第16話 対面
「ただいま~」
そう言って鏡花が帰って来た。
一葉は小さく唇をギュッと紡ぐ。
緊張しているというのが、隣にいる俺にもまざまざと伝わってくるようだった。
「あれ、来てたんだ」
鏡花はそう言って一葉の顔をちらりと見る。
その表情は怖い物なんてなく、いつもの一葉の物だった。
「お邪魔してます」
と言った一葉(声が軽く震えている)に対して、
「うん。いらっしゃい」
と鏡花は笑顔で言ったのだった。
前回の件があったので、多少ひやひやとしていたが、どうやら大丈夫だったようだ。それを感じ、ほっと息を吐く。
もしかして、前回の物は気のせいだったのだろうか、なんて感じる。
「カレー」
鏡花は皿に盛りつけられているものを見て、呟いた。
「そう、二人も手伝ってくれたのよね」
「お兄ちゃんが?」
驚いたようなそぶりを見せる鏡花。
「意外なのかよ」
「うん。意外だった。お兄ちゃんってあまりそういうの手伝わないタイプだと思ってたから」
手伝わないタイプって、それクズってことじゃねえか。
「くそっ俺の周りからの評価そんなもんなのかよ」
何となくムカつく。俺って自分が思うよりダメ人間だったのだろうか。
「大丈夫だよ、私は恭介君の味方」
「ありがとう」
そう、一葉が言うと、
「イチャイチャなら二人でして」と、ため息交じりに鏡花が言った。
その言葉には多少のイライラが込められているように思えた。
それよりも今、鏡花イチャイチャって言った?
「お前の目にはこれ、イチャイチャしてるように見えてるの?」
「見えてるっていうか、そうにしか見えないでしょ」
吐き捨てるように鏡花が言った。
その表情もまた、イライラしているように見えた。
「てか、そんなの別にいいでしょ」
そして、ぷいっとそっぽを向いたのだった。
何だよ、とそう思うけれど、かと言って反抗する気もない。
そして、そのまま食事は進んでいくのであった。
その間、鏡花は常に不機嫌そうだった。
何かあったの、と訊きたい気持ちがあった。
けど、今まさに不機嫌な鏡花を前にそれを聞く勇気など俺にはなかった。
そこは、鏡花の自由にしてやるよりほかなかったのだ。
そして、俺たちは食事を済ました。その時、
母さんがばちんと手を叩いた。俺たちがそれを見ると。
「せっかくだから、一緒にテレビでも見ましょう」と言った。
「一葉は大丈夫なのか」
俺は訊いた。
あくまでもそれは一葉の意思次第なところがある。
帰るのが遅くなれば、少々心配になる。
というのも、一葉は女だ。女の子が夜道を一人歩くのは危険だ。
「大丈夫だとは、思うけど」
そうは言うものの、心配そうな口ぶりだ。それは当然だろう。俺が一葉の立場ならば、必ず心配になるだろう。
「恭介に送ってもらうしさ」
「なんで、そうなんだよ」
「遅くなった場合心配でしょ」
「大丈夫です。一人で帰れます」
数ががおずおずとそう、言い放った。
「でも心配だから、って遅くまでここにいるのはいいのね」
「別に構いません」
「分かったわ。じゃあ、見ましょう」
そして、そこからバラエティ番組、否漫才コンテストを見始めた。
なぜ、客人の前で見るのがこれなんだ、と母さんのセンスが心配になる。普通だったら、漫才なんて選ばないだろう。
勿論漫才を貶している訳ではない。だけど、どうしても気になってくる部分があるのだ。
鏡花が止めるかと思ったけれど、鏡花はどうやらノリノリらしい。鏡花は漫才を見るのが好きだったから、当然なのだろうか。
そして、そのままの流れで見て行くことになった。




