は理子の味方である確率が高いかもしれないという事だ。
つまり、話かけるという事は、リスクもある。しかし、ここは挑戦しなければ、未来は切り開けない。何かを変えるためにはその為に必要な犠牲だってあるという事だ。
その犠牲は、リスクを取るという事だ。
一葉が、歩き出し、
「少しいいかな?」
と、話しかけた。後ろから見た一葉の方は若干震えているように見えた。当たり前だ。一葉も元々は人見知り。
しかも、今もそれは(あくまでも一葉の言葉を聞いてだが)思うように克服できていないという話だ。そんな中一葉は平気、だなんて幻想を抱くわけにはいかない。
「なんですか?」
怯えた表情を見せる桐花さん。
その目線には俺の姿だ。
俺のことを危険人物でも思ってるのだろうか。もしくはその逆か。
「少し話ししてもいい? 奢るから」
そして、俺たちは近くのスタバに行った。
オドオドしてたわりには、がっつくタイプらしく、700円以上もするキャラメルフラペチーノの一番大きいサイズを頼んでいた。
お金は一葉が払ってくれたが、後で俺から一葉にお金を払っておこう。
そして地味に今回が俺にとって初めてのスタバということになる。
女子が多いと感じる。
もしくはカップルの男女ペアが多い。
まさかこんな形になるなんてな、なんて思った。
そして、桐花さんはストローで飲み始まる。俺は何を頼んだらいいのか分からない。
俺は、ラテの小さなサイズを頼んだ。
そして、俺は彼女に向き直る。
「今日来てもらって本当に感謝してる。俺たちの誘いを断ったもよかったのにわざわざ来てくれてありがとう。そして、時間を取らせて済まなかった。だけどこれだけは聞いてほしい」
そう、言った。
「な、なんでしょう」
「俺は理子を裏切ってはないんだ。信じて欲しい」
単刀直入に俺は言った。
「えっと、それは……どういう意味でしょう」
おずおずと彼女は尋ねた。あまり意味が分かっていないという事だろうか。
「正直俺は、この状況に困惑しているんだ。俺は理子に振られたんだ。彼氏が出来た、貴方には満足できない、私の貴重な二年間を奪ったなんて言われてな。意味が分かんなかったよ。しかもその後、俺が振ったなんて言うデマが、クラス中に流れて来たんだ。
そして今度は騙されて、悪質な動画が拡散されている。酷いと思わないか?」
「それが、理子さんのせいだと?」
あまり心を得ていない答え方だ。
「わたしは理子ちゃんからしか話を聞いてませんでしたか」
「っ私から言うとね、盗撮なんて犯罪行為じゃん。それをする必要があったのかなって思うの」
「それは確かに思いました。そこまでする必要があるのかなって………」
それは思っているらしい。実際、盗撮なんて、卑劣な行為だ。それをするという事は、仕返しという行為にしてはやり過ぎだ。
犯罪行為をする必要はなかったと思う。
そこが、彼女らの弱点になり得るだろうと、今日の朝に話した。
そう、過激すぎて、本当に彼女が被害者なのだろうかと、思われるという事なのだ。
「俺たちを信じて欲しいんだ。勿論無理な話だとは分かっている。だけど、お願いなんだ」
「無条件で信じろというのは酷いです」
やはり、並大抵の説得ではいけないのか。
「だけど」そう、彼女が続ける。「恭介君達の言ってることも、頷けます」
頷ける。という事は、信じてくれる可能性も十分にあるという事だ。
「どうして信じてくれるんだ」
「や、信じるとは言ってません。だけど、理子ちゃんが言ってたんです。彼氏と今幸せだって。……なんで、もう彼氏が出来てるんだろうって、思ったことはあります」
「彼氏か」
そんなことは言っていたっけ。もっといい彼が見つかった。確かにそう言っていたはずだ。
「だから、そんな彼氏がいるという発言、そこから理子が怪しいと思ってるという事なんだな」
その言葉に彼女は頷いた。
「わたしは理子ちゃんの事が嫌いじゃない。ううん、好きだけど」
「好きだけど、そこは気になると」
「ごめん、失言だった。私は理子ちゃんが糾弾されてほしい訳じゃないから」
「そりゃそうだろ。君がそれを求めてるわけじゃない。それは知ってるから」
だけど、残念ながら、俺たちの目的はあくまでも理子を地獄に落とす事、それになってしまう。何しろ、俺の冤罪を晴らすという事は、理子を糾弾する事。つまり、理子の教室での権力を失墜させることだ。
「だからこれ以上は話せない。ねえ、恭介君」
「なんだ?」
「前は二人で話してたよね。それに関しては、嘘じゃないと思ってるのから。無条件で信じる事はしないけど、でも理子ちゃんが言うほど、実態はそこまでひどくはないと思ってるから」
「そうか」
そして、俺は頷いて見せた。
「私は恭介君の事件に関しては、どこまで信じたらいいのか分からない。恭介君の今の言葉も、理子ちゃんのあの涙も同じくらい信じるに足るものなんだもん。だから、今は少し分からないかな」
「分からない、か」
でも、彼女の立場からすればそりゃそうなるという話だ。
理子とは友達だし、俺に対しても醜い感情を持っている訳じゃない。
だけど、俺を信じるという事は理子を裏切る事だ。
俺が桐花さんの立場ならば、俺の事は信用しない方がいいだろう。
そして、彼女が店を出る際、「美味しかった。ありがとう」と言って店を出ようとする。
「今すぐに答えを出さなくてもいい。だけど、俺の事を信じて欲しい」
「うん。答えはいつか出すよ」
そして、店から出て行った。




