第十二話 電話
そして、その後、
家に帰った瞬間に、一葉からメールが届いた。
『ねえ、恭介君』
『何だ』
『ライツストライクってやってる?』
『ああ、あれか』
最近話題のゲームだ。
アプリの売り上げを図るセールスランキング、所謂セルランでは、常に上位にいて、ガチャ更新期には圧巻の一位を取っている。
『それがどうしたんだ』
『一緒に周回クエストしてくれないかなって』
『なるほど』
たしか今イベントがやっている。所謂周回クエストだ。超絶高難易度クエストを確か20回クリアしなければ素材が集まり切らないのだ。
恐らくは、一葉はそれを集めたいと思っているのだ。
『いいよ』
『ありがとう』
メールだから、一葉の表情は分からない。
だけど、その向こうで笑顔で笑う一葉の姿が見えるようだった。
そして俺たちは食事を食べた後、通話を開始した。
プリュリュリュプリュリュリュ、電話の待機音が3回なった時、『もしもし?』と、一葉が出た。
「早速やろうぜ」
俺が言うと、『うん!』と笑って言ってくれた。
『じゃあ、私アポクリフォス出すから、恭介君はルシエルをお願い』
「ん、分かった」
両方環境最強レベルのキャラだ。互いに一体で、環境を一変させる力を持つ。
このゲームもそこそこガチっていてよかったなと思う。
こうして一葉を助けられるのだ。
思えば一葉に助けられっぱなしで、俺から一葉を助けたこと等ほとんどない。
だからこそ、今の状況は嬉しいのだ。
それに俺も、周回クエストはまだ手を付けていない。勿論終わらせるつもりではあったのだが、後回しにしていたのだ。
そして、互いにキャラを出し合ってクエストを続けていく。
このゲームは7年間続いている老舗ゲームだ。
だからこそ、最近のゲームのようにオープンワールドではない。
だけど、今もなおそのアクション性で人気であるのっだ。
――――
周回自体は中々上手く言っている、ように思えた。
何しろ、ミスはあるものの互いの連携でそれをカバーできている。
そのおかげでミスしても、中々大やけどはしない。
クエスト失敗にはならないのだ。
ちなみに今回の周回で素材を全て得る事が出来たら、その時は環境級のモンスターが手に入る。
降臨ボスというやつだ。これがこのゲームの所謂やり込み部分であり、人気足るゆえんだ。
敵の体力を吸収する、ドレイン能力が非常に強いのだ。
『これで、五週目ね』
と言いながら、一葉の声には疲労の色が見えていた。
一周15分かかるクエストがこれで5回。まあ、プラスアルファの時間も入れて、1時間半というところだろうか。実際に時計を見ても、それくらいの時間は経っていそうだ。
「これからどうする?」
俺は一葉に聞いた。
『これからって?』
「いったん休憩するかってことだ」
『休憩したい』
「御意」
そして、電話はそのままで、スマホゲームを一旦タスクキルをした。
休憩だ。
「そう言えば帰りに、あいつにあったぞ」
『あいつ?』
「理子」
その言葉に、『なんて、言ってた?』と、おずおずとという言葉が似合う感じで一葉が言った。
「大したことは言ってなかったよ。ただ『あたしに裏切られたのに、幸せそうにしてるのがムカつく』だってさ」
『それは、復讐? 成功だね』
「だな」
そして、二人で笑っていく。
「俺は今本当にお前に感謝してるよ。お前がいなかったらどうなってたか分からんしな」
『そうだね。自殺してたかも』
「自殺って、んな大げさな」
『いやでも、自殺しててもおかしくはなかったでしょ』
「まあ、それを言われたらそうだけど」
俺にはただ、自殺する勇気がなかっただけだ。
俺がもし命を無駄にできる親不孝者なら、自殺なんて言う真似も出来ていたのかもしれない。
