第六十四話 ふたたびダンジョン都市へ
翌朝、やっぱりという感じで出てきたオートミールを朝食で食べた。
おかゆと違ってまだらに茶色いし、べちゃっとした感じの割には噛み応えがあって、少し苦手だったけれど、食べ慣れたせいか、普通に食べられたし、美味しいと感じた。
とは言っても、宿の人からのサービスで、ベリーやナッツ入りだったことが、一番関係していると思う。
昨夜、面白い話を聞かせて貰ったお礼とのことである。サイエンさんに感謝だ。
ユーシンのオートミール評は、
「日持ちがするし、少しでもお腹が一杯になる。水でふやかしても良いから旅での食事には手軽で便利、これと干し肉があれば結構ゴキゲン。堅パンよりも美味しいと思う」だった。
食べ慣れてしまえば便利そうに思えるけれど、食事に関しては、冷めずに出来たてご提供なマジックバッグが大活躍中だ。
でも、いざという時の為に、マジックバッグに収納しておくのも良いかも知れないなあと思う。
「ダンジョン都市に行くとなると、この雲行きだと昼過ぎには雨催い※になるね。二時か三時くらいまでなら持ちそうだから、急げば降られずに済むよ」
宿の人からそんな助言を貰った。
この寒さの上に雨は敵わないと、少し速いペースで歩いた。
サイエンさん達は、パーティー名を決めたいなあと話をしていて、思い思いに、パーティー名候補となる名前を口にしている。
どうやらユーシンの叔父さん、ハクシンさんがサブマスターをしている「黎明の暁光」に所属する方向で話が進んでいるらしく、「黎明」もしくは「暁光」のどちらか一方を入れようか? なんて話をしていた。
「黎明」は夜明けとか、新しい始まり、始まるその時、「暁光」は明け方の光だから、「夜明けの光」みたいな意味になるはずだ。
オレ達のパーティーも格好良い名前があったら良いな。などと思いつつ、ちょっと思い浮かばない。
オレのネーミングセンスは、どうやら信用が置けないもののようだし、王子かユーシンに何か良い名前を考えて貰いたいものだけれど、「クツシタン団」とかは、さすがにイヤだなあ。などと考える。
王子はオレがひとり、にやっとしている様子に気付いて、にこっと笑いかけて来た。
そんな王子に笑顔を返しつつ、
「そう言えば、シニフィエが居ないけど、魔法は使えるの?」
そう聞くと、王子は笑顔になって、左手で何かを持つような仕草をし、顔を顰めて渋い顔をした後、それに向かって右手の人差し指をくるりと回してみせた。
王子の持っているのは渋柿。そして魔法……らしい。
王子は、左手の渋柿を、口を開いて驚いたよう見てから、横目でオレを見た。
そして渋柿をぱくっと食べる仕草だ。
王子は魔法で渋柿を干し柿にすることが出来るようになったらしい。
「ダイゴ、魔法で干し柿を作れるの?」
オレの質問に王子がすごく嬉しそうな笑顔で頷いている。
そこで皆に声を掛けて小休止の提案をした後、早速マジックバッグから渋柿を一個取り出して、王子に渡した。
シニフィエの簒奪の生き残り、最後の一個だ。
皆の見ている前で、王子はタクトをベルトポーチから抜くと、左手の上に乗せた渋柿に向けてくるっと回す。
その口元は何かの詠唱をしているように動くが、声はない。
すると王子の手の平の上で渋柿がゆっくり回り、浮かび始めた。
シニフィエの魔法と同じく、茶色っぽい光の粒が、渋柿から放出されては消えてゆく。
そしてそれが段々と少なくなって、最後に冷たい風だ。
王子の手の平に落ちた渋柿は、飴色に変わり白い粉が吹いている。干し柿完成だ。
皆から「おおーっ」と声が上がる。
それに応じるかのように、王子が優雅にお辞儀をしている。
折角の王子謹製の干し柿なのだ。早速食べようという話になった。
ケイトさんから紅茶セットの要望があり、マジックバッグから取り出して渡す。
ジョウンさんは小さな焚き火を作っている。
オレはマジックバッグから小皿を取り出して、王子から渡された干し柿を折りたたみ式のナイフで切り分けた。
八等分にしたので、一人二口ぶんくらいのサイズになってしまったけれど、お茶請けとしては丁度良い感じがする。
紅茶の完成を待ってから、まずは生産者の王子に小皿を差し出す。そしてサイエンさん達、ケイトさんとユーシンに配った。
皆が手に干し柿を持って、王子を見ている。
王子は微笑んでからぱくりと食べて、にっこりと笑った。
どうやら大成功らしい。
王子がオレ達のほうに力強く親指を立ててみせた。
全員で王子に「いただきます」と声を掛けて食べる。
これは美味しい。口の中に広がる甘味は幸せの味だ。
こっちの世界でいろいろと美味しい物を食べたけれど、これは文句なしに一番だろうと思う。
皆が口々に美味しいと誉めるなか、
ベルさんが「これは売れるわね……と言うか買いたいくらいね」と絶賛している。
