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失恋し、裏切られた俺の家に、転校してきた幼馴染が毎日ゲームをしにやって来るようになった  作者: 有原優


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第三話 幼馴染とのゲーム



 ……一体どうしてここに?

 意味がよく分からない。どうしてここに一葉がいるんだ。しかも汗を流して。


 

 一葉の服を見る。

 ……制服だ。という事は、登校中だという事か。 


 という事は俺はこの路上でどれだけ寝ていたのだろうか。

 いや、そんな事は今は関係がない。


 今……考えなければならない事は……

 目の前の問題にどう対処をするかという事だ。


 一瞬考え、そして――


「俺は大丈夫だから」


 と言った。

 ……心配させたくない、という気持ちがある。


 だけど、それ以上に恥を晒したくないという気持ちが大きかった。

 久しぶりに会った幼馴染にみっともない自分を見せたくなかった。


「大丈夫なわけないじゃん」

「大丈夫だって」

「……泣いてたよ」

「え……?」


 俺は自身の瞼を拭う。

 確かにそこには水滴が付着していた。

 ……俺はいつの間に泣いてしまっていたんだ。

 だけど、


「でも……大丈夫だから」



 恥は晒せない。


「っちょっと来て」


 手を引っ張られた。


「学校はいいんですか?」

「いいに決まってるじゃん。ただ、今まで無遅刻無欠席だったけど」

「駄目じゃん」


 俺は思わず叫んでしまった。

 皆勤賞取れなくなるじゃん。



 だけど、その俺の声に一葉が多少びくっとなった。


 まずい、やらかした。

 鏡花に続いて一葉も怯えさせる。


 ……ダメ人間だ俺は。



「いいのいいの。朝ごはん食べてないし」


 そして、俺の手を一葉は強引に引っ張った。

 力なら、俺の方が強いはずだ。

 だけど、俺は何となく、その手の力に逆らう事が出来なかった。



 そして、着いた先はファミリーレストランだった。

 朝ごはんを食てないからだろう



 「ここは私が払うからさ、一緒に食べよ!!」


 そう言って一葉は笑った。

 メニュー表を開く。それに従い、俺のお腹の音もなった。俺は恥ずかしさからお腹を擦る。


 そう言えば……ご飯は昨日の昼からまともに食べていない。一応カラオケでポテトを少し食べただけだ。




 俺はメニュー表に目を通していく。



 ★



 浦部一葉。


 俺の幼馴染で、小学時代ずっと一緒に居た女の子だ。


 中学は一葉とは別々の学校に行ったから、そこからは疎遠になった。

 顔を見上げる。かなりの美人になっている。

 恐らく学校のヒロインにでもなっているだろう。


 モテるんだろうなぁ。凄い変化だ。

 小学生の時は、地味目な女の子だったのに、偉く垢抜けた。

 眼鏡をコンタクトにし、髪の毛も染めている。指を見ればネイルをしている。


 制服は、どこの物かは知らない。だけど、一葉の頭の良さだからきっと、いい所に進学しているのだろう。

 それこそ、進学校に。


 俺はメニュー表に一通り目を通した。

 そして、


「俺のために時間を使わなくてもいいよ」


 俺はそう言った。

 ファミレスに来てなんだけど、


「俺はもう、お前の知っている俺じゃねえんだ。ご飯を食べ終わったらもう……俺に関わらないでくれ」

「なんで」

「なんでって、お前にとって……損……だからだよ」


 明らかに損だ。


 今も俺のせいで遅刻している。

 今も、一葉の学ぶ権利を侵害している。



 しかも俺に関わったことで、心的ストレスも与えてしまっているだろう。俺の機嫌が悪いから言葉を上手く選び取れない。荒々しい口調になっている。


 ……なにもいい事なんてない。俺はもう人と関わらない方がいいのだ。



「……一葉は……一葉の人生を歩んでくれ」


「なにそれ」一葉は鼻を鳴らした。「恭介君がそうして欲しいだけじゃん」


「ああそうだよ。俺なんかに関わらないでくれ」

「その俺なんかを心配してるの。……だって、今の恭介くん……放っておいたら大変なことになるもん」

