第13話 味方?
翌日学校に行くと、一葉が早速笑顔で、「おはよう」と話しかけてくれた。
そして、一緒に登校していく。昨日みたいに一葉に寒空の中待たせない様に、今日はしっかりと八時に集合することに決めたのだ。
学校までの道で一葉と二人様々な事を話していった。
「昨日ゲームありがとう」
一葉が早速言った。
「どういたしまして。俺も完成させてなかったからちょうどよかったよ」
「うん。また15回、お願いします」
「ああ、空き時間にやろう」
そして、学校に着くと、やはり周りからの視線は厳しかった。
だけど、一葉と一緒だという事実で、少しだけ嬉しくなってくる。
これは所謂一葉との共同戦線みたいなものなのだ。
それを感じるだけでうれしいという気持ちが生じてくるのだから、不思議なものだ。
隣の席に座った一葉が俺に話しかける。
「ねえ、恭介君」
「なに?」
「今日の放課後は家に行く? それとも別の所に行く?」
頬杖を突きながら一葉が訊いた。
「そうだなあ」どこがいいだろうか。
今日は家でもいい気もする。昨日一葉は、家に行けなかったことに少し不満気だったんだよな。
それに、今日は水曜日。
水金は家に来てもらって木曜日は外で遊んでもいい気もする。
土日はどうするかは未定だが、別に毎日会わなければならない訳ではない。
そこは自由にすればいいのだ。
と、その瞬間にふと、思ったことがある。
「そう言えば、訊いときたいんだけど」
「なに?」
「一葉の家に逆に来てもいいの?」
「それって、どういう事?」
「うーん、そうだな。お前に来てもらってばかりだから、今度はこちらから行こうかなって」
一方的に来てもらってばかりなのは正直性に合わん。何しろ、来てもらうということは、その分帰宅する時間が遅くなるのだ。当然だ。俺は解散時間になれば、その瞬間に家で自由時間を得られる。しかし、一葉はそこから家に帰らなければならない。
その分家にいる時間が短くなるのだ。
「……」
一葉は黙り込む。もしかしてよくない事を聞いてしまったのだろうか。
そうだとしたら、
「ごめん、不躾な事を聞いてしまったかも――」
慌てて、弁明する、と。
「恭介君の家に行きたいかな」
俺の謝罪は最後まで聞かずに、一葉はそう言い放った。
一葉の家には来て欲しくないって言う事なのだろうか。
一葉は一度引越しをしている。俺のよく知っている一葉の家は今存在していない。
それが関係しているのだろうか。
しかし、どちらにしても一葉が嫌がっているのに、強引に行くわけにはいかない。
困ったように言った『家に行きたい』という言葉。それを押しのけてまで一葉の家に行きたいわけではない。
「分かった。じゃあ今日も俺の家だな」
「うん。今日はご飯食べてもいいかな。久しぶりにおばさんのご飯食べたいし、鏡花ちゃんにも会いたい」
「そうだな。それが良いよ、でも、大丈夫なのか」
気まずい空気だったと記憶している。
「大丈夫でしょ」
「安直だなあ」
「いいでしょ。私はお気楽だから」
そう言って笑った。
昨日の鏡花の様子なら、大喧嘩などにはならないのかもしれないが。
そして、授業が始まっていく。その中で、真面目に授業を聞いていく。
理子の視線は感じたが、気にする必要はない。
いや、違う気にする方が負けなのだ。
理子を見るくらいなら一葉の整った顔立ちを見ていたいのだ。
そして昼休み。
「待ってるからね!」
そう言って一葉が屋上に向かう。俺が一緒に行かないのは、トイレに行きたいからだ。
そして、トイレに行こうとした瞬間。
「なあ、少しいいか」
そう、言われた。屋上に上がる前に言われたのだ。一葉は先に屋上へといっている。待たせたくはないのだけれど。
……もしかして、文句を言われるのだろうか。いや、たぶん確定だ。
間違いないだろう。
一葉を待たせたくないし、文句でも言われたら耐えきれなくなるだろう。
一葉がいない瞬間を狙って来るなんて、卑怯だ、なんて思う。
「ごめん」俺はおずおずと口を開く。「今は話したくない」
今はというか、未来永劫だ。
何しろ、話したら最悪な事になる未来しか見えないのだ。
「そんなこと言わないでくれ」彼はそう言った。「そんなビビらなくてもいいから」
ビビらなくてもいい。それはどういう事なのだろうか。俺が戸惑っていると、
「君は本当に、理子さんを裏切ったの?」
そう言われた。
その声は鋭い、感じがする。
「っ」
その問いを聞きたくはない。
心臓が強い鼓動を鳴らす。脇汗が流れていく。
ああ、俺は弱い。だけど、立ち向かわないといけない。
「裏切ってない」
俺にはそういうしかない。これが真実なのだ。
「裏切ってないよ」
むしろ俺は裏切られた側の人間だ。
「じゃあ、昨日の浦部さんの話は」
「本当だ。っ本当だというのもおかしな話だけれどな」
理子が一方的に裏切った。だけど、取り巻きたちに俺を叩かせようとしているのだ。
一葉の話に何の嘘もないし、全部が真実だ。
「分かった」
「分かった?」
「ああ、君の話が分かったという事だよ」
どういう事だ。ここはウソつけ!なんて言われる場面じゃないのか?
人に裏切られすぎて、疑心暗鬼になっている。
「信じてくれるのか」
「だからそう言ってんだろ」
そして、彼、赤松修吾は歯をむき出しにして笑った。
「っ」
本当に信じてくれるのか?
今、絶望的な状況にいる俺の事を。
「ありがとうございます」
「ありがとうじゃねえよ。しってると思うけど、俺は赤松修吾、よろしくな」
そう言って手を差し出してくる。
「ありがとう。でも、今はこの手を取らない方がいい」
「なんで」
「あいつが見てるから」
理子が見ている。
俺と関わったら理子に虐められるのは赤松君になるだろう。そうなれば、彼は絶望の中に堕ちてしまうだろう。
「大丈夫だ」
強引に彼は俺の手を取った。
「むしろビビってる方がおかしいっていう話だろうが」
そう言って赤松君は笑った。
しかし、その瞬間に理子の目がこちらをじろりとにらんだのを俺は見逃さなかった。




