第26話 ポップコーン
そしてポップコーンを手に持ち、映画館の中へと入っていく。
ちなみにポップコーンはペアセットだ。
なんとなく、カップルみたいになって気恥ずかしくなる。
そして、俺はポップコーンへと手を伸ばす。中に入っているポップコーン――塩味とキャラメル味だ――はどちらも美味しい物だった。塩味はちょうどいい塩味に、かかっているバターの香りがして、美味しく、キャラメルはその程よい甘みと、その硬い触感が好ましかった。
映画が始まる前のCMタイム。
その時間にポップコーンを少しずつ食べていく。
スクリーンに映る広告では、アメリカの戦争映画の宣伝がやっており、全米がまた泣いたらしい。
そんなスクリーンを真っ直ぐに見ていると、
「美味しいね」
声を細めて一葉が言った。
まだCMとはいえ、大声で会話をするのは迷惑だ。
「ああ、美味しいな」
頷いた。一葉は次々に口にポップコーンを加えていっている。
言葉の通り、美味しいと感じているらしい。
そして、俺は塩ポップコーンを取ろうとまさぐる。
それに合わせて一葉も塩ポップコーンを取りに行く。
「邪魔だよ」
「邪魔でいいじゃん。ペアセットだよ」
「今は俺が食べたいから」
「いいじゃん。私塩派だもん」
そして、一葉も引こうとはしない。
「……何だよ……」
二人でいっぺんに取ろうとしているせいで、狭い。
しかも取ろうとするたびに、一葉の手の甲が当たって、なんとなく照れる。
一葉の手は柔らかく、乙女の手なのだ。
「でも、美味しいね。あ!」
一葉が思いついたかのようにポップコーンを手に取る。
そして、俺の口に向け、一気に差し出し、
「あーーん」と言った。
今度はそれかよ。
「これっておい」
まさにカップルがやりそうな行動ナンバーワンだ。
「うん。あーん」
「駄目だろ」
今日の幼馴染の様子がおかしい。
やけに積極的すぎる。
「駄目じゃない。食べないと私辞めないよ」
「周りの目もあるし、辞めないか?」
「やめないよ。私がしたいからしてるだけなんだから」
そしてにっこりと悪戯な笑みをこちらに向けた。
これは恐らく拒否を続けていたら、面倒なことになる。
仕方がない。
「分かったよ。口に突っ込め」
「わーい」わざとらしい笑みを浮かべた一葉は、俺の口にポップコーンを突っ込んだ。
一葉の手に俺の唾液がついてないよな、と心配になる暇もなく。
「わたしにもやってよ」
「俺たちって幼馴染だよな」
「うん。ただの幼馴染だよ。でも、カップルしかやったらだめなんていう決まりないじゃん」
「無いけどよ」
される方もする方も、気になってくるのは周りの目だ。
それと俺の羞恥心が耐えきれるのかどうかという事もある。
だけど、俺はため息をつきながら、一葉の口にポップコーンを突っ込むのだった。
心臓がバクバクとしてる。今まさに映画泥棒が逃げているシーンだ。心臓の音を抑えなければ、映画に集中など出来ないというのに、それが一向に出来そうにない。
辛いな、なんて思う。
そして同時に思う事がある。
今日の朝のあの壮絶な出来事が記憶からだいぶ抜けてきている。これは一葉に感謝するべきことなのかな、なんて思った。
それからも、わざとかわざとじゃないかは分からないが、何回も一葉と手がぶつかり合い、なんとなく気恥ずかしい空気感が訪れる。
その度に一葉はくすくすと笑うのだ。
そして、映画が始まっていく。
今回の映画は未知なる敵が登場するのだ。それは、異世界人が転生したものなのだが、それを主人公を始めとする魔王軍は一向に気づかない。
そして、その敵は未知なる笑みを浮かべ、そして主人公たち魔王軍に対し、総攻撃を仕掛けるのだ。
映画の傍らに、隣の一葉の姿をちらちらと見る。熱中してみているようだ。ポップコーンはまだ残っていたが、もう一葉は手を付けていなかった。
その一葉の横顔、その茶髪の髪の毛がかかってるのを見て、少しつばを飲み込んだ。
少々見とれてしまった。一葉のさっきの謎の恋愛的な雰囲気に流されてしまっているのだろうか。
だめだ、映画を見なければいけない。
俺は、首を軽く振り、前を向き直した。俺は今日映画を見に来たんだから。
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「はあ、面白かった」一葉はご満悦そうな笑みで言った。
「ああ、面白かったな」
この作品は基本的に主人公無双系――所謂俺TUEEEー系作品であるのだが。
主人公の無双だけで、物語が終わらない様に、様々な工夫が施されているのだ。
そう、例えば、様々なピンチが同時に訪れるのだ。そう、例えばヒロインへの襲撃、例えば一般魔族への襲撃、魔王の師匠への攻撃、火山の噴火、そして、敵の首領の突入など様々なピンチを同時に演出してくれるのだ。
それを見ると、そのおかげで常にワクワクを感じられ、常に面白かった。
「ほんと、感謝だよ」
「え?」
「この作品をお勧めしてくれて」
「こちらこそ、付き合ってくれてありがとね」
その表情、言葉にドキッとしてしまう。
「照れないでよ」
「す、すまん」
「じゃあ次は」
「まだ行くのか」
「うん」
結局その日一日、一葉に振り回されることとなった。
その後は、一葉が服を買いたいと言ったのだ。
そのおかげで、一葉に似合う服を俺が探した。そして、一葉のファッションショーが始まり、俺が評する事になったのだ。
俺にファッションセンスなんて全くないというのに。
その次はアニメショップに来た。
「そう言えば一葉はどうしてこんなにオタクみたいになったんだ?」
ふと気になった。今一葉の持っている買い物かごには、フィギュアが入っている。
他にも、アクリルスタンドや、キーホルダ―、そしてライトノベルなどが入っているのだ。
「それを聞かれると困るけど、うーん。なんでだろ、あまり覚えてないや」
そう返された。
「でも、私が目覚めたきっかけはさ、恭介君が好きだったからだよ」
「え、はあ?」
急にぶっこむな。
「勘違いしてる? 告白じゃないから。勘違いしないでよ」
「なんだ、そう言う事か。俺がこういうサブカル系が好きだったからか」
「そう言う事!」
一葉は俺の背中を叩く。
「だから、君の影響なんだからね」
「悪かったかよ」
「ううん、悪くなんかないよ」
そう言って一葉は笑った。