「大変なことにならせてよ。……俺はもうダメ人間なんだよ」


 ストレスでこうやって周りの目も気にせず泣きわめくのが俺だ。大きな子供なのが俺なんだ。

 小学生のように、癇癪を起こすのが俺なんだ。


「面倒くさ」一葉らしくもない暴言が聴こえる。「本当に面倒くさい」


 呆れているらしい。


「私は、四年以上あってないけど、恭介君の事は大事に思ってるよ。だから私のために、そんな自分を責めないでよ」

「っ」責めないで。責めないでか。


「そもそも俺が何の目に逢ったか知ってるの」

「知らないけど、大体想像つくよ。人間関係かなって」

「はは、お見通しだよ」


 俺が言うと、「恭介君マスターだから、私」と笑った。


「詳しい事は聞かないけど、ご飯食べた後、家に来てもいい?」

「学校は?」

「サボるよ」

「……」


 サボらないで欲しい、そう言うべきだと思う。だけど、俺の口からはそんな言葉は出てこなかった。俺は卑怯だ。

 結局一葉を巻き込むことを許容しているのだから。


 それに今一葉が学校に行って、一葉が帰りに家を訪れるまで、俺のメンタルが持つともしれない。

 そして何より、


 母さんに無断で外で夜を明かした。そうなると、きっと帰った時流石に怒られる。

 そこに一葉という後ろ盾があるだけでだいぶ話が変わってくるのだ。


 一葉を巻き込みたくないと言いつつも、結局は心の底で一葉に助けを求めているのだ。


「……じゃあ、食べ終わったら恭介君の家ね」


 その言葉に俺は頷いた。


 それにしても、面倒くさとは言っていたけど、あまり怒っていないように思える。

 お人好し過ぎる。


 もしかして、相手が(幼馴染)だからだろうか。


 いや、それは恐らくただの自惚れという物だろう。



 ご飯はオムライスを頼んだ。

 卵がふわふわで美味しかった。

 お腹が空いていたこともあり、夢中で食べていたらあっという間になくなってしまっていた。







 そして、俺たちは家へと向かった。


 家の前で俺は緊張を覚えた。だけど、当然だと思う。何しろ、俺は今日、母さんにきっと怒られるから。


「ビビらないで」一葉は俺の肩をポンと叩く。「勇気だそ」


 その言葉に俺は頷いた。

 そしてドアを開けた。


「おかえり!!!!!!」


 母さんが抱き着いてきた。

 それこそ、避けられないほどの速さで。

 てか、高校生の息子にハグをする親って……



 でも、その顔を見ると、本気で俺を心配していたんだな、と思い、多少申し訳ない気持ちになる。


「ありがとうね、一葉ちゃん」

「どういたしまして」


 一葉は頭を下げた。


 もしかして一葉は母さんの指示であそこに来ていたのか。

 今も親交があったのかは知らないが、それこそ俺の事を探して、だとか。


 っくそ、やられたな。


「……心配したのよ」

「っ、そうか」


 思えば、俺を見つけてくれた時、軽く息を切らしていたように見えた。

 それもきっとそう言う事だったんだな、と今感じた。


「じゃあ、上行こ」

「うん」


 そして俺たちは上に行った。

 しかし、相変わらず感じるのは一葉の顔だ。

 ここ数年、別の学校に行ったこともありあっていなかった。しかし、その月日でなんと美人になったのだろうか。

 その姿を見ると、


 俺は、ドキッとしてしまう。先程よりも一葉の顔が色っぽく見える。



 俺の知っている一葉は常に俺の後ろを自信なさげについてくるといった感じだった。

 だけど今は自主性がある。自分から行動を起こし、弱気な俺を導いている。


 今の一葉はなんというか……活発な女の子……といったような感じだ。



 そして、一葉は早速俺の許可も待たずに俺のカセットコーナーを探っていく。

 昔のままだから、探しやすいのだろう。だけど、その瞬間制服のスカートが、ひらりと床に着く。それを見て、少しドキッとする。

 そして早速、一葉は俺のゲーム機とカートレースのゲームカセットを見つけ出した。



「じゃあ、早速やろ」


 そうにっこりと笑う。

 そしてゲームが開始されていった。


 言っても俺はここ三日ほどゲームをやり込んだ。だからこそ、負けるわけがない。

 