ケイトさんも「これがあの渋柿なのか……」と驚いていた。
確かにあの渋さを知っていれば、同じものだなんて思えない。
しかし商売か……
王子とユーシン、そしてケイトさんとシニフィエで、屋台を引いて冒険をしながら商売をする。
それも良いなあと思う。
干した食べ物と言えば、他には干し芋、あれも美味しいし、干しシイタケとか干し貝柱、魚の干物とか、干し肉以外にも結構な種類があるはずだ。
美味しい干物に囲まれた、異世界乾物屋さんも悪くないぞ。と思う。
そう言えば、確かタクアンも最初に干すはずだ。
味噌漬け、粕漬け、西京漬け。漬け物も良いな。
魚だけじゃなくて牛肉とかでも出来るはずだ。などと考えていたら、炊きたてご飯が無性に食べたくなってきた。
屋台でおかゆが売っていたから、ご飯もきっとあるはずだ。
ご飯があれは炒飯とかピラフとかカレーライス、夢が広がるなあと思う。
ふと、王子がオレの顔を問い掛けるように見ていることに気付き、笑って誤魔化す。
そんな楽しい休憩の後、次第に高まる雨の気配に歩くスピードも上がり、お昼も歩きながら食べて、二つの塔が見えてからは走った。
そうしてなんとか雨に降られずに、二時過ぎにダンジョン都市に到着した。
昼だと言うのに朝よりも寒くなったようだ。
城門前の行列に並び、門衛の兵士の人からチェックを受けた後、早速クランが貸し切りにしている宿屋へと向かった。
クランの拠点の宿には、東のダンジョンの案内をしてくれたユータスさんが居た。
ユーシンの叔父さんもダンジョンから戻って来ていて、カトーさんたちと会議中とのことだ。
そこで、まずはサイエンさん達の荷物をマジックバッグから取り出して渡した後、食堂の一角を借りて、新しいダンジョンで手に入れた魔石について確認することにした。
サイエンさん達と一緒に行動した日の分の魔石を等分し、オレ達だけの日の分はケイトさんとシニフィエも含めて五等分する。
ダンジョン初日、ケイトさん悪夢の暴走時の魔石は、ケイトさんがすべてサイエンさん達に渡していた。
なのでその後、一緒に行動した二日目と、呪いの魔剣封印のために十二階層まで行って地上へ帰還した五日目と六日目、そして最終日となる七日目が団体行動分になる。
山分け分の魔石を入れた靴下をマジックバッグから取り出すと、ずしりと重い。
一緒に入れて置いたノートの切れ端メモを確認する。
ゴブリンと上位ゴブリン、そしてコボルトの魔石がごっちゃになっているので、このまま買い取りをして貰った後に、九等分することにした。
サイエンさん達と分かれて行動した三日目と四日目で討伐したゴブリンの魔石は、合計百三個だった。
こっちも正確な買い取り金額は分からないけれど、ゴブリンがすべて上位ゴブリンで、一個銀貨三枚(三千円相当)として計算すると、三十万九千円相当。五等分すると一人あたりで六万円とちょっとになる。
これだけでも結構な稼ぎだ。
さらに全員での山分け分が加算されるから、新しいダンジョンまでの旅費や、ケイトさんに買って貰った食料などを差し引いても、しっかり黒字になりそうだ。
その上、宝箱から見つかった脇差しと大太刀がある。
まだ雨が降り出していなかったので、王子とユーシン、そしてジョウンさんに付き合って貰い、急いで冒険者ギルドへ行き、魔石の買い取りをして貰った。
オレ達のパーティーの分は金貨二枚と大銀貨八枚(二十八万円相当)。
この二十八万円をケイトさんとシニフィエを入れた五で割ると、五万円足す三万円割る五の五万六千円になる。
全員山分け分は金貨五枚と大銀貨四枚(五十四万円相当)。
全員の山分け分は九の倍数、つまり一人六万円なので、それを合計すると、オレ達パーティーに関しては一人、十一万六千円となる計算だ。
因みにケイトさんが実験と称して魔力の糸で切ったゴブリンの魔石は、やっぱり買い取り不可だった。
しかし捨てるのも勿体ないのでマジックバッグに仕舞う。
思い返してみると、なかなかにハードだったとは思うが、王子は魔法に習熟したし、弓の攻撃も凄い。
ユーシンは新しい武技スキル、「シールドバッシュ」を覚えた。
オレも動けるようになったし、何よりドラゴンの魔石代わりとなる放出魔素の収納魔道具、クツシタンを手に入れた。
レベルアップのための魔素のことを考えなければ、今回の冒険旅行は大成功と言って良いように思う。
そんな訳で、笑顔の王子とユーシンに促されて、屋台に寄り道してから、降り出した雨に追い立てられるように、走って宿へと帰った。
「雨催い」は、雨がすぐにも降り出しそうな空の様子です。
そう言えば前話のクリームシチュー、というかホワイトソースに白味噌を隠し味で入れるとグレードアップします。ちょっとですよ。
赤味噌だと色が白ではなくなるのと、甘さよりもしょっぱさが目立つかもです。




