第二十八話 朝食の作戦会議
朝目を開けると、目に水分がたまっているのを感じた。目をこする。するとそこに水分がついていた。
「俺は泣いていたのか」
正直、寝たという感じがしない。
常に、寝て起きてを繰り返していたみたいな気分だ。それこそ、5回は寝て起きてを繰り返していただろう。常に夢心地な感じだった。
「あれ」
重みを感じた。
目をぱちくりとさせる。
何か上に重圧を感じるような。
気のせい、いや気のせいじゃない。
これは、上に誰かいる。
俺は、それを確かにしっかりと視線に映す。
「おはよ!!」
元気のいい声がした。
そこには一葉がいた。
「全然気づかないんだからさ」
気づかねえだろ。まさか上に一葉が乗ってるなんて思ってなかったんだから。
「ごめん」
「ふふっ許します」
一葉は腕を組みながら言った。
「それよりも、早く行かないとご飯食べる時間なくなっちゃうよ」
「そうだな」
あの悪夢。それよりも現実の方がいい。
可愛い自慢の幼馴染が起こしてくれるのだ。
それほど嬉しい事は他にないだろう。
「……ありがとう」
「何が?」
「最高の目覚めを提供してくれて」
俺がそう言うと、一葉の頬はぎゅんっと赤くなった。
そして、「最低!!」
なんて言われる。おかしいだろ。一葉からしてきたんじゃないか。
なぜ、文句を言われてしまうのだろうか。
訳が分からない。
一葉が「ご飯いってくる」と言った後も、呆然と座り込むのだった。
着替えと歯磨きを澄まし、リビングに行く。
正直俺は毎日朝ごはんを食べるわけではない。
うちのいえでは、朝に全員揃ってご飯を食べるという習慣はない。
鏡花は基本部活で朝早いし、父さんは家を早くに出るのだ。
そう言えばまだ一葉は父さんにまだあってなかったな、なんて思う。
多忙すぎて、中々会う機会がないのだ。
そして、食卓に着くと、そこには母さんと一葉と鏡花がいた。
「鏡花、お前部活は?」
「今日はサボった」
あっけらかんに彼女は言った。鏡花はいつも部活の朝練があるから、7時に家を出るのだが……
「さぼったらだめだろ」
「今のあたしの最重要感心ポイントはお兄ちゃんだよ」
そう、俺の目を真っ直ぐに見つめる鏡花。
そして一気に朝食の食卓が、重苦しい空気感に包まれていく。
「鏡花ちゃんは訊いているの?
「うん」鏡花は頷いた。「お兄ちゃんを地獄に落とした、あの人を許せないから」
そう、強い言葉で言う鏡花。そう言えば、鏡花は理子の事があまり好きじゃなかったはずだ。それどことか、若干の嫌悪の感情を向けていた。
それは、まるで――赤松に向ける一葉の視線のようだった。
……それはそう言う事なんだろうな、と思った。鏡花は、理子の本心を本能で理解していたのだ。
「なるほどな」
そう、俺は言った。
「なあ、一葉」
「なに?」
「昨日理子の事を先生に訴えるって言ってたよな」
「うん」
「一葉、昨日はどうやって学校を抜け出したんだ?」
俺らが休んでいたことは、母さんたちには伝わっていないようだった。それはつまり、先生が許可を出したという事だ。
「まあ、ばれたら仕方ないよね」
微笑みながら言った。
「昨日はしかるべき手段を使って早退したよ」
「なるほど」
つまり、俺が逃げてから一葉が来るまでに時間があったのはそう言う事だったのか。
それにしたって、
「ならさ、そうと言ってくれよ」
「学校をさぼるっていう罪悪感をスパイスしてみました」
あっけらかんと言い放った。罪悪感はスパイスなのか。
まあ、昨日の一葉は楽しそうだったし、何よりも昨日は俺も楽しかったのだけど。
「で、その時に先生には何か相談でもしたのか」
「してないよ」
「そうか、してないか」
「だから今日するんじゃん」
「ちょっといい?」手を上げたのは、鏡花だった。
「あたし気になることがあるんだけど」
そして、自分の髪の毛を軽く掻き上げ、
「先生って、相談して大丈夫?」
その言葉に俺と一葉は互いに顔を見合わす。
「ごめん、そんな深い意味はないんだけどね。でも、あたしのクラスで一回そう言う事が会ったの」
「なにが?」
「いじめが」
「なんだそれ、初耳なんだが」
「言ってなかったっけ。一回クラスの中でいじめがあったの。あたしは最初いじめの事を知らなかったの。でも、先生がクラスメイトの中に『八木さんがいじめを受けています』と後悔しちゃったから大変だったの。しかも、密告者の名前まで言って」
「ああ、なるほどな」
そういうケースはある。匿名でこっそりという理由は、いじめの被害者を増やさないためだ。しかし、その先生は頭が足りなかったのだろう。あっけなく、密告者の名前を伝えたのだ。
これが国同士の話ならば、スパイとでも思われてもいいくらい杜撰な行動という事になる。
「だから、先生を信用しすぎるのはいけないと?」
「うん」
鏡花は頷く。
「だけど、たぶんあの人なら大丈夫。そんな感じがするの」
一葉が言った。
「あの人は馬鹿じゃない。私たちを助けてくれる、と思う。まあ私の伝え方にもよるけど、釘をさしておくから。だけど、もう一つ問題があるの。……今の状況を伝えるだけじゃ証拠としては不十分。証拠が足りないの」
「確かにな」
動画は押収出来ていない。一葉もグループラインからは排除されているため、共有されている動画を見る事は出来ないのだ。
だが、恐らく今回はグループラインではなく、仲のいい人たちでのライングループなのだろう。見てわたってたのは主に理子と仲のいい人たちだったのだ。
「じゃあ、どうする」
「わたしに一つ考えがあるの」
「なんだ?」
「女子だからこそわかるの。本当に理子さんに掲載してる人はそこまで多くはないと思うの。ただ、理子さんに逆らえば酷いことになるって分かってるから従ってる人が多いと思う」
「あたしもそう思う。面倒くさいんだよね、なんか派閥とかグループとかがあって、凌ぎを削りあってるの。あたしは平和に過ごしたいんだけど、皆が喧嘩してるみたいな」
確かに。男子である俺はあまり気にしたことはない。しかし、確かにカースト制というものがある。
勿論元々インドの制度から取った言葉だが、実際にそういう重みがあると、聞いたことがある。
一度カースト下位に下がったら、もう二度と元に戻れないらしい。
「理子、あいつは俺に逆恨みしてるだけなんだ。もしかしたら、嫉妬してるのかもしれない。せっかく振ったのに、今楽しそうにしてる俺に」
口では言わないが、美人な幼馴染がいるということも。
「理子の仲間から。つまり、 『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』ということだな」
「お兄ちゃん、知ってるから変な知識アピールしなくてもいいよ」
くそ、これカッコ悪い行為だったか。