 

 俺は速度重視でキャラを選ぶ中、一葉は加速の高い小回りの利くキャラを選んだ。


 一葉は変わらないなと思った。昔一葉と一緒にこのゲームをやったことがある。その時一葉はまた、小回りが利くキャラを使っていた。

 あの時が懐かしい。俺は連戦連勝してたっけ。


 でもそれとともにいやな記憶も同時に思い起こされる。

 理子と共にこのゲームをした記憶だ。

 正直あの記憶はいつまでも封印しておきたかった。


『次はあたしが勝つ』そう意気込んで、俺に食らいついていた。

 あのゲームデートは楽しかった。

 だけど今思ったら、それが不満だったのかもしれない。

 俺に気を使っていたのかもしれない。


 ……やめよう。今こんな記憶を思い返せば俺は完全に鬱になる。

 その行為は自分で自分を苦しめるだけだ。


 そうだ。今俺は一葉と共にカートレースをする。


 一葉に負けないぞ。絶対に負けないぞ。俺はその気持ちを込め、拳を強く握った。


 そう、心で思えば、こんな楽しい事なんてないだろう。

 

 そして、ゲームが開始された。


 俺はこのゲームをここ最近毎日やっていた。

 だからきっと勝てるはずだ。

 そう思いながらマシンを動かしていく。



 ――




 ――




 ――



「負けた」


 一プレイ四レースでという形なのだが、

 俺はその四レースで一度も一葉のカートに勝つことが出来なかった。

 所謂完敗だ。


 正直悔しい。


 隣の一葉は「やったー!!」と、分かりやすく悦んでいた。


「驚いたよ」俺は言った。「……そこまで強くなってたなんてな」

「えへへ、偶然だよ」

「偶然?」

「うん。このゲーム運要素あるから」


 このゲームではアイテム要素という物がある。

 順位によって出るアイテムは変わるのだが、その中には相手を攻撃する攻撃アイテムや、加速アイテム、無敵アイテム、設置罠アイテムなどがある。


 それの引き運によって、順位は変わるのだ。

 だが、


「謙遜なんていらないよ。俺は一度も勝てなかったから」

「そうね」ふふっと笑い。「じゃあ、喜んじゃう!!」


 そして、バンザーイのポーズをした。

 

 こうも喜ばれると、少し腹が立ってしまう。

 前は俺の方が上手かったはずだ。それに俺はここ最近このゲームをやり込んでいた。なのになぜ負けるのだろうか。


「もう一回やるぞ」


 気が付けば俺はそう呟いていた。


「うん」

「次は負けないから」

「次も負けないよ」


 一葉は今わざと、次もという言葉にアクセントを入れた。

 その行為もまた、

 腹が立つ者で。


「絶対に負けん」


 俺はそう言ってゲームを開始した。


 ――――


 ――――



 ――――




 今度は先ほどよりも食らいつけた。


 一勝三敗だった。

 だけど、負けた試合も先程よりは僅差で、今度は少しだけ、意地を見せられたのかな、と思った。


「はあはあ、もう一回」

「まだするの」

「当然だろ」


 負けっぱなしじゃいられないのは当然の事だ。

 しかも、一葉には絶対に負けたくない。



 ――――――


 ――――――



 ――――――




「流石に諦めたら」

「そうだな」


 とはいえ、勝率は確実に上がっているはずだ。

 だけど流石に体力が尽きてきた。

 集中力をかけていては、当然ながらミスが多くなる。

 現に先程マグマにダイブしたのは自分でも笑ってしまった。



 一葉もミスが目立つようになってきた。

 そう言えば苛々してゲームを繰り返していた時も、最後の方はミスを連発して、上げたレートが全て溶けそうになっていたな。だからこそ、俺は辞めたのだ。


 そして、ゲームの熱が一旦覚めると、一葉と肩が引っ付いていたことに気が付いた。

 ゲームに夢中だから気が付かなかったが、一葉の柔らかい肩がずっと俺にくっついていた。


 それに気づき、俺はそっと一葉から顔を背けた。軽く顔が赤くなっている気がした。

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