第30話 面談
「それでどうしたのですか?」
先生が訊く。
その目が真剣だった。その視線に鋭さに、正直逃げ出したくなる。
この陽とは敵に回らないだろう、と思っているのに。
何となく、上手い事口から言葉が出ない。「あの」「えっと」「その」明らかに言葉が変な、それこそ明らかな緊張によるものという事を教えてくれる。
こんなことを言っていたら、印象が悪い。面接ならもうこの時点で不合格確定だ。
……あれ、なんて言えばいいのだろうか。今になって分からなくなってくる。
すると—―
「先生、私が言います」そう、助け船が飛んできた。
「わたしたちは嫌がらせを受けています。いじめというには少し矮小です。でも、確かに嫌がらせを受けています」
そう言い放った。一葉はまだ盗撮の事は言わないつもりらしい。だけど、それは正解だと思う。
言って、大変なことになる可能性があるからだ。
事態が余計にややこしくなる可能性をはらんでいるし、何より言うメリットよりも大変なことになるかもしれないデメリットの方が大きいかもしれないのだ。
「理由は逆恨みです」
そして、そう一葉ははっきりと告げた。俺はつばを飲み込んだ。
「被害妄想だと思います。実際はそんな実例はないというのに、恭介君が浮気をし、柳さんを裏切ったとして、恭介君に関するデマを流しました。その結果恭介君はクラスの中で腫物扱いされています。」
「にわかには信じがたい話だね」先生は言ったこんなもの信じろという方がおかしいだろう。
この反応が普通だ。
「今の所残念ながら、いじめられているなんて言う証拠はありません。でも、柳さんが流した噂のせいで、恭介君は不登校になりました。私は許せません」
「なら、わたしの方でも柳さんたちに聞き込みを入れてもいい?」
「駄目です」一葉ははっきりと言い切った。「それだと、学校側が動いているとばれてしまいます」
「でも、それではあなた達が嘘をついている可能性も否定しきれない状況ですよ」
そうだ。今俺たちには証拠なんて言う物がどこにも存在しない。
「だから、私はひとつ提案をしたいです」
一葉が机をたたいて言った。
これは、刑事ドラマか何かに憧れを抱いているのかな、なんて今のシリアスな展開に見合わぬ思考が脳裏に浮かび、すぐに静かに首を振った。
「先生が教室に来る機会を増やしてくれませんか? そうすれば、その現場を見る事が出来るかもしれませんから」
「いえ」先生は首を振る。「噂に関しては私も知ってます。彼女を裏切ったクズ男なんて言う事になってるらしいことも。だからさ、私は今逆恨みっていう話を聞いて驚いた」
そうか、先生もその噂が流れていたことは知ってはいたのか。
「その噂がデマって言いたいんだね」
一葉は頷いた。
「信じてもらえるかは分かりませんが、でも彼女のせいで今恭介君は苦しんでいます。私たちの方で証拠を掴んでくるので、その時にはお願いします」
一葉は頭を下げた。それに合わせて俺も頭を下げる。
「そうだね。あなた達が言っていることは嘘じゃないと思う。だから私は先生として、真実を追求して見せる。私の方でも、柳さんにばれないように証拠を探してみるわ」
先生は言った。
その言葉に、
「ありがとうございます!」
俺たち二人は頭を下げた。
「これで、何とかはなりそうなのかな」
「ううん。まだまだ解決には至らないと思う」
「だよな」
まだまだ考えなくてはならない問題が多すぎる。
一応、先生は信じてはいてくれているみたいだが、
結局は噂を否定する証拠を得られないと、いつになってもこの問題は解決には至らないのだ。




