第二話 幼馴染との再会
俺はその日の夜。街に出た。深夜の街に出る事は今までほとんどなかった。
それも、夜中1時の街なんて。
生まれて初めてだと、確実に言える。
……家にいるのは何となく嫌だった。
何しろ、俺は今不安なのだ。
今のままでいいのか。今の自分には価値があるのか。学校を辞めなくてはいけないのだろうか。
そのまま中卒で生きていくのか。
……そんなことを考えたらこの世から消えたくなってしまう。
夜の街は多少、不気味な感じがした。
危険な香りがする。
だけど、これでいい、と感じた。
何をするかなんてあまり決め手はいなかった。
だから俺は、近くのコンビニで、チキンとポテチを食べ、道端で食べる。
だけどすぐに眠たくなった。眠気を感じ、一瞬目をつぶると、一瞬寝てしまった。
夜の街で寝ること自体危険な行為だ。治安はそこまで悪くないとはいえ、財布をすられる可能性がある。幸い今の寝落ちでは取られなかったが、次寝ることはリスクしかない。
ああ、くそ。俺は不良ごっこも出来ないのか。
夜の街に出られないのか。
荒れるにも、バイクの免許なんて持ってないしなあ。盗んだバイクで走る事も出来ないし、学校の窓ガラスを割る勇気もない。
自傷行為をする勇気もない。
……辛い。
そう感じ、俺はその場を後にした。
家に帰るとすぐに布団に入り、眠りについた。
眠たかったからか、すぐに眠ることができた。
翌日も学校は休んだ。母さんは何も聞かずに「分かった」と言ってくれた。
鏡花は心配そうな目を向けていたが、何も答えなかった。今の俺が恥ずかしいのだ。
彼女に振られたから、裏切られたから学校を休んだんだって。
スマホを開く。ラインのページに懐かしい名前があった。浦部一葉、俺の幼馴染だ。
四年間会っていない幼馴染。
別の中学に行ってしまったから、そのまま疎遠になった幼馴染。
今の状況と愚痴を送ってもいいものだろうか。
俺はすぐに首を振った。懐かしい幼馴染に、愚痴を送ってはだめだろう。
彼女と俺はとっくに疎遠になった。もう互いの人生を歩み続け、再び交わり合う事はない。
ただそれだけなのだ。
そ家でゲームをした。
カートレースゲーム、それにはオンライン対戦モードもあり、レート制度がある。
せっかくなら、ゲームを鍛えてやろう、と思った。
どんどんとレースをしていく。
だけど、満たされない。満たされることなどない。
ただただ……むなしいだけだ。
俺は叫んだ。負けるたびに腹が立つ。なんであそこでいいアイテムを引けなかったのだろう。なんであそこで、俺を攻撃するのだろうか。
俺以外を攻撃しろよ。マジで意味わかんねえ。
「あああああくそだろ。くそすぎんだろ。くそくそくそくそくそ、もう何もかもが嫌なんだよおおおおおおお」
声は下のリビングや鏡花の部屋まで響いているだろう。今、鏡花はビビっているだろう。だけど、ごめん許してくれ。俺にはこうすることでしかストレスを発散できないんだ。
俺はずるい。俺の事が、俺自身の事が嫌いになってくる。
三日ほどレースゲームをしてレートを500ほど上げたが、結局上位に入るためには、ショートカットを成功させなければならないと聞いて辞めた。
翌日からは格闘ゲームをした。
結果は変わらなかった。
暇になったので、外に出た。出る前にリビングを通った。すると、鏡花が母さんの背中に隠れた。ああ、そうだよな。こんな兄、怖いよな。
……ごめんな。
でも、ごめんって言っても……なんの説得力もないだろう。
外に出ると、陽の光に、俺は思わず目をつぶった。……もう四時だった。だけど、それなのに光は強かった。
光に焼かれそうだった。
こんなの漫画とかの比喩表現だと思っていたのに、実際に起こるのか。
そう言えば前に外に出たのは夜だった。
陽の日差しを……最近浴びていなかったな、なんてて思う。
だからこそ、光に弱くなっている。
……まるで今の俺はドラキュラみたいなものだろう。
何だろう。周りの人たちが歪に見える。なんだか、気楽そうだ。