だけど、それをしなくてよかったと、俺は今心の底から思っている。
命を無駄にするところだった。
「本当に感謝してる。それだけは、何があっても言い続けるよ」
『えへへ、そっか』
にっこりと笑って見せた。
そして、俺たちはそのまま雑談をして、通話をおえた。
結局休憩だけで終わってしまい、六度目の周回は出来なかった。だけど、それでいいと思ってる。まだ期間は2週間も残っているのだから。
楽しかった、と感じた。
俺はその後大の字になって寝ころんだ。楽しくて、時間がたつのが早く感じた。
二時間の電話が、ほんの30分程度の通話に感じられた。
『今日は楽しかったよ、ありがと』
そう、一葉から送られてきていた。それに、『俺も楽しかったよ』と返した。
★
『俺も楽しかったよ』そのラインを見て、嬉しいと感じた。私が集会に付き合って欲しいと言ったのを、迷惑じゃなかったという事を理解したからだ。
彼が気を使っていたのかもしれない。だけど、私はこれを彼の本心だととらえている。
というかそう、信じたい。
「はぁ」幸せが心の中からあふれ出す。あの日、恭平君に話しかけてよかった。見つけられてよかった。
そのおかげで、また恭介君と一緒に居られるんだもん。
楽しかった。
家に行けなかったのが残念だけど。でも、楽しかったなあ。
そして、私はベッドに寝転がり、熊のぬいぐるみを抱きしめた。
★
「お兄ちゃん、お風呂だよ」
その言葉に「分かった」と返した。
そして、そばに置いてあった籠――中にはタオルとパジャマが入っている――を手に取った。俺の家では、タオルなども個人で管理をするようになっているのだ。
そして、部屋から出ると、そこには鏡花がいた。
「お兄ちゃん、元気になったねえ」鏡花が感慨深そうに言った。
「お前にも迷惑かけたからな。怖かっただろ?」
「うん。怖かった。殴られるかと思ったもん」
「本当にごめん」
それに感じては罪悪感しかない。
「でもさ、あたしも不機嫌な日があんじゃん」
「あったっけ」
「会ったよ。部活で負けた人か」
「ああ」
妹の鏡花は、部活でバトミントンをしている。そのため、地区大会などに出てたりするのだ。
しかし、負けた時に一回癇癪を侵した火があった。よほど悔しかったのだろう。実際にその試合では、最終セット、そこで五点までは取ったが、最後、デュースでの敗北。後二回敵コートにボールを落とせばいい状況での敗北。食らいついたのに、最終的な敗北。
その時は悔しい気持ちがよく分かったから、何も言わなかったのだ。
そして、見守っていたのだ。鏡花が笑顔になる時を。
最終的に鏡花は1週間ほどで元気になった。その時は悔やんでても仕方がないと、自分に言い聞かせていたようだった。
「あの時あたしはお兄ちゃんに迷惑かけて、しかも謝ってないんだよ、ひどくない?」
「それに関しては謝る必要性を感じなかったからなんだけど」
「だけどさ、しれっと何もなかったかのようにしてるんだよ。最低じゃない」
「俺は最低だと思わないよ。なんて言ったら今の俺を擁護することになるけど」
「擁護させるために言ってんだよ。あたしは、怒ってるお兄ちゃんはあまり好きじゃなかったかもしれないけど、今のお兄ちゃんは好きだよ」
「ん、ありがとう」
気を使ってくれたのかもしれない。だけど、その言葉を訊けて少し罪悪感の枷は多少外せたかもしれない。
「ねえ、一葉ちゃんとはどうなの?」
「話してて楽しいよ」
「そう」そして、一瞬考えこむそぶりを見せて、「じゃあ、お兄ちゃんお風呂入ってきて」と、にっこりと笑ったのだった。
結局鏡花と一葉との間に何かあったのか、それを問う事は出来なかった。
だけど、その後に入ったお風呂は正直気持ちがよかったのだった。




