第六十五話 ふたたびダンジョン都市へ その2
宿へと帰ると、ケイトさん達は食堂でティータイム中だった。
「ただ今戻りました。これはお土産です」
オレはそう言って屋台で買った丸い揚げ菓子を、王子とユーシンと一緒に、お皿の上に載せて提供する。
ころっと丸いイチゴサイズの揚げ菓子は、一袋十個入りが銀貨一枚(千円相当)だったので、三人で一袋づつ買ったものだ。
ユーシン曰く「これは絶対美味しいヤツだ」とのことだったので、ちょっと奮発して購入を決めたのだ。
空いている席に腰を下ろすと、ケイトさんが追加で紅茶を注文してくれたので、紅茶を待ちながら、冒険者ギルドで買い取って貰った魔石の代金についての報告をした。
まずはサイエンさん達の山分け分、金貨二枚と大銀貨四枚(二十四万円相当)をベルさんに渡す。
旅費と食費については、ケイトさん持ちで良いとのことだった。
これでオレ達のパーティーに関しては、一人あたり金貨一枚と大銀貨一枚、銀貨六枚(十一万六千円相当)の魔石報酬となることが確定した。
ケイトさんに金貨一枚と大銀貨一枚、銀貨六枚を渡した後、王子とオレがそれぞれ金貨一枚をユーシンに渡す。
ユーシンが出世払いとしてケイトさんに借りていた金貨七枚(七十万円相当)に充当して貰うためだ。
ユーシンの借金は、運送報酬の山分け分となる金貨四枚と、今回の冒険で得た三人分の金貨で消える。
オレと王子に対して金貨一枚づつの借金とはなるが、ケイトさんの脇差し分で、すぐにも返済可能になるはずだ。
そう言えば大太刀はどうするのだろうか?
確かケイトさんの予備武器という扱いだったはずだ。
ベルさんによると、付与魔法が二つ掛かっていて、最低でも金貨五、六十枚(五、六百万円相当)、付与された魔法強度によっては、その五倍になるという話だった。
そこで、もちっと美味しい揚げ菓子を食べつつ、ケイトさんに聞くと、大物用の予備武器扱いで良いらしい。
鞘を魔力の糸で後ろに引っ張って、居合い抜きにするのはビジュアル的に格好良くない。
脇差しは刀身が短いから魔物との間合いがより近い、それこそ額を付き合わせるような距離で使うことになるが、短い分だけ取り回しがし易く、ダンジョンや木立、屋内での使い勝手が良いとのことである。
「だから、大太刀はハクブンが使いたければ使って良いぞ?」
そう言われたが、切る感触もそうだけれど、大太刀は重くて長い。
扱うにはレベルアップとか付与魔法が必要だと思う。
オレがそんなことを考えていると、
「ちょっと訓練が必要だし、適性の問題もあるけど、パワーの付与魔法を習ってみない?」
ベルさんが王子にそう聞いている。
王子は笑顔でこくこくと何度も頷き、やる気満々のようだ。
そんなところにクランの会議に参加していたカトーさんが顔を出した。
「七十階層のボスはどうなった?」
ケイトさんの質問に、カトーさんは首を横に振っている。どうやら未だに討伐出来ていないようだ。
カトーさんの話によると、オーガキングの転移によるダンジョンの浅い階層への出現が危険だと判断されて、クランの七十階層攻略計画は中断されたままらしい。
今も会議中だけれど、転移魔法を封じ、その上で討伐する為の良いアイデアがない。
ダンジョンを探索する冒険者達の間で、オーガキングの転移の噂も聞かれるようになってきた。
このままだと大赤字になるが、再度の討伐に失敗して、低い階層への転移による人的被害が出ると、クランの評判を傷つけることになるから、今回の遠征を中止にする可能性が高いらしい。
階層ボスモンスターの討伐では、魔石やドロップアイテムの他に宝箱も出現する。六十階層のボス、オーガジェネラルは魔剣や魔槍、付与魔法がされたローブ、そして金貨が五百枚以上あったとのことである。
金貨五百枚ならば五千万円以上だ。
この宿の貸し切りもそうだし、クランの遠征費用がそのまま赤字になるわけだから、かなりの損害になるのだろう。
カトーさんは渋い表情をしている。
「上手く行きそうなアイデアがあるんだが、まだ会議中なんだろう? ちょっと参加させてくれないか?」
ケイトさんがカトーさんにそう聞いている。
おそらく、ワイヤーロープ型の魔力の糸を使うというアイデアだと思う。しかし切れないのかは、実際にやってみないと分からない。
もしも強化した糸ですらも切れてしまえば、大問題になる可能性がある。
そんなオレの心配をよそに、ケイトさんはクランの対策会議に参加することになり、カトーさんと連れ立って、会議をしている部屋へと向かった。
その後、バイキング形式の夕食を御馳走になった。