思わず、道端の石を蹴る。なんでこんなに気楽そうに生きているんだ。
ああ、くそ、苦しんでいるのは俺だけかよ。
そして次の瞬間、少し恐怖を覚えた。もしかしたら周りの人たちは、俺の事を知っているのかもしれない。学校の人がいるかもしれない。流石に同級生でさえもクラスが別の人達は顔も知らない人が多い。
そんな中、
……もし……あの噂を知っている人がいたとしたら……
もしかしたら、全員理子のばらまいた噂を聞いて真に受けているかもしれない。
そんなはずもないのに、俺にはそんな懸念が見えてならないのだ。
……辛い。辛すぎる。
辛すぎてもう、消えてしまいたいとさえ思った。
……嫌いだ。
……俺は…………俺の事が嫌いだ。
妹の、鏡花を怖がらせてしまっている。
理子の事は信用していた。
そう、信用しきっていた。なのに、裏切られれてしまった。
辛いことしかない。
――その瞬間だった。
「あ、恭介じゃん」
学校帰りだろうか、理子に会った。
しまった。時間を間違えた。
下校生徒にあってしまうと、何で思いつかなかったんだろう。
今一番関わりたくない人だ。
……裏切ったのなら関わってくんなよ。話しかけてくんなよ!
「もう全員言ってるよ。あんたの事をクズって」
「……クズなのは……そっちだろ」
「聞こえない。こっちはあんたのせいで二年も無駄にしてんの。華のJKの時間を奪ったという自覚はないの?」
「っ」
ないとは、言えなかった。
そんな俺が悔しくて。
理子の圧に負けてしまっている俺が悔しかった。
俺は逃げ出してしまった。
……惨め。そう惨めだ。
理子とも向き合えず、対話することもなく逃げ出してしまうのが俺だ。
俺は何を間違えていたのだろうか。
俺は、もっと何か出来たことがあるのではないだろうか。
だけど、今それを思ったってきっと無駄なのだ。
現実は残酷だ。何も変わらない。
……それが今の世界だ。
俺は気が付けば小のふもとに来ていた。
川の水を救う。
そして水をパシャと、投げた。
その動作を数回繰り返す。
なんとなく楽しかった。現実から逃げられている気がして。
まるで、小学生の遊びだ。俺にはこれがなんとなく楽しかった。
だけど……いつまでもここにいてはいけない事は俺には分かっている。
どうしたらいいんだろうか、なんて答えのない問いを出す。
たぶん今世界で一番不要な人間は俺だ。
学校も行けてない。さらに勇気のない臆病者。妹も怯えさせている。
そんなやつに生きる資格なんてないのかもしれない。
死にたくはない。だけど、生きたくもない。
こんな地獄と化した世界なんて。
たぶん俺は……死ぬ勇気も得られずただただ生きていくしかないんだろうな。
何も変えられないまま、人にも必要とされないまま生きていくんだろうな。
そんなことを考えれば俺の中に眠る絶望はさらに増していった。
だめだな、俺は。
そして川から立ち上がる。
家には帰りたくない。
近くのカラオケに入り、歌を歌いながらオールをした。
しかしそれも上手く行かずに朝の五時に追い出された。
フリータイムとは言っても五時までだそうだ。
くそっ、8時くらいまで居させてくれよ。追加料金払うからさ。
……そうなればどうしようか。
スマホの電源は切ったまま。いや、充電はカラオケの中で切れた。
そのまま、早朝の朝に繰り出されることとなった。
死にたい。
死にたい、死にたい、死にたい、
死んでしまいたい。
今度こそ、俺に生きている勝ちなんて、本当に見えなくなってしまった。
「はは」数歩歩き、そこでへたり込む。
そこに座り込んで、ただただ時間がたつのを待った。
時間は何も解決してくれないというのに。
「――恭介君?」
これをかけられる。誰の声だろう。
そんなことどうでもいい。ねみぃ。
「恭介君??」
うるせえなあ。静かに寝かせてくれ。
「恭介君!!」
腕を触られ、そして引っ張られる。
俺はそのタイミングで目を開けた。
そこにいたのは、幼馴染の一葉だった。