今夜のメニューも盛り沢山だ。
レタスにブロッコリー、カットしたゆで卵、エビやブラックオリーブ入り、白っぽいドレッシングが掛かった、具沢山のシーザーサラダが美味しい。
今回の冒険でしっかり野菜を食べたのはベルさんのサラダくらいだった。
こっちの世界に来てからあまり野菜と縁の無い食生活を送ってきてしまったせいか、身体が野菜を欲しがっていたようで、王子と一緒にお替わりをした。
オウルさんに聞いたところ、近くに海はないから、エビはダンジョンのドロップ品だろうとのことだった。
同じテーブルにはタバスさんも居て、ベルさんが新しいダンジョンの地図を見せている。
オレ達も八階層と九階層の地図が完成しているので、それを見せに行った。
タバスさんから「写しを作って良いか?」と聞かれたので、笑顔で「もちろんです」と答えた。
* * * * * * *
翌朝、クランの会議に参加していたケイトさんから話を聞いた。
やはりワイヤーロープ型の魔力の糸での捕縛という話だったけれど、その他に、転移魔法のクツシタンへの収納というアイデアがついていた。
つまりオレと王子、そしてユーシンが、オーガキングの転移魔法をクツシタンに収納して、転移を未然に阻止する。というものだ。
転移魔法は、本来巨大な魔法陣と大きな魔力があって初めて行使出来るようなものであり、この世界でも魔法陣なしで使えるのはオーガキングだけ、つまり固有魔法のような扱いらしい。
果たして放出魔素を魔力へと変換して収納出来るクツシタンに、転移魔法が収納出来るのか?
これは実験をしてみないことには分からないので、転移魔法が使えるシニフィエの帰りを待つと決まったらしい。
また、クランの魔法使いの人の話だと、ファイヤーボールのような攻撃魔法も、クツシタンに収納出来る可能性があるらしい。
これもシニフィエに確認することになったようだ。
お使い中のシニフィエは、あと二、三日で帰還の予定だから、それまでオレ達はクランの客分として滞在することになる。
ユーシンはやっと、叔父さんとの再会を果たした。
ユーシンの叔父さん、ハクシンさんは、ユーシンを二回りほど大きくしたような、がっしりとした体付きで、その迫力はギルド長並だ。
親戚だからか、顔も似ていて優しそうだ。そしてにこにこと朗らかだ。
「ユーシンとパーティーを組んでくれているんだって? ありがとうな」
オレと王子に対して、そんな言葉を掛けてくれた。
それからユーシンに右手を差し出させて、
「手の皮も厚くなってきたし、マメも出来てきたな。その調子で頑張れよ」とエールを送っている。
手の平のマメか……
ハクシンさんの言葉に、オレも自分の両手を確認すると、手の平の皮も厚くなっているし、左手の親指の付け根あたりや手の平にマメもある。
ちょっと痛いと思ってはいたけれど、これは努力の証しなんだと思うと嬉しくなった。
王子に手の平を向けてにっこりと笑う。
オレの手の平を触って笑顔を作った後、王子も自分の手で確認するが、特にマメなどはないようだ。
ちょっとがっかり顔をしている。
「弓でマメが出来るのはヘタっぴな証拠だ。ダイゴの手の平が柔らかいのは誇って良いぞ」
ジョウンさんからそう言われて、王子は笑顔でオレに手の平を見せびらかせている。
剣は柄を持って振るからその動きのなかで、どうしても擦れが生じる。
対して弓を持つ弓手は、正しく握って射ていれば、力が均一に掛かるのでマメが出来ない。とのことだ。
そして今日の予定だが、ケイトさんは新たなオーガキング討伐計画を策定するためのクラン会議に参加。
オレは王子とユーシン、そしてサイエンさん達に協力して貰い、三人で西のダンジョンで渋柿の収穫を行うことになった。
シニフィエの成功報酬は渋柿二十個だったけれど、オレが約束したのは百個だ。
ちょっと頑張らないとな。と思う。
王子はベルさんに付与魔法を教えて貰う予定となる。
脇差しと大太刀の鑑定はクランに任せることになったらしい。
ケイトさんから大太刀のリクエストがあったので、マジックバッグから取り出して渡した後、サイエンさん達と西のダンジョンへと出発した。
この春大学生や専門学校生、社会人となって一人暮らしを始められた方の中には、あと数ヶ月もすると、ある日突然、猛烈に何か特定の野菜が食べたくなる経験をする人も居ると思います。
これは身体からの「この栄養素が足りないよ」と言うサインなので、そのサインに素直に従ってください。
若い頃の必須栄養素は文字通り必須です。そして、そんなサインが出るならば、普段の食生活の見直しをお勧めします。




